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検索バー

エイデンは、目の前でゆっくりと点滅する検索欄を見つめていた。


「…………」


部屋は再び静寂に包まれる。


窓の隙間から入り込む風の音だけが、その静けさの中に響いていた。


エイデンは伸ばしかけていた手を引っ込める。


「……これが罠だったらどうする?」


ありえない話ではない。


この世界で目を覚ましてからというもの、自分の知らないことばかりが起きている。


だが――


エイデンはすぐに小さく首を振った。


「いや」


「怖がってばかりじゃ、何も情報を得られない」


そもそも今の彼には、本当に何の手がかりもない。


元の世界へ帰る方法も分からない。


なぜ自分がここにいるのかも分からない。


そして何より――


この世界で生き残れるのかどうかすら分からない。


「……よし」


エイデンはゆっくりと検索欄に触れた。


すると、目の前に半透明のキーボードが現れる。


まるでスマートフォンの仮想キーボードのようだった。


「へぇ……」


「こんなところまでちゃんとしてるのか」


少し考える。


何を検索する?


キャラクターの名前?


村の名前?


それとも――


もっと単純なもの。


エイデンは文字を入力し始めた。


G……u……u……g……l……e。


Googleではない。


Guugle。


元いた世界で使われていた検索エンジンの名前だ。


入力を終えると、《Enter》を押した。


次の瞬間――


UI全体が真っ白なページへと切り替わった。


画面上部には、見慣れたロゴが表示されている。


Guugle


「…………」


「……は?」


エイデンは思わず立ち上がった。


「冗談だろ……?」


そのページは、彼が毎日のように使っていた検索エンジンそのものだった。


レイアウトまでほとんど同じだ。


検索欄。


ニュース一覧。


画像検索。


すべて揃っている。


「どうなってるんだ……」


震える指でページをスクロールする。


最初のニュース。


《ゲーム『Holy World』、期待外れのエンディングで再び批判》


次。


《プレイヤーたちが開発者に“True Ending”の実装を要求》


そして三つ目。


《『Holy World』エンディング変更を求める署名、200万人を突破》


「…………」


エイデンは一つずつ記事を読んでいった。


どれも――


元いた世界のニュースだった。


昨夜まで自分が暮らしていた、あの世界の情報だ。


「ありえない……」


すぐに別のものを検索する。


とある街の名前。


とある芸能人の名前。


検索結果が表示された。


どれも正しい。


「これ……本当にインターネットじゃないか……」


喉が乾く。


ということは――


この《Search Bar》はHoly World内部の情報を検索しているわけではない。


それどころか――


元いた世界のインターネットと繋がっている。


「でも……」


「どうして……?」


答えはない。


むしろ、疑問はさらに膨らんでいく。


エイデンはGuugleのトップページへ戻った。


そして入力する。


Holy World


《Enter》。


瞬く間に、何百もの検索結果が画面を埋め尽くした。


記事。


動画。


そして、さまざまな掲示板へのリンク。


エイデンはまず、いくつかの記事を読んでみた。


しかし内容はどれも似たようなものだった。


Holy Worldのゲーム性がどれほど優れているか。


そして――


そのエンディングがどれほど酷かったか。


「うーん……」


新しい情報はない。


そのとき。


一つのサイトが目に入った。


Bluedit


プレイヤーたちが情報交換をする、最大級の掲示板サイトだ。


「掲示板なら……」


「もっと詳しい情報があるかもしれない」


エイデンはリンクに触れた。


画面が切り替わる。


上部に青いロゴが表示された。


Bluedit


無数のスレッドタイトルが画面を埋め尽くしている。


《パーティーメンバーを失わずに魔王を倒す方法》


《裏切り者の正体について考察するスレ》


《Holy World最強武器ランキングTOP10》


エイデンは次々と画面をスクロールしていった。


そして――


あるタイトルを見つけた瞬間、指が止まった。


《Area 01のEXPバグ、まだ修正されてない?》


「ん?」


すぐにスレッドを開く。


投稿者によれば、プレイ中に偶然バグを発見したらしい。


《Area 01に行ってみろ。アスター村の近くにある東の森だ。そこにいるLevel 3のスライムから、本来の何倍ものEXPを獲得できる》


《条件は、スライムの体内にあるコアを攻撃して、5秒以内に倒すこと》


《成功すれば、本来の数十倍のEXPが入る》


投稿の下には、何百ものコメントが並んでいた。


《まだ使える》


《1時間でLevel 30まで上がった》


《運営まだ気づいてないっぽい》


《拡散するなよ。修正されたら困る》


エイデンは目を見開いた。


「EXPバグ……」


もし、この情報が本当なら――


メインストーリーが始まる前に、一気に強くなれる。


「それって……」


「チャンスじゃないか」


エイデンはすぐに《Map》を開いた。


現在いる村と、その周辺地域が表示される。


地図全体に目を走らせ――


ほどなくして、村の東側に広がる森を見つけた。


「東の森……」


ここからそれほど遠くない。


歩いて二十分ほどの距離だ。


「書き込みと同じだ……」


Blueditに書かれていた場所と完全に一致している。


エイデンはごくりと唾を飲み込んだ。


もし、このバグを利用できれば――


この世界で生き残れる可能性は一気に高くなる。


それに――


詳しくは知らないとはいえ、彼はこの世界がどんな結末を迎えるのか知っている。


元の主人公のように、何もできないまま死ぬつもりはない。


「でも……」


エイデンは再び考え込む。


「もし、このバグまで本当に存在するなら……」


「この世界は、ゲームのデータ通りに動いてるってことか?」


ならば――


他の投稿は?


掲示板に書かれている情報も、すべてこの世界で通用するのか?


もしそうなら――


この《Search Bar》は、ただの検索機能ではない。


それは――


今のエイデンが持つ、最強の武器になり得る。


彼の口元に、わずかな笑みが浮かんだ。


この世界で目を覚ましてから初めて――


ほんの少しだけ、希望が見えた気がした。


「Logoutはできないかもしれない……」


「でも、少なくとも……」


「俺には、誰も持っていないアドバンテージがある」


そう言ってBlueditを閉じようとした――


そのときだった。


「……?」


突然。


一件の新しい投稿が、画面の一番上に表示された。


ほんの数秒前まで――


そこにはなかったはずの投稿。


タイトルは、たった一文。


《これを読んでいるなら、お前もHoly Worldの中にいるってことだ》


「…………」


エイデンの顔から、ゆっくりと笑みが消えていった。


心臓が再び激しく脈打ち始める。


「誰だ……」


エイデンは画面を凝視した。


「……これを書いたのは?」

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