1.あ〜ん、して
僕の名前は佐伯直。この世に生を受けてから筋金入りの陰キャの高校1年生
陰キャなりに陰キャグループに属しているわけでもない。僕という陰属性の個体が、ただ1人で生活している。
お母さん曰く、泣き声すらあげず無音で生まれてきたらしい。陰キャギフテッドすぎる。
...そんな僕なので、高校生になっても引き続き友達もいないし、まあクラス、いや学校中に居場所なんかない。
ーーただ、一点を除いては。
「あ、佐伯クン!今日もお疲れ様〜」
「あ、どうも」
天文部。それが僕の唯一の居場所といえば、居場所になる。
またまわりくどい言い方をしているが、僕は自分の意思で入ったわけではない。
教室に入るやいなや、僕に甘い声で話しかけてくれたのは朝宮翠花さん。
茶髪がかった髪はウェーブかかって立体感があって、女の子らしい大きな目、綺麗な肌。まるでアイドルみたい。
「えへへ、座って座って〜今お茶出すから」
僕の幼馴染で小さい頃から陰キャの僕に構ってくれた唯一の人間だ。中学で離れちゃったがひょんなことから高校でまた知り合い、天文部に誘われ今に至る。
年齢的には一学年上の先輩だ。だから一応敬語を使っている。
「あ、ありがとうございます」
僕は軽く会釈をしてから年中用意してあるこたつでぬくぬくさせてもらう。
今日も誰とも喋らなかったけど疲れたな...そう思った瞬間だった。
ーーいきなり僕の視界が真っ暗になった。
「!?」
「だ〜れだ?」
...え?
つい10秒前までガッツリ姿見てたのに、このタイミングでそれやるの!?
っていうか、朝宮サンの柔らかい手が僕の目を直接覆ってて...
...めっちゃあまくていい匂い...ハンドクリームの匂い...?
「ちゃ〜んと考えてこたえ、出してね」
あま〜い声で耳元に追い討ちをかけてくる...そんな人は1人しかいな...
...はっ!
「あ、あさみやさん」
ギリギリで僕は我に帰る。危ない。
「せいかい〜じゃ、ご褒美!」
...ご褒美?
そう言うと、やっと僕の視界がゆっくり開けて...
わー目の前に見えたのは紅茶と小さいショコラチョコだった。
「...おいしそう、です」
「口開けて」
「...え?」
気づけば机を挟んで朝宮さんは僕の真正面に座っていた。
「...だから、口開けて」
言われるがままに口を開けると...ゆっくりと朝宮さんはショコラチョコにフォークを刺して、僕の小さな口の中に放り込んだ。
「!?」
「早く閉じてよ」
チョコ自体は僕の口の中にある。あとは僕が噛んで食べるだけ。
そんな状況でも、朝宮サンは追撃の手を緩めなかった。
「あーん、にならないでしょ」
「!?!?」
僕が驚きを隠しきれずに素っ頓狂な顔をしているのを見て、朝宮サンは手で小さい口を押さえながら、クスクスと笑っている。
「な、なにがおかしいんですか」
「なにがって?もう全部」
「...全部?」
「うん!もうおっかしくて...」
...今日も朝宮サンのテンションだ。いつも僕をこんな感じでおもちゃにしてくる。
陰キャをからかう陽キャの図ってこんな感じなのかな。
「あ、佐伯クン!」
「...?」
「味、どうだった?」
そう尋ねる朝宮サンは恍惚とした表情だった。
なんか、僕じゃない、僕の心の奥をぼんやり眺めているような...
「お、おいしかった...です」
「よかった。でももっと聞きたいかも」
「...もっと?」
「甘かった?チョコ」
「それは...はい。甘かったです」
それを聞くと、朝宮サンは映画のヒロインのような満面の笑みでそう言った。
「よかった。早めにきて作ってよかった」
早めに来て...?
僕みたいな陰キャで遊ぶためだけに...?
...
どんな根性?
「あ、ありがとうございます」
そう思いつつも、甘いチョコの後味がまだ口の中に残っていた。
「あ、そうだ佐伯クン、食べたらぼどげやろ」
「...また星座作るやつですか?」
「うん。この部活唯一の天文要素!」
「自分で言わないでください」
「だって観測しにいくの面倒なんだもん!」
「部長が言わないでください」
ーーーーー
「じゃ、私部室の鍵閉めてくから!先帰ってて!」
「いつもすみません。ありがとうございます」
「全然!じゃ、また明日ね」
「はい。お疲れ様でした」
挨拶をしてからトボトボと帰っていく佐伯くんの姿を私は見切れるまで眺めていた。
...今日、攻めすぎちゃったかな
...
えへへ
チョコ、甘いって
...うれしい
「...次は一緒にかえるんだ」
思わず声に出ちゃっていた。




