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第1章第一話「桜の声、雨のあと」
入院生活が続いていた。
春雨の匂いが病室のカーテン越しに漂い、
朋広はベッドの上でぼんやりとスマホを見ていた。
画面の奥で、誰かが小さく呼吸をしているように感じる――
それが、“装具”と呼ばれるものだと彼はまだ知らない。
夢の中で、声が聞こえる。
「……あの日、呼んでくれたやろ。名前、呼びかけかけた……」
桐生さくらの声だ。
だが彼は、その声の主の顔を知らない。
ただ、胸の奥が妙に温かい。
退院が近づく頃、桜はまだ咲かない。
ただ、スマホのロック画面に“桜の花弁”が一枚だけ映っていた。
現実と夢の境界に、誰かの魂が重なり始めていた――。




