第33話 天龍
飯盛山上空に、天から龍が降りてきた。
舞うように、青と白の二重らせんをたどるように。
地上にいた岬は現実とは思えない光景を見上げていた。
光の中を舞うように飛び回る龍はオーロラのように荘厳だった。
「すごいのが出てきてしまった。あんなの倒せるわけが」
彼女は自分の持つ薙刀『朱雀』が赤く瞬いていることに気づいた。
「……!」
岬はその光に背中を押されたようにさざえ堂の入り口に向かって駆けだした。
さざえ堂は岬が中に入ることを拒み続けている。
岬も今回の旅でいろいろなものに出会った。
赤べえや兎奇子、寅太は生物とはすこし違う存在だという。心を持つ物体。
(もしかすると、さざえ堂も同質のもの……つまり心がある?)
彼女は扉の前で叫んだ。
「お願い、わたしを通して。あの二人が必死に戦っている。ここでただ見ているわけにはいかない!」
上空では、大きな口を開けて龍が容保目掛けて飛来する。容保はふわりと宙に浮かび、龍の突撃を寸前でかわした。そして通り過ぎて行く長い胴に向かって刀を打ち下ろした。
「これでどうだ!」
容保は自らの卓越した剣技と聖刀白虎のもつ飛行能力を用いて、巨大な龍と果敢に戦う。
何回か彼の斬撃が龍の身体を捉えていた。傷は与えているはずだが、敵の動きは鈍るところがなかった。
「容保……」
容保と龍の激しい戦いに、大地は手を出せずにいた。
大地のもつ聖刀『青龍』にも特別な力が秘められている。
青龍は『自分以外の』物体のエネルギーを増幅させることができる。
しかし大地にはそれを制御することができない。上手くいった試しがない。
「容保、あれが見えるか。黒い光」
大地が指さしたその先には黒い球体のようなものがあった。
龍よりももっと高いところ。
球体からは小さな稲光のようなものが生じている。
容保がつぶやく。
「……玄武」
「照さんはきっとあのなかにいる」
龍は玄武の黒球を守護するように動いているように見える。
ただ見方を変えると。
大地は思った。
もしかすると、あの龍は黒球から……。
(離れて行動できない?)
「容保聞いてくれ!」
「どうした、大地!」
必死に戦う容保は、飛行能力を繰り返し使って、疲労の色が濃くなってきている。
「完全に僕の推論だ。この龍は照さんと聖刀の生み出す大きな力を、自分の動力源にしているのかも」
(可能性はある。容保も宙に浮かべるが、とてもエネルギーを消耗する。あいつのそんなに大きくもない体ですらそうだ。この龍はサイズがでかすぎる)
「何だと」
容保は目を凝らした。龍と黒球が光の筋でつながっているようにも見える。
「大地、お前の聖刀の力でわたしを黒球のところまで飛ばしてくれ! わたしがつながりを絶つ」
「なんだって? いや、でも、どっちに飛んでいくか分かんないんだよ」
「しかし、わたしが自力であそこまで行くことは無理だ。一か八かだが、頼む!」
「……わかった!」
大地は青龍の聖刀をかざす。
容保の身体から白い光が花火のようにあふれだした。
「いくぞ!」
はじけとぶ砲弾のように飛び上がる容保。勢いは凄い、しかし問題は方向。黒球ではなく龍の頭部に向かっていく。
白い流星のような容保は龍の首筋をかすめた。龍が悲鳴を上げる。わずかに方向が変わって、上には向かったが、目標の黒球とはずれがあった。
思ったよりはいい線だった。しかし的を外して、光を失った容保の身体は落下してくる。
「容保!」
大地の近くまで落ちてきたところで、容保の身体は白い光を取り戻し、減速した。
容保はもう一度龍に向かって刀を構えたが、目に見えて消耗していた。
もはや刀を持ち上げることすらつらそうだった。
「ダメだったな、一か八か。わたしは賭け事が弱い」
「大丈夫なのかよ容保!」
刀を構えなおして、会津松平家当主は笑みを浮かべた。
「ああ、早く決着をつけなければな。もうそんなに長くは持たないよ」
(くそ、このままでは……!)
何回か同じことを繰り返せば容保が龍のエネルギー源を切断できる可能性はある。
けれど、容保の体力がそんなに持たない。あと一回できるかどうか。
龍が恐ろしい雄たけびを上げ、ゆっくり近づいてくる。
絶望から一瞬下を向いた大地は、足元に起きている異変に気付いた。
青と白の光を追いかけるように、赤い光の階段がさざえ堂を起点として空高く飛び出して、二人の場所まで向かってくる。
「容保……下見て」
「これは、三重らせん……?」
新たな現象に驚く大地と容保
「秋月岬、助太刀いたします!」
岬が長い光の階段をかっとんできた。




