5/10
第三話「声なき雨と、ひとひらの記憶」
夜、朋広は眠れなかった。
耳の奥で、あの事故の日と同じ音が繰り返し響く。
雨が窓を叩くたび、記憶の中の声が蘇る。
「……まだ、呼んでくれるんやね」
夢の中、見知らぬ少女の影が振り返る。
彼女の顔は霞んで見えない。
だが、雨に濡れた制服の裾と、微かに震える指先だけが鮮明だった。
目を覚ますと、スマホの画面が再び光っていた。
〈桜影装具・反応値:12%〉
朋広は首を傾げる。
電波の届かない時間に、誰かが“アクセス”しているようだった。
窓の外、街灯の下で傘を差す人影が一瞬だけ動いた。
彼は知らない。その影が“桐生さくら”だということを。
桜はまだ咲かない。けれど、魂だけが確かに揺れていた。




