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アイドルとは!  作者: Aramaki_mai
第一章 誕生
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第13話 四人になる

挿絵(By みてみん)


六月最後の土曜日、歌舞伎町のいつものライブハウスへ着くと、レイはもう佐伯の手伝いに回っていた。ピンクの衣装ではなく、黒いパーカーにパンツ姿で、首からスタッフ用の札まで下げている。佐伯の横で出演表を覗き込み、何か確認したと思った次の瞬間には楽屋へ入ってきて、床に広がった四人の荷物を見て顔をしかめた。


「アン、鞄そこに置かない。人通るから」


「いつも置いてるじゃん」


「今日はそこスタッフ通るの。壁に寄せて」


「レイ、もう完全にそっちの人じゃん」


ナツが笑うと、レイはすぐに振り返った。


「違うから! 今日だけ佐伯さん手伝ってるだけ!」


「首からそれ下げて?」


アンがスタッフ札を指さす。


「必要だから借りてんの!」


「似合ってますよ」


ひよりが言うと、レイは一瞬だけ黙った。


「……そう?」


「そこで嬉しそうにしないでよ」


ナツが吹き出す。


「してない!」


声だけは、ステージに立っていた頃と何も変わらなかった。ひよりは笑いながら鏡へ向き直り、胸元の青いリボンを整えた。今日は、四人になってから初めてのライブだった。三週間かけて、八人用だった振付を佐伯やリオを中心に少しずつ組み直してきた。誰がどこへ入るのかは、もう身体に馴染み始めている。だから緊張していないつもりだった。


「アンは?」


背後からレイの声が飛んだ。ひよりが鏡を見ると、さっきまで隣にいた紫の姿がない。


「飲み物買いに行きました」


「いつ?」


「ちょっと前」


「もう出番十分前なんだけど!」


レイはそう言った途端、扉を開けて廊下へ出ていった。ナツが肩を揺らす。


「ほんとに働いてるね」


「本人に言わない方がいいですよ」


「なんで?」


「怒るから」


「まひる、分かってきたねえ」


「何がですか」


数分もしないうちに、廊下からレイとアンの声が近づいてきた。


「だから、出番前に消えない!」


「消えてないって! 自販機行っただけ!」


「十分前!」


「まだ十分あるじゃん!」


「十分しかないの!」


扉が開き、レイに背中を押されたアンが戻ってくる。手にはきちんとペットボトルが二本あった。


「ほら、ナツの分も買ってきたんだけど」


「ありがとう」


「アン!」


「何でナツは受け取るだけで怒られないの?」


「今そこじゃない!」


リオが堪えきれず顔を逸らした。ひよりも笑ったところで、レイがこちらを見る。


「まひるも笑ってないで。リボン曲がってる」


「え?」


胸元を見るより早く、レイが近づいて留め具へ手を伸ばした。一度外して布を整え、位置を少し上げて留め直す。


「はい。これでいい」


「ありがとうございます」


「次から自分でもちゃんと見なさいよ」


「はい」


「その返事、絶対分かってないでしょ」


「分かってますって」


言い返しながら鏡を見ると、青いリボンは確かにさっきより真っ直ぐになっていた。


レイはもう次のことを気にしていて、四人の飲み物が揃っているか確かめたあと、廊下へ顔を出して佐伯に何か聞いている。ステージには戻らなかった。それでも、この場所からいなくなったわけでもなかった。


*


出番が近づき、ひよりは舞台袖から客席を覗いた。最初に見つけたのは、前方で揺れている一本の青だった。眼鏡の男がいつもの場所にいて、その少し後ろにはタンクトップ姿の男もいる。赤、黄色、紫も見えたので、思っていたより客がいることに少し安心した。


けれど、見ているうちに何かが違うと気づいた。隙間が多い。前の方はそれなりに埋まっていても、後ろの壁際には以前より明らかに空間がある。そして客席を彩っていたピンク、白、緑、オレンジが、ほとんど見当たらなかった。


