2.傘、登校
僕は佐伯直。学校には基本居場所がない陰キャ。
今日も居場所がないってわかってるのに健気に時間通りに登校する。しかもこんなに強い日差しの日に。
学校の前の銀杏並木を今日も僕だけがトボトボと歩いている。
基本僕と誰も会話を交わそうとしない。だから1人。
そんな時、後ろから甘い声が聞こえてくる。
「やっほ」
...そう。ただ、この人だけはーーこの人だけは僕に絡んでくる。
「佐伯クンおはよ!」
朝から天真爛漫と屈託のない笑顔で僕に話しかけてくれるのは...朝宮翠花さん。
その清潔感は朝一のビジュアルとは思えなくて、まず僕と作画が一緒なわけがない。
「...おはようございます」
「佐伯クン朝から見れるなんてわたし今日運いいかも」
「ど、どういう意味ですか?それ」
僕のことをツチノコかなんかだと思ってるのだろうか
「え?い、いや、いつもは部室でしか会わないじゃん?」
「確かにそれはそうですけど」
だからといって、たまに朝見かけたからって運がいい理由にはならないじゃないですか。
そう言いかけた瞬間だった。
「...あと」
...あと?
朝宮サンは差してた日傘を閉じて、その大きな瞳で僕を捉えてから、こう言った。
「なんか佐伯クンといると...たのしくなっちゃうから」
また、ドキッとした。
僕といると楽しくなる...?
それって...
「さ、行こっか」
「え?」
...深く考える暇もなく、僕は朝宮サンにポン!と背中を押される。
「学校。せっかくだから一緒に行こ」
いや、これって...
デート、じゃない?
「あ、え...その...」
そんなことを思うと、僕の口からは情けない擬音しか出てこなくて...
「もしかして...」
「私の隣歩くの、嫌?」
直球でそう聞いてくる朝宮サンはなんだか悲しそうだった。
もちろん嫌じゃない。むしろ...
むしろ...?
...いや、そんな本音は言えなくて
「い、いや...行きましょう」
こんなことしか言えなかった。
ーーーーー
「佐伯クンっていつも教室で何してるの?」
「...何もしてないです」
朝宮サンはプッと吹き出した。
「な、何が面白いんですか」
「いやいや、何もしてないってことないでしょ!佐伯クンはおもしろいねえ」
「ほんとに何もしてないですって!」
「スマホいじったりとかするでしょ」
「いやしないです」
「じゃあ何してるの?」
そう聞かれてふと己の行動を振り返る。
僕が休み時間していたことって...
「前、向いてるかもです」
それを聞くと朝宮サンはいよいよこられきれなくなったのか、お腹を抑えてケラケラ笑い出す。
「あはは!佐伯クンおもしろすぎ!!」
「そ、そんな面白いですか?」
「だって休み時間座ってただまっすぐ前だけ見てるんでしょ?想像したらおかしくなっちゃって!!」
確かにちょっと珍しいかもしれないが...スマホの画面見ててもやることないし...
「やっぱ今日あたりの日だ」
「ほ、ほんとですか?」
「うん。佐伯クンと話してると楽しいよ」
そう言って、朝宮サンは強い日差しを右手で覆うような仕草をした。
「あ、あの...」
話の途中だけど...たぶんここしかないから
「?」
「日傘、差していいですよ」
さっきから朝宮サンは明らかに日差しを気にしている。こんな真っ白い肌だから普段から気を遣っているに違いない。
でも僕と話すから...たぶん失礼だと思って閉じてくれたんだと思う。
僕と話すのにそんな気遣いいらないし、むしろ差してほしいまである。
「......」
「朝宮サン?」
...けど、朝宮サンは口を少しだけ開けた状態で、一瞬時が止まったかのようにフリーズしていた。
...え、変なこと言っちゃったかな。
「あ、朝宮サン?もしかして具合とか...」
「あ、ありがと!差してもいいなら差しちゃおうかな!!」
彼女の聞いたことないくらい大きな声に僕の体がビクッと反応する。
朝宮サン、そんな声出たんだ...
「...で、でも、私だけ刺すのはやっぱり気が引けちゃうから〜」
僕の頭上が一気に暗くなった。
「一緒にはいろっ」
...は?
「えっ?」
いやこれって...
相合傘、じゃ...
「いつまでそんな距離とってるの...佐伯クンもっとこっち来てよ」
朝宮サンはずるい。
「こっち来ないと私が日差し、当たっちゃうでしょ?」
自分のかわいさを最大限活かした笑顔で「おいでおいで」って手招きしてる。
そもそも朝宮サンが1人で入ってれば当たるわけがない。
だから僕が断れば理論上丸くおさまるのに...
...こんなの断れるわけないじゃないか。
ーーーーー
「佐伯クンも日傘買った方がいいよ」
「いや、僕は別に...」
日陰者という意味では買った方がいいかもしれない。
「今は男の子も美容の時代だよ。紫外線対策、だねっ」
「検討してみます」
こんなたわいもない話をしている間にも、朝宮さんと僕の肩がたびたびぶつかる。
それくらいの距離感。
っていうかこのぶつかる頻度...
当ててきてないか?
...
...さすがに気のせいか。考えすぎかも僕。
「あっそうだ」
「?」
朝宮サンは立ち止まった。それに合わせて僕も足を止める。
「さっき休み時間前見てますって、佐伯クン言ったじゃん?」
「はい」
朝宮サンは少年のように笑ってからこう言った。
「なんかそれ、名前通りでステキだね!」
...人と話していて、はじめての感覚
なんか胸がじーんとする。
心の芯がひん曲がった僕がそんなこと言われたの生まれて初めてだし...なんなんだろう。この高揚感。
なんで朝宮サンと話していると、こんなにたのしくなるんだろう。




