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敵ではない王

黒い霧が、東の森を覆い続けていた。


それまで涼しかった空気が、冷たく重いものへ変わっていく。


EidenとDariusの目の前では、何十体ものCorrupted Slimeが微動だにせず跪いていた。


まるで――


王を迎えているかのように。


ドン……


ドン……


ドン……


地面の揺れがさらに強くなる。


そして黒い霧の向こうから――


巨大な身体が、ついに姿を現した。


高さ十五メートル近くある、濃い青色の巨大Slime。


半透明の身体の中には――


淡い光を放つ金色の核があった。


頭上には、はっきりと名前が表示されている。


《Slime King(変異種)Lv.120》


Dariusは、指の関節が白くなるほど強く剣を握りしめた。


「Level……120……」


冒険者の声が震えている。


これまでにも――


強力なモンスターとは何度も戦ってきた。


だが。


これほどまでに圧倒的なAuraを放つ存在を見たことはない。


「Eiden」


Slime Kingから視線を逸らさず、Dariusが静かに言った。


「俺が合図したら……」


「すぐにエファス村へ走れ」


「そしてGuildに助けを求めろ」


Eidenは黙った。


「Dariusは?」


Dariusが薄く笑う。


「誰かが、こいつを足止めしなきゃならない」


「駄目だ!」


Eidenは即座に否定した。


「そんなの自殺だ!」


「分かってる」


「でも――」


「それが冒険者の仕事だ」


その言葉を聞いた瞬間。


Eidenの頭に、一人の人物が浮かんだ。


このキャラクターの父。


Arden。


本来の物語でも。


彼は――


他の者を逃がすため、自分だけその場に残ることを選んだ。


そして。


死んだ。


「やめて……」


Eidenが小さく呟く。


「また同じことになるのは嫌だ」


その時。


Slime Kingが――


二人から数メートル離れた場所で止まった。


だが。


奇妙なことに――


すぐには攻撃してこない。


それどころか。


真っ直ぐ――


Eidenだけを見ていた。


《……お前……》


低い声が再び――


Eidenの頭の中へ直接響く。


《……あの人間……》


《……また来たのか……》


Dariusがすぐに剣を構える。


「喋れるのか!?」


しかし――


Slime KingはDariusをまったく気にしていなかった。


視線はEidenに向けたまま。


《……匂いがする……》


《……別の世界の匂い……》


Eidenの目が大きく開いた。


「別の……世界?」


知っている?


こいつは――


自分が別世界から来たことを知っているのか?


考える暇もなく。


突然――


目の前に通知Windowが表示された。


――――――――


【新規Quest】


王との対話


【目的】


・Slime Kingの話を聞く。


【警告】


・攻撃してはならない。


――――――――


「……?」


Quest?


戦闘とは関係のないQuestを受け取るのは――


これが初めてだった。


Eidenは無意識に斧を下ろした。


「Darius」


「攻撃しないで」


「何!?」


「信じて」


Dariusが眉をひそめる。


「自分が誰と話しているか分かっているのか!?」


「Boss Rankのモンスターだぞ!」


「分かってる」


「でも……」


「……こいつには、俺たちを攻撃するつもりがない」


Dariusは困惑した表情でEidenを見る。


だが。


反論するより先に――


周囲のCorrupted Slimeが一斉に甲高い声を上げた。


SKRIIIIKKK!!


全員が動き出す。


しかし――


Eidenへ向かったのではない。


その標的は。


Slime King。


「何?」


数十体ものCorrupted Slimeが、巨大な身体へ一斉に飛びかかる。


まるで――


Slime Kingそのものを襲おうとしているかのように。


だが。


Slime Kingは動かなかった。


そして――


身体の中にある金色の核が輝き始める。


FLASH!!


黄金の光が森全体を包んだ。


次の瞬間。


すべてのCorrupted Slimeが――


黒い灰へ変わった。


爆発すらない。


戦闘すらない。


ただ――


消えた。


Dariusは立ち尽くすことしかできなかった。


「……何が起きた?」


Slime Kingがゆっくりと身体を低くする。


そして――


再び話し始めた。


《……俺は……》


《……原因ではない……》


《……この腐食の……》


Eidenの心臓が激しく鳴った。


「やっぱり……」


Search Barを見た時に抱いた疑問。


それは――


正しかった。


Slime Kingは。


モンスターたちを変異させている存在ではない。


むしろ――


Corrupted Monsterを倒していた。


《……いる……》


《……誰かが……》


《……広げている……》


《……Demon Manaを……》


突然。


Slime Kingの巨大な身体が激しく震えた。


下から――


再び黒い霧が滲み出す。


Slime Kingが苦しそうに呻いた。


《……急げ……》


《……俺が……》


《……なる前に……》


言葉が途切れる。


身体の中の金色の核。


その色が――


少しずつ紫へ変わっていく。


「……駄目だ」


EidenはすぐにSearch Barを開いた。


《Slime King 変異》


検索結果が表示される。


――――――――


【Slime King(変異種)】


Status:


大量のDemon Manaにさらされたことで、徐々にCorruptionが進行している。


金色の核が完全に黒へ変化した場合――


このMonsterは進化する。


その進化先は――


《Slime God》


――――――――


「……!!」


Eidenの呼吸が止まりそうになる。


Slime God。


Ardenを殺したBoss。


本来なら――


何年も先にならなければ出現しないBoss。


それなのに。


もう。


誕生が始まっている。


Slime Kingが――


最後にもう一度Eidenを見る。


《……救ってくれ……》


《……この森を……》


そう言い残し。


巨大なMonsterは身体を翻した。


そして。


森のさらに深い場所へ――


大きく跳んでいく。


EidenとDariusを残して。


その姿は――


やがて見えなくなった。


東の森を静寂が包む。


Dariusがゆっくりと剣を鞘へ戻した。


「俺は……」


「……今、初めて見た」


Eidenが彼を見る。


DariusはSlime Kingが消えた方向を見つめている。


「人間を守るMonsterなんて……」


Eidenも同じ方向へ視線を向けた。


もし――


Slime Kingの言葉が本当なら。


本当の敵は。


Slime Kingではない。


誰かが――


意図的にDemon Manaを広げている。


そして――


初めて。


Eidenは気づいた。


自分が知っているHoly WorldのSpoilerは――


最初から。


間違っていたのかもしれない。

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