「やっぱ減ってるね」


隣からアンの声がした。ひよりはカーテンから少し顔を戻した。


「やっぱり?」


「そりゃそうでしょ。推しが卒業したら来なくなる人だっているし」


アンは平気そうに言ったが、その目は客席を見たままだった。


後ろの方には、見覚えのある鉢巻の男もいる。以前は色のついたペンライトを大きく振っていた気がするが、今日は腕を組み、電源を入れていない一本を手に持っていた。


「全員そのまま残ってくれる方がおかしいよ」


「……そっか」


「何、その顔」


「いや。分かってはいたけど」


リサが卒業し、ミオとユナがいなくなり、最後にレイまでステージを降りた。人数が半分になったのだから、客席だけが以前と同じはずはない。それでも実際に空いた場所を見ると、練習場で四人になったときとは違うものを見せられた気がした。


「まひる、そろそろ」


リオに呼ばれ、ひよりはカーテンから離れた。四人が舞台袖へ並ぶ。赤いリオ。黄色のナツ。紫のアン。そして自分の青。以前なら、この並びの前にも後ろにも誰かがいた。今は隣の顔を一度見れば、全員を見渡せる。


佐伯が四人を確認した。


「準備いい?」


「はい」


リオが答えると、ナツとアンも続いた。ひよりも頷きかけたところで、後ろからレイの声が飛んできた。


「アン、終わったら勝手にどっか行かないでよ!」


「まだ言ってんの!?」


「物販あるから!」


「分かってるって!」


「返事!」


「はいはい!」


「二回言わない!」


「始まるよ!」


ナツが笑いながらアンの肩を押した。その直後、前奏が流れ始める。ひよりも笑ったまま顔を上げ、三人と一緒にステージへ飛び出した。


*


「リトルフレアー!」


タンクトップの男の声が真っ先に飛んできた。大きい。けれど、その後ろに重なる声は以前より少なかった。ひよりはその差を耳で感じながら、自分の位置へ入った。


最初の音に合わせて四人が腕を上げる。八人の頃なら同じ動きをする身体が左右にもっと並んでいたが、今は自分を含めて四人しかいない。そのぶん、一人が動くたびにステージ全体の形が大きく変わった。


リオが前へ出ると、ひよりとアンが左右へ開く。その間へナツが入り、ひよりは次の位置へ回り込んだ。


練習場では何度もやった動きだった。それなのに客席を前にすると、一人分の重さが違って感じられる。八人なら少し遅れても、周りの動きに紛れたかもしれない。四人では、自分がいない場所がそのまま空く。誰かの後ろへ隠れることもできなかった。


アンが正面から来たので、ひよりは半歩だけ身体を開いて通した。向きを変えると、アンも同時に反対へ抜けていく。鏡の前で何度も合わせた距離を保ち、衣装が触れないぎりぎりのところをすれ違った。


その瞬間、紫と青が一緒に上がった。すれ違いざまにアンが口元を上げたので、ひよりも笑い返す。背中からはナツの歌が聞こえていた。高い音でも揺れない声が後ろへ伸び、黄色いペンライトの周りでも何人かが身体を揺らしている。次の強い音へ、リオが大きく踏み込んだ。


「リオー!」


赤い光が跳ねた。アンが前列の紫を見つけ、片目を閉じる。


「アンー!」


すぐに声が返ってくる。


そして自分の番が来た。二歩で前へ出た瞬間、眼鏡の男が青を高く上げた。


「まひるー!」


「はい!」


マイクも持っていないのに、反射的に返してしまった。男が笑って大きく青を振ると、その少し後ろからも青が上がる。ひよりはそこまで腕を伸ばした。


もう少し近づけば、もっと大きく返せる。足が前へ出かけたところで、次の位置へ入ってくるリオが見えた。踏み込みを止め、代わりに上半身を大きく使った。客席へ腕を伸ばしたまま身体を返せば、空いた場所をリオが抜け、二人の肩は触れずにすれ違った。


次の拍子にも間に合った。青い光は、まだこちらへ向いていた。前に出るだけが返す方法ではないのだ。ひよりは決められた位置へ戻りながら、次に自分が前へ出るところをもう見ていた。


*


三曲を終え、短いMCを挟んだ。


四人だけになったリトルフレアをどう思われているのか、ひよりにはまだ分からない。それでも最初より客の声は出るようになり、タンクトップの男が何か叫ぶたびに、その周りで笑いが起きている。


