共有したいから
「佐伯クン、暑いね」
「...そうですね」
6月末。もう気温は完全に夏だった。僕と朝宮さんはいつも通り部室でエアコンをガンガンに効かせているのになぜか暑い。
「最近の夏はあつすぎるよ!いんふれだよ、いんふれ」
朝宮サンが子供みたいに足をバタバタさせると、こたつの中でモゾモゾ暴れて、僕に直接攻撃してくる。
「全く、なんでこんな暑いのかねえ...」
「あの...朝宮サン」
「?」
「もう気づいてたらすみませんが」
「こたつに入ってるからでは?」
それを聞いた瞬間、朝宮サンは目と口を見開いて、「タシカニ!!」の顔をしている。
......表情が豊かな人だ。
「...もしかしてこたつって夏は片付けるべき?」
「はい」
「こたつの上のみかんも...?」
「みかんは置いといていいです」
漫才やってるんじゃないんですから...とまでは言えなかった。
っていうかみかんとこたつがあるの、めっちゃ冬じゃん。
そう考えたらふとみかん食べたくなってきたな。そう思ってゆっくり手に取ったその瞬間だった。
「!?」
「キグウだね」
僕がみかんに手を差し伸べたその瞬間、明らかに後から朝宮サンが手を重ねてきた。
僕の手の上に、朝宮サンのあったかい手が乗っかって...
このあったかさはこたつのせい?それとも...
「おんなじタイミングで私もおんなじみかん、食べたくなっちゃった」
チラリと朝宮サンの顔を見ると、やっぱりなんだか強かな顔をしている。
かわいらしい顔なのは間違いないが、ちょっとイタズラっ子のような気も...
「あ、じ、じゃあどうぞ!」
...先輩だし、譲っておくか。別に隣のみかん食べりゃいいし
そう思って隣のみかんに手を出した瞬間だった。
また、重なっていた。
「私もやっぱこっちがいいかも」
話が違うのでは?
試しに僕が別のみかんを手に取ろうとすると、後を追うように朝宮サンが手を重ねてくる。まるで2つで1つみたいだった。
「ど、どういうことですか」
このままだと埒が開かない。そう思って僕が聞くと...また、彼女は恍惚そうな表情を浮かべていた。
「佐伯クンと半分こ、したいんだもん」
「...え?」
「ほ、ほら...ダイエットしてるから、1個は丸々はね?やめとこっかなって」
朝宮サンめっちゃ細いんだしダイエットなんかしなくても...しかもみかん1個も半個もあんま変わんないし...そう言いかけてやめた。
「だからさっ」
朝宮サンは1番大きなみかんを迷わず手に取って僕の前に差し出す。
「むいて!佐伯クン!」
「は、はい」
ーーーーー
「佐伯クン、みかんむくの上手だね」
「あ、ありがとうございます」
言われてみればあんまみかんの剥き方褒められるとかないな。お礼は言ったけど、これに上手いも下手もあるのか?
「わくわく。わくわく」
朝宮サンはこたつの中で足をパタパタさせながらそう言っている。
効果音とかじゃなくて本当に「わくわく」って発してるし、表情は遊園地で遊ぶ子供みたいに笑顔だ。
みかん、そんなに好きなのかな。
「...できました」
半分こしてから朝宮サンに渡すと、一つ一つちぎってゆっくり口の中に放り込んだ。
そして、真っ白で整った歯を見せながら満面の笑みでこう言った。
「とっってもおいしい!ありがとうねっ」
そんな朝宮サンをみて、なんだかドキドキしてしまって僕は恥ずかしくて俯いてしまう。
「...い、いえいえ」
で、また顔をあげると朝宮サンはもう食べ終わっていて、なんなら2つ目のみかんを自分で剥いているところだった。
ダイエットしているはずでは...?
「あれ...2個目...」
「き、今日はちーとでいとします」
「...今から?」
「はい。今閣議決定されました」
どこの閣議?
もはやツッコむ間もなく、朝宮サンはモグモグとリスみたいに頬を膨らませてみかんを食べていた。
僕が少し怪訝そうな顔をしていると、朝宮さんは少し慌てた様子で補足してくれた。
「に、にこまでだから...平気なの」
朝宮サンは珍しく、なんだかモジモジしていた。いつも無邪気にイタズラ仕掛けてくる側なのに...自分がイジられるのは...もしかして...
「...でもそれだと全然消費できませんね」
詮索するのはよそう。僕には関係のない話だ。
そんなことよりこたつにはみかんが大量にあって、僕がちょっと頑張ったぐらいじゃなくならない量だった。
「そうだね〜賞味期限もあるだろうし」
「もっと部員が増えたらすぐに消化できるんですけど」
「だめ!!!!!!」
「はい!?」
朝宮サンは聞いたことないくらい大きな声で僕のセリフを遮ってきた。
...今、ダメって...?
「あ、いや...」
「その...」
「部室狭いし、ただでさえ暑いし、人数増えたら...ね?」
朝宮サンはしおらしく人差し指をイジイジとしていた。
...確かに部室狭すぎるか。
暑いのはこたつから出ればいい話だと思うけど。そう思いながら僕はこたつでぬくぬくしていた。




