第31話 さざえ堂を攻略せよ
さざえ堂。貝殻の形にも似た木造の不思議な塔。今はなぜか水色の光を発している。
この中に照姫はいるという。
近くには用水路があって、綺麗な水が勢いよく流れている。
大地と岬が見上げた。
「さざえ堂……、地元にこういうのがあると聞いたことはある。行ったことはない」
「一度も行ったことない人は珍しいわね。……あ、でもそうか。おそらくだけど、会津戦争がなかったあなたの世界の飯盛山は観光地化されていない。むしろ霊山だから気安くいくような場所ではないのかも」
大地は、容保を振り返った。
「まずはこいつをどうにかしてからだ。でしょ?」
「……いいだろう」
ついさっき大地は容保に対してとても重要なことを宣言した。それは容保の考えとは反対のことだった。
しかし今は力を合わせるべきとき。
容保は、かわひらこと話したことを思い出していた。
「これは仮説でおじゃるが、兎奇子は照姫様そのものを新たな時の杭にしようとしている」
「姉上を……?」
「やつらは時の杭を作ることができません。いや、方法は知っています。しかし材料を持たぬのです。照姫さまと、あの方の持つ聖刀『玄武』が生み出す巨大な力はその材料となりうる。それからもうひとつ、時の杭を加工、精製するためには工場のようなものを必要、だがそれも、やつらは持ちません。さざえ堂はおそらく工場としての条件を満たす聖なる場所なのでおじゃる」
「急いだほうがよさそうだな」
「容保さま、これはただの縄張り争い。照姫さまを巻き込むことになり、あなたに申し訳ないでおじゃる」
「案ずるな、必ず姉上を救い出す」
気づくとかわひらこの目に涙が浮かんでいる。
「どうしたお前らしくもない。何を気弱になっている。きっと大丈夫だ」
「あの方が子供のころから見ているものだから、どうしても……」
「そうであったな。これからも姉上を頼むぞ」
そして、さざえ堂の前で容保は大地と岬に、かわひらこの説明を自分なりに話した。
「……と、かわひらこはそのように言っていた」
大地はあらためてさざえ堂を見上げた。
「とりあえず、入り口は普通に開いているね。何かいるような気配も感じない。……入ってみようか」
「そうね。ここで眺めていても仕方がない」
岬も同調する。
さざえ堂には左右に入り口が二つある。
左側のほうに三人は入ろうとした。
ところが。
「なにこれ、入れない。大ちゃん、容保さま、なんでかわたしだけ入れないよ」
岬の前にだけ光の壁が現れて、どうしてもそれ以上進めない。
大地と容保はしばらく待っていたが、無理なようだ。
「どういうことだろう……。わかった二人で行くよ。岬はここで待ってて」
「おや、これは」
気づくと大地と容保のそれぞれの聖刀から光が漏れている。刃はもともと常にわずかな光を放っていたが、鞘をすこしだけ抜くとその光は明らかに増していた。
大地の『青龍』からは青い光。容保の『白虎』からは白い光。
大地が自分の聖刀を興味深げに眺めた。
「岬の『朱雀』はNG、青龍と白虎はむしろ入れ。そう言われている気がする」
岬を残して、二人はさざえ堂の中を登り出した。
大地は階段で登ってくことを想像していたが、内部は板によって作られたなだらかな坂道だった。
巻貝のような外観通り、時計回りに渦を描くようにして登っていく。
ところどころに小窓があり、置いていかれてなんだか不服そうな岬の姿が見える。
進みながら大地がちょっと笑ってる。
「さっきの今で二人きりかよ。気っまずー」
後ろから行く容保は逆に不機嫌そうだ。
「そういう割に、そなたはちょっと明るい顔をしているな」
「あんたに言わなきゃいけないこと、言えたからね」
「……ひとりですっきりしおって」
周囲に目を配りながら容保も登り続けた。
彼は思った。
(わたしも自分の考えを伝えたつもりだが、何故だが足りていないような気がする。ほかに何をいうべきなのか)
大地は一歩一歩注意深く進む。
「……僕だってさっきの光景は衝撃を受けた。岬がいってた篠田儀三郎さんもあの中にいたの?」
「ああ、いた」
「その名前はどこかで聞いたことがあった。やっと思い出したよ、僕の世界では政府の大臣になっているよ、その人」
「立派になったのだな」
「僕のご先祖様もえらく出世した人でさあ。それも僕のコンプレックス。まあそれはさすがにあんたに恨み言いっても仕方がないけど」
「秋月……悌次郎か」
「そ」
「そうか」
容保はそれを聞いて少しだけ微笑んだ。まるで胸のつかえが一つ落ちたような笑みだった。
「あれ?」
先を行く大地が立ち止まった。
「どうした?」
「ここがてっぺんみたいだ」
「うん、そうだな」
「あとは下っていく……。何もないじゃん」
二人は壁や天井をくまなく観察してみたが、不審なところは見当たらない。
「なにかあるものかと思っていたが……」
「容保、刀を見て」
大地に言われて、容保が自分の聖刀を見た。
「光がさらに増している。これはどういうことだ」
「それだけじゃない。ほら」
大地が自分たちの登って来たほうを指さす。青と白の光の筋。
二人の刀から糸を引くように光がゆらゆら浮かんでいる。
大地は光の筋に自分の手をあててみたが、触れるものではなく、変化も起きない。
「別に熱くもない。なんじゃこりゃ」
「このお堂のなかでだけ起こる現象……」
大地が青く光る青龍の刀を容保の白虎の刀のほうに近づけると、お互いに輝きの具合が少し変わる。刀と刀が意志の疎通を図っているようにも見えた。
互いの光の筋がぶつかると、互いに揺れた。
「あ、おもしろい」
大地が刀を揺らして青い光の筋を波打たせると、容保の刀からの白い筋がそれにあたって、絡まりそうになった。
どこかちぐはぐで、お互いにやきもきしているようでもある。
しかし、どれだけ見ていても、それ以上は何も起きない。
「とりあえず進んでみるか」
容保の言葉に大地はうなずいた。
下り坂を進みだす。二筋のひかりはやはりずっと追いかけてくる。
「刀身の光が少し落ち着いてきたようだな」
容保が気づいた。
「本当だ。……どうも僕たちのいる高さに比例しているような気がする」
そして岬のところへ戻って来た
「あ、出てきた。どうだった?」
「よくわからない」
容保が、いまはすっかり光の弱くなった自分の聖刀を見つめている。
大地は自分が出てきた建物を眺めている。
「僕らは左の入り口から入った。そして右側からでてきた。一筆書きだったな。あれ、改めて考えると、そんなことってあり得るのか?」
岬が答えた。
「それはもっともな疑問ね。さざえ堂は世にも珍しい二重螺旋構造だから」
「変な造りだね。木造でこれをやっちゃうんだ。昔の人、ちょっとすごい」
それから大地は首をひねった。
「おもしろい建物なのは分かったけど、さてこれからどうしよう?」
刀の光が三人に何かを問いかけているようだった。