ナツがマイクを握り直した。


「最後は――『フライング・ハート』!」


曲名が響いた瞬間、客席からいくつもの声が返ってきた。ひよりは立ち位置へ向かいながら、最初にこの曲を踊った日のことを思い出した。


一度しか見ていない振付。借り物の白い衣装。胸には、その日だけのつもりだった青いリボン。右にリオがいて、左にナツがいた。本当ならそこにいるはずだったアンは、いなかった。


「まひる」


小さく呼ばれ、顔を上げる。今は、そのアンが目の前にいた。


「今日、私の前通るところ忘れないでよ」


「忘れてないよ」


「最初のとき私いなかったから、知らないかと思って」


「三週間練習してるでしょ」


「一応言っただけ」


「心配性だなあ」


「まひるに言われたくない」


アンが笑った。ひよりも笑ったところで前奏が始まり、二人は同時に顔を正面へ向けた。


四人用の最初の形では、リオとナツが左右へ開き、その間にアンとひよりが並んだ。紫と青の袖を同時にひらくと、客席でも二色が上がる。強い音に合わせて伸ばした腕は、アンと同じ高さで止まった。


次の音で二人が逆方向へ抜ける。あの日はアンがいなかったから自分がそこに立ったのに、今は同じ曲の中で、お互いの場所を空けながら走っていた。


そのことがおかしくなって、ひよりは笑った。アンが横目で見る。何、と口だけが動いた。ひよりは首を振り、次の位置へ入った。説明している暇はなかった。


ナツの声が伸び、リオが客席へ腕を振った。アンが紫の光へ指を向けると歓声が返り、そのすぐあとには眼鏡の男が青を上げる。ひよりもそちらへ腕を伸ばして返し、少し後ろで揺れた青へ視線を移した。


その先に、鉢巻の男がいた。腕を組んだままで、手に持つペンライトにも色はついていない。それでも帰らず、ステージを見ていた。


ひよりは一瞬だけその男へ腕を向け、それ以上は追わずに振付へ戻った。今はそれでよかった。見てもらえている。


最後のサビへ入ると、四人が横へ広がった。八人で立っていた頃より、一人と一人の間は広い。それでも四人の腕が揃って上がれば、空いた場所まで含めて一つの形になった。


「はい! はい! はい!」


前から上がった声へ、後ろの声も重なった。以前より少なくても、ひよりにはちゃんと届いていた。


ひよりは客席を順番に見た。赤、黄色、紫、青の光が、それぞれ自分たちへ向いている。もうそこにいない人たちの色も、わずかに残っている。


曲の終わりが近づくと、中央へ入ったリオの隣へナツが並んだ。アンとひよりも続き、最後の音で四人の腕を上げる。伴奏が止まった次の瞬間、拍手と声が押し寄せた。


「リオー!」


「ナツー!」


「アンー!」


「まひるー!」


四つの名前が聞こえた。八人だった頃ほど大きな歓声ではない。客席にも空いた場所がある。それでも、四人の名前は全部あった。


隣でアンが笑っている。ナツは息を切らしながら両手を振り、リオも客席の端まで見ながら頭を下げた。ひよりも深く頭を下げる。顔を上げると、眼鏡の男の青がまだ高く揺れていた。少し後ろでは、腕を組んでいた鉢巻の男が拍手していた。


*


「アン、鞄!」


楽屋へ戻った途端、レイの声が飛んだ。


「今帰ってきたばっかりなんだけど!」


「だから今片づければいいでしょ!」


「汗くらい拭かせてよ」


「拭きながらできる!」


「無茶言うなあ」


アンが文句を言いながら荷物を壁際へ寄せる。


ひよりは椅子へ座り、タオルで首元の汗を押さえた。四人だけのライブは終わった。大きな失敗もなかったし、客も声を返してくれたが、以前より人が少なかったことまで消えたわけではない。それでも、胸の中に残っているのは落ち込みだけではなかった。四人で最後までやれた。『フライング・ハート』も、今度は誰かの代わりではなく踊れた。


