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アイドルとは!  作者: Aramaki_mai
第四章 選ばれる四人
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第42話 踊ってるところ

挿絵(By みてみん)

最初の音が鳴った。客席の前方で、紫のペンライトが何本か高く上がる。その近くに赤、黄、青。眼鏡くんは今日も青を持っている。少し離れたところにはタンクトップくん。鉢巻くんもいた。見慣れた顔は、広い客席の中でもすぐ見つかった。


けれど、その周りにいるのは知らない人の方がずっと多い。別のグループの名前が入ったTシャツ。首から掛けたタオル。コートを腕に抱えたまま友達と話している人。何も持たず、ステージを眺めている人。スマートフォンを下へ向け、次のタイムテーブルを確認している人までいる。


さっき聞こえた声が、アンの耳に残っていた。――紫って、ニュースに出てた子じゃない?


客席の右側に、あの二人組がいた。一人は腕を組んでいる。こちらを見てはいるけれど、隣の友人との話もまだ続いていた。アンは口元を上げた。


来たなら見ていけ。声には出さず、最初の位置へ入った。


ナツの歌が始まる。いつもの箱より、客席が奥まで続いていた。前だけなら知っている顔がいる。そこから先へ視線を伸ばすと、知らない顔ばかりになる。


ナツが前へ出て声を伸ばすと、客席の中央で話していた女の子が会話を止めた。振付の途中でアンがそれを見つけたときには、まひるはもう少し奥の客を見ていた。


何も持っていない男が、片手だけで曲に合わせている。次の振付でまひるの腕がそちらへ伸び、顔も男を向いた。身体の動きは変えていないのに、男は自分の胸を指し、まひるが笑うと、さっきより高く手を上げた。


ああいうのを見つけるのだけは、本当に速い。アンが正面へ戻ると、リオが前を抜けて中央へ入った。まひるは後方へ回り、ナツが空いた場所へ入る。その動きに合わせて身体を返し、四人で足を止め、腕を揃えた。


ぱん、と前方とは違うところから拍手が聞こえた。アンは一瞬だけそちらを見た。誰が叩いたかは分からない。けれど、最初にはなかった音だった。


*


一曲目が終わった。


「ありがとー!」


ナツが手を振る。


「ナツー!」


「リオー!」


「まひるー!」


「アンー!」


名前が飛ぶ。タンクトップくんの声だけは、人が多くても妙に分かる。その後ろからも拍手が返ってきた。


全員ではない。スマートフォンを見ていた男が友人へ画面を見せる。二人で何か確認すると、そのまま後ろへ抜けていった。次の会場へ行くのだろう。アンは背中を一度だけ追い、右へ目を戻した。


あの二人はまだいる。腕を組んでいた女性は、いつの間にか両手を下ろしていた。隣との会話も止まっている。アンがそちらへ片手を上げた。女性が友人を見る。


「え、今こっち?」


口がそう動いた。アンは笑った。女性の目が少し丸くなる。次のイントロが始まり、アンはすぐに位置へ戻った。


*


二曲目。始まってすぐ、ステージ横からカメラがこちらへ向いた。イベントの記録用らしい。


レンズが自分へ来た瞬間、アンは顔の角度を変えて笑った。次の拍には視線を外し、客席へ戻す。


客席に残った別の男は、スマートフォンを下で覗くのをやめ、ステージへ向けて構え直していた。別グループのTシャツを着た女性が、ナツの腕の動きを一度だけ真似する。隣の友達に何か言われたのか、すぐに笑って手を下ろした。


