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村の異邦人

Eidenの足音が、東の森とエファス村を繋ぐ小道に静かに響いていた。


太陽はすでに西へ傾き始めている。


木々の隙間から差し込む橙色の光が、先ほどまでとは打って変わって森を穏やかな雰囲気に染めていた。


しかし――


Eidenの頭の中は、まったく穏やかではなかった。


「……あのモンスター、いったい何だったんだ?」


先ほど遭遇した巨大なSlimeを思い出す。


明らかに普通のSlimeではない。


家ほどもある巨大な身体。


金色のコア。


そして何より――


直接、頭の中へ語りかけてきた。


だが、Eidenを最も困惑させているのは別のことだった。


あのモンスターは――


意図的にEidenを生かした。


「『まだ、その時ではない』……」


「どういう意味なんだ?」


Eidenは長く息を吐く。


今考えても仕方がない。


情報が少なすぎる。


今の最優先事項は、Eveを心配させる前に村へ戻ることだ。


しばらく歩くと、遠くにエファス村の木製の門が見えてきた。


しかし――


何かがおかしい。


村の門の前には、何人もの住民が集まっていた。


皆、不安そうな表情で話し込んでいる。


「何かあったのか?」


Eidenは歩く速度を上げた。


門まで来ると、一人の村の衛兵がすぐに駆け寄ってきた。


「Eiden!」


「やっと戻ってきたか」


「何かあったんですか?」


Eidenが尋ねる。


衛兵はゆっくり頷いた。


「村に、よそ者が来たんだ」


「よそ者?」


「ああ」


「本人は冒険者だと言っている」


「冒険者……?」


Eidenは少し驚いた。


記憶が正しければ、ゲーム序盤でも何人かの冒険者がエファス村を訪れる。


しかし――


彼らが現れるのは、物語が始まってから数日後だったはずだ。


「……早すぎないか?」


小さく呟く。


「ん?」


「いや……何でもない」


衛兵は村の中央広場を指差した。


「みんな、あそこに集まっている」


「その冒険者が重要な知らせを持ってきたらしい」


Eidenは頷いた。


「ありがとうございます」


そのまま村の中心へ向かう。


広場に近づくにつれ、人の声が大きくなっていった。


数十人の村人たちが、一人の男を囲んでいる。


男は茶色の革鎧を身につけていた。


腰には一本の長剣。


長旅を終えたばかりなのか、その顔には疲労の色が浮かんでいる。


そして――


男の頭上に名前が表示されていた。


Darius


「…………」


Eidenはすぐに、周囲に気づかれないようSearch Barを開いた。


男の名前を入力する。


【Darius】


Enter。


すぐにいくつかの検索結果が表示された。


――――――――――


Darius


種族:人間


職業:D Rank冒険者


所属:Astera王国 冒険者Guild


Status:NPC


初登場:Chapter 2


東の森周辺でモンスターの活動が活発化していることを知らせる役割を持つ。


――――――――――


「NPC……」


ということは――


いよいよ、メインストーリーが動き始めた。


Eidenは再びDariusへ視線を向ける。


彼は村長と話していた。


「街から戻ってくる途中で確認したんだが――」


「モンスターの数が、普段より明らかに増えている」


「Guildでは、近いうちにMonster Tideが発生する可能性があると見ている」


その瞬間、村人たちが一斉にざわめいた。


「Monster Tideだって?」


「危険じゃないか!」


「この村はどうなるんだ!?」


Dariusは片手を上げ、皆を落ち着かせる。


「まだ、この周辺で起きると決まったわけじゃない」


「だが明日からは、一人で森に入るのは避けてくれ」


「特に――東の森には」


Eidenの心臓が小さく跳ねた。


また――


東の森。


ということは、先ほど自分が経験した出来事も偶然ではない。


Dariusはさらに続けた。


「Guildには、巨大なSlimeを目撃したという報告も届いている」


「ただし、今のところ確かな証拠はない」


「……っ!」


Eidenは目を見開いた。


「じゃあ……」


「見たのは、俺だけじゃないのか」


Guildにまで報告が届いている。


つまり――


あの巨大Slimeは本当に存在する。


幻覚でも何でもない。


だが、その事実を知っても安心はできなかった。


むしろ逆だ。


あの脅威が――


現実に存在していると証明されてしまったのだから。


数分後。


村の集会は終了した。


住民たちはそれぞれの家へ戻り始める。


Dariusも村の宿へ向かって歩き始めた。


そして――


Eidenの横を通り過ぎようとした、その時。


Dariusが突然足を止める。


「……ん?」


その視線が、まっすぐEidenの顔へ向けられた。


「少年」


「森から帰ってきたところか?」


「はい」


Dariusはゆっくりと頷いた。


「次からは気をつけろ」


「お前からモンスターの血の臭いがする」


Eidenは少し驚いた。


「分かるのか……?」


村へ戻る前に、斧はきちんと綺麗にしたはずだった。


Dariusは薄く笑う。


「俺はもう十年、冒険者をやっている」


「モンスターの臭いは、そう簡単には隠せないさ」


そう言い残し、Dariusは再び歩き始めた。


しかし――


完全に立ち去る直前。


彼は一度だけ振り返った。


「それに……」


「お前くらいの年齢にしては――」


「目が落ち着きすぎている」


その言葉に、Eidenの身体が固まる。


Dariusは小さく笑った。


「忘れてくれ」


「俺の気のせいかもしれない」


そう言って、男は広場を後にした。


Eidenはその場に立ち尽くしていた。


「……疑われた?」


普通の村人なら――


Monster Tideの話を聞けば、もっと怯えて当然だ。


だがEidenは。


あまりにも平静だった。


「これからは……」


「もっと気をつけないとな」


目立つ行動は避けなければならない。


自分の能力を知る人間は――


少なければ少ないほどいい。


そう考えながら、Eidenは家へ向かって歩き始めた。


しかし――


遠く離れた村の宿。


その二階の窓から。


Dariusはまだ――


遠ざかっていくEidenの背中を見つめていた。


冒険者はゆっくりと腕を組む。


「……Level 50」


小さく呟いた。


「ただの村の少年が……」


「……あれほどのManaを持っているはずがない」


その眼差しが鋭くなる。


「お前はいったい何者なんだ……Eiden?」

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