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「……俺、本当にHoly Worldの中に入っちまったのか?」


その言葉が、何度もエイデンの頭の中で繰り返されていた。


彼はまだ鏡の前に立ったまま、今や自分自身となってしまった見知らぬ姿を見つめている。


見れば見るほど、現実を否定することが難しくなっていった。


この顔は、自分の顔じゃない。


この身体も、自分の身体じゃない。


それなのに、自分が動けば鏡の中の少年もまったく同じように動く。


「これは……夢じゃない」


エイデンは大きく息を吸った。


そして気持ちを落ち着かせるように、しばらく目を閉じる。


「落ち着け……まずは落ち着こう」


「ちゃんと確かめないと」


もしここが本当にHoly Worldなら、この世界にもゲームと同じシステムが存在するはずだ。


エイデンは、ゲーム内でメニューを開く方法を思い出した。


画面に触れるわけでもない。


ボタンを押すわけでもない。


必要なのは――音声コマンド。


エイデンは右手を上げた。


「……Open UI」


――ティン!


聞き覚えのある通知音が耳に響いた。


次の瞬間。


淡い青色をした半透明の画面が、彼の目の前に現れた。


「……っ!?」


エイデンは目を見開いた。


「本当に……出た……」


画面は何の支えもなく、空中に浮かんでいる。


Holy Worldをプレイしていたときと、まったく同じだった。


画面上部には、キャラクター名が表示されている。


Eiden


その下には、いくつかのメニューが並んでいた。


《Status》


《Inventory》


《Quest》


《Map》


《Skill》


《Party》


《Settings》


「何も変わってない……」


わずかに震える手で、《Status》に触れる。


新しいウィンドウが開いた。


――――――――――


名前:Eiden


Level:1


Job:None


HP:100/100


MP:50/50


Strength:5


Vitality:5


Agility:5


Intelligence:5


Luck:1


――――――――――


「……同じだ」


レベル1。


初期ステータス。


Luckに至っては、自分がこのキャラクターを作ったときと同じ「1」のままだ。


「ってことは……本当に物語の最初からなのか」


エイデンは《Status》を閉じた。


次に《Inventory》を開く。


空っぽだった。


入っているのは、今身につけている服だけ。


《Quest》。


何もない。


まだ一つもクエストを受けていない。


《Skill》。


スキルは一つも取得していない。


《Party》。


当然、メンバーはゼロ。


「やっぱり……Chapter 1の時点なんだ」


エイデンは長く息を吐いた。


これだけ何もないということは、主人公の冒険すらまだ始まっていない。


「……それなら、むしろ好都合か」


少なくとも、まだ多くのことを変える時間がある。


だが――


そのとき、ある考えが頭をよぎった。


「待てよ……」


「俺が本当にゲームの中にいるなら……」


「Logoutがあるはずだ」


エイデンはすぐに《Settings》を開いた。


いくつかの項目が表示される。


《Audio》


《Display》


《Control》


《Language》


そして、一番下には――


大きなボタンがあった。


しかし。


そこに書かれていたのは、《Logout》ではない。


《Sleep》


「……は?」


エイデンは眉をひそめた。


「なんでSleepになってるんだ?」


間違えるはずがない。


元のゲームでは、ここに《Logout》があった。


戸惑いながらも、エイデンは《Sleep》を押した。


すると、目の前にメッセージウィンドウが表示された。


――――――――――


《昼間は眠ることができません》


――――――――――


「…………」


エイデンは固まった。


「は?」


もう一度押してみる。


――――――――――


《昼間は眠ることができません》


――――――――――


「え……」


もう一度。


同じメッセージ。


「…………」


静寂。


数秒間、何の音も聞こえなかった。


そして――


「……は?」


「……は?」


「……はあああああっ!?」


エイデンは頭を抱えた。


「待て待て待て!」