「アンー!」


右から声が飛んだ。いつもの紫だ。アンはすぐ見つけ、指を向ける。その隣で、何も持っていない客まで笑った。


間奏。アンが前へ出る。歓声が少し大きくなった。あの二人組も見える。もう喋っていない。二人ともステージを見ていた。


アンは一瞬だけそちらへ目を向ける。次の拍。身体を返す。口元が上がったまま、次の振付へ入った。


*


二曲目が終わると、袖のレイが次を示した。ナツが気づく。


「次、あれだね」


「うん」


まひるが少し身を寄せた。


「『シュガー・ステップ』?」


「そう」


アンはマイクを持ち直し、客席を見る。


「これ、知ってる人いる?」


イントロ。


「あっ」


客席のどこかから声が上がった。まひるがすぐそちらを見る。


「知ってる!」


今度は別の場所だった。少し遅れて、さらに何人かが顔を上げる。アンは笑った。


「じゃあ、一緒にやって!」


四人が横へ広がる。まひるが右足を踏み出した。肩を返す。胸の前で重ねた手を、左右へひらく。何度も撮った振付。何度も投稿した。前方の常連は、最初から迷わず動いた。


アンはその後ろを見る。


一人。二人。もう少し後ろに三人。五、六――。


中央にいた女の子が、まひるとは逆の方向へ足を出した。


「あっ」


隣の友人と肩がぶつかる。二人で吹き出した。次で直そうとして、今度は二人とも一拍遅れた。


その後ろでは、男が周りを見ながら腕だけをひらいている。さらに奥。別グループのTシャツを着た女性が、小さく肩を返した。さっき、ナツの動きを真似していた人だった。


次の振付へ入りながら、アンはもう何人まで数えたのか分からなくなっていた。右と左を間違える人もいれば、足を動かさずに腕だけひらいている人もいる。恥ずかしくなったのか途中で手を下ろした人は、友達に何か言われ、今度はわざと大きく動き始めた。同じ振付なのに、一人ずつ全然違った。


「アン!」


名前が飛んだ。アンはすぐ紫を見つけ、笑って返す。その直後だった。


「まひるー!」


もっと大きな声が上がった。一か所ではない。青い光が何本も揺れる。まひるがそちらを向くと、もう一段、声が増えた。


「あの子だ!」


「シュガー・ステップの子!」


アンにも聞こえた。まひるは返事をする代わりに、振付を逆に覚えている男へ向かって、同じ動きをもう一度大きく見せていた。男が直す。まひるが笑う。また歓声が上がる。


やっぱり強い。


次の位置へ入ると、アンの視界の端を青が何本も通った。右側には紫もある。そのさらに後ろで、あの女性が友人と腕を動かしていた。まだ向きが怪しい。


アンはそちらへ身体を向け、次の振付だけ少し大きく見せた。女性は一度、隣の友人を見てからアンへ目を戻し、同じ方へ腕をひらく。アンももう一度ひらくと、向こうが笑った。


曲が終わり、今日一番の拍手が返ってきた。


*


次のイントロは、リトルフレアの持ち歌だった。さっきまで動いていた客の何人かが手を下ろした。知らない曲なのだ。


後方の一人がスマートフォンを見て、隣の友人へ向けた。二人が出口へ歩き出すと、別の出演者のタオルを持った男も続く。もう一人、さらに一人。アンの目はその背中を追い、一人、二人と数えかけた。


その先で、さっき左右を間違えて笑っていた女性がこちらを見た。まだいた。友人も。何も持っていなかった男もいる。あの二人も、その場所から動いていない。


「まだ声出せるー?」


アンはマイクを客席へ向けた。


「いけるー!」


前方から、すぐに返ってくる。タンクトップくんの声が飛び抜けて大きい。まひるが隣で吹き出した。アンも笑いそうになりながら歌へ戻る。


次のサビ前。もう一度、客へ声を投げる場所が来た。今度は前ではなく、その向こうへマイクを向ける。


「まだいけるー?」


「いけるー!」


さっきより広かった。客席の中央で、何も持っていなかった男が一拍遅れて口を開いている。大声ではない。隣につられただけかもしれない。それでも声を返していた。


さらに右。あの女性も、友人と一緒に何か叫んでいる。何を言ったのかまでは聞こえない。


アンは最後のサビへ入り、中央へ出るリオを見た。仲間の間を抜けて決められた位置で止まる、その後ろからナツの歌声が伸びる。まひるが客席の奥へ腕をひらいたので、アンも反対側へ伸ばした。


前方では、赤、黄、紫、青が揺れている。その後ろに、何も持っていない手までいくつか上がった。


最後の音で四人が止まると、一瞬遅れて拍手が押し寄せた。ステージへ出てきたときより大きかった。


アンは息を整えながら客席を見る。途中で出ていった人はいる。最後まで腕を組んだままの人もいる。何も持たず、拍手だけしている人もいる。


アンの目が右へ動いた。あの女性と目が合った。向こうが少し驚く。それから笑って、拍手を続けた。アンも笑い返す。三人の横へ並んだ。


「ありがとうございました!」


四人で頭を下げる。顔を上げたときには、もう人が動き始めていた。次の出演者を見るため前へ詰める人。スマートフォンを確認しながら出口へ向かう人。隣の友人と、今のライブについて何か話している人。


その中で、あの女性はまだ同じ場所にいた。今度は友人ではなく、アンを見ていた。


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