第32話 光の螺旋
「カギのようなものなのかな、僕たちの刀が」
大地がつぶやいた。
「さざえ堂に隠し部屋があるってこと? そんなの聞いたことがないけど……」
岬は戸惑うが、可能性を完全に否定することはできない。
容保が西の空を伺う。夕暮れ時が迫ってきていた。
「姉上のことが心配だ。あとどれだけ時間の猶予があるのかわからない。できることはなんでも試してみよう」
さざえ堂のどこかに『かぎ穴』のような場所があるのではないかと思い、改めて探索する。
「中に入ると刀の光が変化するのだから、外側に何かある可能性は一回捨てよう」
大地は、容保と再びさざえ堂のなかへ足を踏み入れる。
どういうわけだか岬だけが侵入を拒まれるので、また彼女は外で待機である。
「わたしも中を調べたいのに」
登っていく二人が隙間から見える。聖刀の光りかたが変化していく様子が外からでもわかった。
刀から発生する光の筋がしっぽのように二人をついてくる。手で触れることはやはりできない。刀を振ると揺れる。なにか決まった動きが必要なのかと二人でいろいろ試し続ける。
「光が強まったり弱まったり、絶対に意味はあるはずなんだが」
白い光を放つ自分の聖刀を凝視しながら、容保は焦り出す自分を抑えようとゆっくり息を吐きだした。
光の筋が不服そうに揺れている
「僕さ、反対側から入ってみるよ」
「うむ」
大地が容保を残して一度さざえ堂の外に出た。
容保はひとりで中を行ったり来たりしていた。
さざえ堂は二重らせん構造と言って、二つの入り口から入るとてっぺんまですれちがうことはない。
でも中央部の隙間から向こう側が見える箇所がある。
「あ、容保いた。おーい」
容保が大地にどう返事したらいいのかすこし迷っていたその時、刀の光が増した。激しく。
「これは……なんだ?」
急激な変化に容保は目がくらんだ。気のせいか耳鳴りがした。
「びっくりした!」
向こうから大地の声が聞こえる。同じ現象が起きたようだ。
外からも見えたのだろう。岬が二人を案ずる声が届いた
「いまの大丈夫だったー?」
容保と大地はもう一度外に出た。
話を聞いてみると、大地のほうがさっきの現象をよく観察していた。
「光を増したのは正確には刀身ではなかった。入り口から追いかけてきていた光の筋、それが急に太くなって、輝きを増して、結果的に刀も強く光って見えた」
「耳鳴りがしなかったか?」
「した。なんだろう、気圧が変化したのかな?」
その意味はわからなくとも、とにかく新しい現象が起きた。一歩前進だ。
①ふたつの入り口からそれぞれ入る
ふたりはまた同じようにいろいろと試しながら、相手の様子を伺いながら中を上り下りする。
そしてまた同じ現象が起きた。光の筋の急激な膨張、耳鳴り。
「あのさー! これさー!」
反対側にいる容保にむけて、大地が大きな声で呼びかけた。
「どーしたー!」
容保が、こちらも大きな声で返事をした。
「一緒に動くんじゃないかな。同じ速さで最初から最後まで下からてっぺんまで歩こう!」
「同じ速さで、か……。わかったが、それは難しいぞ? 互いの動きが全部は見えない」
容保の言うとおり、何回か試したがうまくいかなかった
②同じ速度で登っていく
岬は腕を組んで二人の悪戦苦闘を眺めていた。
彼女は思った。
どうして三人のうち二人しか入れてくれないのだろうと、拒まれたわたしは正直腹が立ったものだけれども……。
さざえ堂は別に意地悪しているわけじゃないのかも。わたしはここにいたほうがいい理由がある……?
あれ、そう考えて改めて見てみると……。
「ねえ、二人とも聞こえる?」
外から岬は叫んだ。
「どうした?」
中から大地の返事。
「どうもね、完ぺきな同調は求められていない。途中にチェックポイント……関門があるのよ。ここからだと見える。たぶん三か所。そこの通過だけを必ず合わせてみて」
「三か所か。少しはましだがそれでもまだ簡単ではないぞ」
「わたしに任せて容保さま。わたしは外から二人の位置が見える。微調整するから、わたしの声をよく聞いて!」
③3つの関門を同時に通過する
「わたしは1から10まで数える。10の時に重なるような速さで歩いてみて」
岬は大きな声で数を読み上げ始めた。
「1,2,3,4,5,6,7,8,9,10!」
「うわ」
「やった」
中の二人の声が聞こえる。
予想した通り、光の筋が膨れ上がる現象が発生した。
「そのまま行こう!1,2,3,4,……」
岬が数を数え続ける。二人はまた昇り始める。膨張したままの光の筋が二人についてく。
二つ目の関門を同時に通過した時、何かが割れたのかと勘違いするほどの乾いた破裂音があたりに響いた。そして、青と白の光の筋がもう一段階輝きを増した。
大地と容保は目を開けているのが難しいほどだった。
「これは、すごいな。容保大丈夫か?」
「平気だ。岬殿、数を数えてくれ!」
二人に言われて岬は3回目の10カウントを始めた。
美しい青と白の光の螺旋、空気の震えが外にいてもわかる。
そしてついに、さざえ堂の頂点にふたりは同時にたどり着き、それぞれの刀、大地の青龍の刀と、容保の白虎の刀を頭上に掲げた。
轟音が響く。無数の雷が一度に落ちたような衝撃。
大地の刀からの青い光。容保の白い光。二筋の激しい光が螺旋を描きさざえ堂の上空高くへ昇っていく。
「よっしゃ当たりだ。ってなんだこれ! ちょっと! おい!」
大地は叫んだ。
岬も驚きの声をあげた。
「さざえ堂の屋根が……開いた! あれって開くんだ」
青と白の光の二重螺旋。
「光の道、大地、これは登ることができるぞ」
容保は躊躇なく登り始めた。
「ええ? 大丈夫かよこれ」
大地はおそるおそると、容保を追うように上ります。
「あんた、頭固そうに見えて、この状況はすげー平気で受け入れるのな」
「もののけのやることだからのう、こういうものだと思うしかない。大地は怖い?」
「そりゃ怖いよ。照さん助けなきゃいけないから、仕方ないけどさ」
「恩に着るよ」
どこまで上っていくのだろうか。
元のさざえ堂の高さの数倍は登ったところで、はるか空高くから何かが降りてくるのが見えた。
「嘘だろ」
大地は自分の眼を疑った。
『それ』は地上の岬からもはっきり見えていた。
「わたしは不思議だった。敵が妨害に来る可能性は十分にある状況で、兎奇子はどうして見張り役を置いておかなかったのか。でもその必要はなかった。ちゃんと番人が配備されていた」
巨大な、長い尾をもつ龍が容保と大地に向かって、空高くから襲い掛かって来た。
容保は白虎の刀を構えて、静かに目の前の怪物を見据えた。
「思いも寄らぬことばかり起こるわが生涯だが、とうとう龍と戦う羽目になったわ」