「レイ」


佐伯が入口から呼んだ。


「何?」


「今日どうだった?」


「どうって?」


「手伝い」


レイはアンの鞄を足で壁際へ寄せながら、眉をひそめた。


「大変だったわよ。アンいなくなるし、まひるのリボン曲がってるし、時間見てない人いるし」


「私は見てたよ」


リオが言う。


「聞いたら何でも大丈夫って言う人もいるし!」


「大丈夫だったから」


「そういうところ!」


佐伯が笑った。


「でも、全部見てたじゃない」


「見えるんだから仕方ないでしょ」


「出演時間も」


「遅れたら困るじゃない」


「会場の人とも普通に話してたし、出番が押したときも先にこの子たちへ伝えてくれたでしょ」


「聞いたこと伝えただけよ。それくらい誰でもできるって」


「できない人もいるのよ」


佐伯の声が少しだけ落ち着いた。レイも気づいたのか、言い返しかけた口を閉じる。


「レイ。このまま現場やらない?」


「……何を?」


「この子たちのマネージャー」


レイの目が丸くなった。


「何でそうなるのよ!」


「向いてるから」


「向いてない!」


「向いてると思うけど」


ナツが笑いながらペットボトルの蓋を閉めた。


「今日、ほとんどレイが私たち動かしてたよ」


「昔から知ってるんだから、それくらいするでしょ!」


「それが向いてるんじゃない?」


アンが言う。


「違う!」


「どこが?」


「知らないけど違う!」


「知らないんじゃん」


「アン!」


またレイの声が楽屋いっぱいに響いた。ひよりは笑いながらタオルを外した。


「でも、私もレイさんいてくれて安心しました」


レイがこちらを見る。


「……そう?」


「はい。衣装も見てくれたし、出番前も色々言ってくれたし」


「まあ、まひるはまだ入ったばっかりだしね」


ほんの少し、レイの背筋が伸びた。


「私、この子たちより長くいるから。分かることも多いし」


「出た。もうその気じゃん」


アンに言われ、レイは佐伯へ向き直った。


「先に言っとくけど、四人いっぺんには見られないからね。アン、飲み物くらい出番前に買っといて」


「はいはい」


「その返事!」


レイが指を向ける横で、佐伯は笑ったままスマートフォンを出した。


「じゃあ次も来て。次はここ」


「どこ?」


差し出された画面へ顔を寄せてから、レイの動きが止まる。


「……まだ引き受けてないんだけど」


「でも場所は気になるのね」


「遅刻したら、あんた困るでしょ!」


言い返しながらも、レイは画面を最後まで見ていた。


*


着替えを終えたあとも、四人はしばらく楽屋に残っていた。レイは廊下で佐伯に何か聞かされているらしく、ときどき「それも私がやるの?」という声が聞こえてくる。最初こそ大きかった声も、話が続くにつれて少しずつ真面目になっていた。ナツがその声を聞きながら笑った。


「レイ、次決まったね」


「まだ決まってないって怒られますよ」


ひよりが言うと、アンは鞄のファスナーを閉めながら首を振った。


「もう決まったようなもんでしょ。本人だけ認めるの遅いやつ」


「レイさんっぽい」


ひよりが笑う。そこでアンは少し黙り、鏡に映った四人を見た。衣装は脱いでいる。赤も黄色も紫も青もなくなり、そこにいるのは同じように汗をかいて、髪を直したり荷物をまとめたりしている四人だった。


「じゃあ、うちらは?」


アンが言った。


「何が?」


ひよりが聞き返す。


「次」


アンは今度は鏡ではなく、三人を直接見た。


「私、メジャー行きたい」


ひよりは手にしていたタオルを畳みかけたところで止めた。


「メジャー?」


「うん」


「急だね」


「急じゃないって。前から思ってたし」


アンは少し眉を寄せた。


「今日、客減ってたじゃん」


誰もすぐには返さなかった。ひよりも舞台袖から見た客席を思い出す。後ろにできていた隙間も、見えなくなった色も、まだはっきり覚えている。


「四人になったから終わったって思われるの、嫌なんだよね。このまま地下でずっとやって、少しずつ人減って、そのまま終わりとか、もっと嫌」


アンは言いながら、自分の膝へ両手を置いた。


「私はもっと売れたい。もっと人来てほしいし、知らない人にも名前覚えてほしい。行けるならメジャー行きたい」


ナツが小さく笑った。


「アンらしいね」


「何それ」


「褒めてるよ」


「じゃあナツは?」


聞かれたナツはすぐには答えず、鏡の中の自分を少し見てから頷いた。


「私も行きたい」


「メジャー?」


「うん。四人になったからって、ここから小さくなっていくだけなのは嫌だな」


アンが満足そうな顔をして、今度はリオを見る。


「リオは?」


リオは壁へ背中を預けたまま、少しだけ黙った。今日のライブでも、誰より全体を見ていた。誰かの位置が少しずれれば自分が合わせ、歌いながらでも次の形を作っていた。そのリオが珍しく答えを急がないので、ひよりも何も言わずに待った。