「なんでLogoutがSleepになってるんだよ!?」


もう一度メニューを開き、隅から隅まで探す。


ない。


《Settings》を開き直す。


やはり、ない。


「Logout……」


「Logoutはどこだよ!?」


焦りが一気に膨れ上がった。


エイデンは片っ端からメニューを確認していく。


《Status》。


《Inventory》。


《Quest》。


《Skill》。


《Party》。


《Map》。


どこにもない。


「嘘だろ……」


「まさか……」


「本当に……ないのか?」


呼吸が荒くなる。


心臓の鼓動も、どんどん速くなっていった。


存在するアイコンを片っ端から押していく。


隠しメニューでもあるのではないか。


そう期待した。


だが――


何もない。


「いや……」


「バグだ」


「そうだ、絶対バグだ」


一度UIを閉じる。


そして、もう一度。


「Open UI」


青い画面が再び現れる。


すぐさま《Settings》を開いた。


結果は同じだった。


《Logout》はない。


あるのは、《Sleep》だけ。


「…………」


こめかみを冷たい汗が伝った。


「嘘だ……」


「嘘だろ……」


「Logoutがないってことは……」


「つまり……」


「俺……ここから出られないのか?」


その言葉を口にした瞬間、エイデンの顔から血の気が引いた。


数歩後ずさる。


膝から力が抜け――


そのまま木の床に座り込んだ。


「そんな……」


ありえない。


これは夢だ。


絶対にそうだ。


もう一度、頬をつねる。


痛い。


自分の頬を叩く。


痛い。


唇を噛む。


やっぱり痛い。


「なんで……」


「なんで目が覚めないんだよ……」


目を閉じて、数を数えてみる。


一。


二。


三。


そして目を開く。


だが――


部屋は何一つ変わっていなかった。


「あぁ……」


エイデンは自分の髪をかきむしった。


「嘘だろ……」


「冗談じゃない……」


そのまま床を転げ回る。


「出してくれ!」


「俺は帰りたいんだ!」


「これは夢だろ!?」


しかし、何も変わらない。


部屋は静まり返ったまま。


聞こえるのは、自分の荒い呼吸だけだった。


数分後。


ようやく少しだけパニックが収まったエイデンは、壁にもたれながら座っていた。


呼吸はまだ完全には整っていない。


目の前には、青いUIが浮かんだままだ。


「…………」


「もし……本当にLogoutできないなら……」


「つまり……」


「俺は、この世界で生きていくしかないのか?」


その事実は、あまりにも重かった。


この世界のことを、彼はほとんど知らない。


確かにHoly Worldをプレイしたことはある。


だが――


Chapter 1までしかプレイしていない。


それ以降の知識は、すべてネットで見かけたネタバレから得たものだ。


つまり――


この先の冒険で何が起こるのか、エイデン自身もほとんど知らない。


「くそ……」


彼はもう一度、UI全体へ視線を向けた。


そのときだった。


「ん?」


妙なものが目に入った。


画面の一番上。


メインメニューより、さらに上。


そこに、今まで気づかなかった細長い枠があった。


その形は、どう見ても――


「……Search Bar?」


エイデンは眉をひそめる。


「おかしい……」


「Holy Worldに……」


「こんな機能、なかったはずだ」


その枠に触れてみる。


すると――


中にカーソルが現れ、点滅を始めた。


まるで、本物の検索欄のように。


「……なんだ、これ?」


少しずつ、好奇心が恐怖を上回り始める。


もしこれがゲーム本来の機能ではないのなら――


この検索欄は、一体何のために存在している?


エイデンは点滅を続けるカーソルを見つめた。


ゆっくりと指を上げる。


試しに、何か入力してみようとした。


だが――


検索欄に触れる寸前で、その手を止めた。


「……もし、本当に何かを検索できるなら……」


「何が出てくるんだ?」


その疑問に、再び心臓が大きく脈打った。


今や見知らぬ世界となってしまったこの場所で――


この謎の検索欄は、彼を助けてくれる唯一の手がかりなのかもしれない。


それとも――


もっと大きな問題を引き起こすものなのかもしれなかった。

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