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第30話 飯盛山と容保、ふたりの誓い

 大地は容保の顔をずっと見ていた。


 容保は、飯盛山のその場所にたどり着くと、静かに歩いて回った。時折しゃがみこんだ。

 顔を確かめて、持ち物を確かめていた。長い時間をかけた。


 遠くで砲声が聞こえる。西の山々に太陽がもうすぐ差し掛かるこの時間になっても、今日の戦いはどこかで続いていた。


 振り向けば遠くに鶴ヶ城が見えるのだと思う。白虎隊が最後に見た景色。

 しかし大地は容保を見続けていた。


 やがて容保は大地のとなりに来た。

 そして、手を合わせて長い間目を閉じた。


 祈りを終えて、容保がつぶやいた。

「どうしてわたしはここにいるのだろうな、大地殿」

「僕たちが、殿様、あんたを呼んだ」


「本来は見ずに終わったはずのものを、わたしは今こうして見ている。わたしのために戦い、死んだものたち。もし、このいくさがなかったら、彼らにはどんな続きがあったのだろう」


 容保は目の前の彼らに語り掛けるかのようにささやく。


「あの開陽丸の甲板でかわひらこたちと出会い、わたしはふたつの会津があると言われた。どちらかの未来を選べと言われた。いくさで無残に破壊された会津と、いくさがなく、健やかに発展することができた会津。わたしはいくさのなかった会津を望むと言った。即答だったな。当然だと思った。でもその意味が本当には分かっていなかったようだ」


 大地はなにも答えない。容保の横顔が夕日に照らされていた。

「いまは分かったと思う。それを知るためにわたしはここに来たのだ」


「容保、……僕の言葉を聞いてもらえるかい?」

 容保は大地のほうを振り向いて、じっと彼を見た。それからうなずいた。

「聞くよ」


 大地も、容保も、互いに目は逸らさなかった。

「あなたの見ている僕と岬は、それぞれ違う世界の会津若松からきた。岬のいる世界で、彼女と僕は夫婦だ。幸せに暮らしているのだそうだ。けれど、僕のいた世界、僕にとっての事実、そこでの岬は他の人と結婚してしまう。僕はひとり」


「……そうなのか」


「今度のことで岬と過ごして、僕は改めて思ったよ。岬なしで生きていくことなんかできない。だから僕は、岬と夫婦でいられる世界のほうを選びたい。そしてそれは、会津でのいくさがあった世界。僕たちがいまいるこの世界の、この悲劇の延長線上」


 大地を見つめる容保のまなざしは、咎めているようにも、悲しんでいるようにも見えた。

「それは……、大地殿の気持ちは……わかる。しかし、そなたの選択を受け入れることはできない。わたしはとても多くの人間についての話をしている、国について話をしているのだ」


「そして僕はたったひとりの話をしている。わかるよ? 僕はひどいことを言っている。いつかあきらめられるだろうかと考えていた、でも逆だったんだ。自分を正当化はしない。せめて、この人たちの前であなたに言おうと思った」 


 大地は容保から目をそむけ、手を合わせた。それから、彼は歩き出した。

「行こうか、照さんを助け出そう。そこまでは手伝う。彼女には僕も恩がある」


 大地の背中に、容保がなにか声をかけたが、彼の歩みは止まらなかった。


 来たときの道をもどり、岬が待つさざえ堂の前まで二人はたどり着いた。

「お帰りなさい。大丈夫? 怖かったでしょ、大ちゃん」


「岬はいかなくて正解だったとおもうよ。さあ、もうひと頑張りしようか」

 大地は岬に向かって微笑んで見せた。それからひとこと言葉を付けたした。

「ただいま」


 大地の安らいだ表情を、容保がじっと見つめていた。


 水色の光をまとう大きなさざえ堂が、そんな彼らを見下ろしていた。



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