「……私も行きたい」


やがてリオが言った。


「行けるところまでじゃなくて、ちゃんと行きたい。メジャー」


アンが笑う。


「三人」


そして、三人の視線が一斉にひよりへ向いた。ひよりは思わず後ろを見た。もちろん誰もいない。


「私?」


「他に誰がいるの」


アンが言う。


「それ、前にも誰かに言われた気がする」


「知らないよ。で、まひるは?」


ナツに聞かれ、ひよりは困った。メジャーという言葉は知っている。テレビに出て、CDを出して、大きな会場でライブをする。アイドルに詳しくなかった頃のひよりでも、それくらいのイメージは持っていた。けれど、そこに自分を置こうとすると急に何も浮かばなくなる。


ほんの少し前まで、自分は客席にいた。リトルフレアを見たくて一人で地下へ降り、その日に一曲だけ踊った。また踊りたいと思って戻り、名前をもらって八人目になったのに、そこから次々に人がいなくなった。気づけば今日、四人だけでステージに立っていた。


「私……」


三人が待っている。


ひよりはタオルを膝の上へ置いた。


「まだ、そこまでは分かんない」


アンの眉が少し上がった。


「メジャー行きたくないの?」


「嫌っていうんじゃなくて。なんか、遠すぎて想像できない」


言葉にしてみても、やはりテレビの中にいる自分は浮かばなかった。でも、次の土曜日なら浮かぶ。


今日より客が多いかもしれない。少ないかもしれない。眼鏡の男はまた青を持ってきてくれるだろうか。腕を組んで見ていた鉢巻の男も、もう一度来るだろうか。そこへ立っている自分なら想像できた。


「でも、次のライブも四人で出たい」


ほんの一瞬、三人が黙った。最初に口を開いたのはアンだった。


「目標、近っ」


「うるさいなあ!」


「だって来週じゃん」


「いいでしょ! いきなりメジャーって言われても分かんないんだから!」


ナツが吹き出した。


「いいよ。まひるはそれで」


「笑ってるじゃないですか」


「だって、今日も出たばっかりなのに」


「今日が楽しかったから言ってるんです」


リオまで口元を押さえていたので、ひよりはそちらを睨んだ。


「リオまで!」


「ごめん」


「謝るなら笑わないでよ!」


「でも、まひるらしいと思って」


「何が?」


「今は、次のライブでいいんじゃない」


リオは笑いながらも、その声だけは真面目だった。


「その次も、その次も四人でやってたら、いつかもっと遠いところも見えるかもしれないし」


ひよりは少し考えた。


「じゃあ、そのとき考える」


「本当に目標近いなあ」


「アン!」


また言い合いになりかけたところで、廊下から佐伯が顔を出した。


「片づけ終わったら出るわよー!」


「はい!」


四人の返事が、ほとんど同時に狭い楽屋へ響いた。


挿絵(By みてみん)

お読みいただき、ありがとうございます。


地下アイドルは、一つの街やライブハウスだけで活動しているわけではありません。

東京では、ライブハウスの多い渋谷や新宿をはじめ、アイドル文化のイメージが強い秋葉原、イベントの多い池袋、音楽文化の盛んな下北沢など、さまざまな街でライブや対バン、特典会が行われています。


普段は小さなライブハウスを中心に活動しながら、少しずつ出演する場所を広げていく――。そんな街から街への移動も、地下アイドル活動の日常の一つです。


このイラストでは、東京でアイドル活動の舞台になりやすい代表的なエリアと、それぞれの街の特徴を簡単にまとめたものです。


☆リトルフレアのホームは、新宿・歌舞伎町の設定です。☆


※活動地域や傾向はグループや時期によって異なります。あくまで一例としてご覧ください。

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