第28話 照姫の行方
大地は町の様子を見に行って、まだ戻ってこない。
自分たちまで動いたらはぐれてしまう可能性が高いだろうということで、岬と容保は、七日町の裏通りで休んでいた。高い樹木の日陰もあって過ごしやすかった。
「遅いな、大ちゃん」
「そうだな……」
岬は容保の向いに座っていた。容保はさきほどから言葉が少ない。長いまつげを物憂げに伏せて考え事をしている。
岬は思い立ったように立ち上がり、容保の横に座った。
「あのね、容保さま」
「どうした岬殿」
「わたしたちは違う時代に生きている。それぞれが知っているはずがないことについて話すのはなんだかよくない気がして控えていたのだけれど」
「うん」
「でも、せっかくだから少しお話しませんか?」
岬は、少しでも自分の気晴らしになればと考えているのだろう。容保は思った。
「確かに……聞いてみたいことは山ほどあるな……」
「わたしもです。わたしこそです!」
そしていろいろなことを二人は話した。岬が質問を選んでくれていることはよくわかったので、容保も純粋に興味があることをいろいろ尋ねてみた。
「未来では、会津から江戸に行くまで二刻(4時間)かからないのか」
「手紙は1秒かかりません。すごいでしょ」
「すごいが……それはどうなのだ?」
「といいますと?」
「それだけ、たくさん働かなければならないのではないか? 会いに来いと言われたらすぐ行けるし、手紙の返事がすぐに来てしまうのだろう? 自分だけが便利なものを使えるのであれば何ごとにおいても有利だろうが、全員が同じ条件なら、それは別に……疲れるだけ」
「それはそう」
岬はくすくすと笑った。
容保の表情も少しだけ和らいだ。
岬が新撰組のことを聞いてみたいなと思ったその時、大地が戻って来た。
「照さんの行方が分かったかも」
「えっ?」
「大地殿、まことか」
大地の言葉に、岬と容保は驚いた。
「照さんは連れ去られた。兎奇子によって。あいつが金を払って、他所から来ていた商人に照さんを運ばせた」
容保は、鶴ヶ城上空で対峙したときに見た兎奇子の眼の不気味な赤い輝きを思い出していた
「おのれ、一体何のために姉上を」
岬が尋ねた
「それで、大ちゃん。その悪者商人たちはあなたが捕まえたの?」
「いや、怖いから逃げた。でもほら、ついてきちゃったみたいだから、悪いけどやっつけて?」
刀を抜いた男たちが5人現れた。
「バレたからには痛い目見てもらおうか!」
「ちょっとちょっと」
岬は素早く薙刀を構えた。
容保も刀を抜く。
大地も一応自分の刀を構えたが、彼は特に剣術の心得があるわけではない。
真剣相手にも臆せず立ち回る岬の姿に内心見惚れていた。岬は学生時代に薙刀部だったと聞いたことがある。
岬の一撃が商人の一人の肩口を捉えた。
「ぎゃあ!」
大地が驚く。
「え、岬、切っちゃったの?」
「そりゃまあ、人間相手だから峰打ちよ」
岬は薙刀で相手の体を押さえつけている。
「燃やすけどね」
薙刀の先端が赤く輝いた。
「熱っつ!」
商人は地面を転がって、火がついた衣服をこすりつけた。
それは岬が持つ聖刀『朱雀』の能力。
岬と容保のほうがはるかに腕が立ち、男たちはみるみるねじ伏せられていく。4人倒した。
「あれ、一人逃げたか?」
大地が気づいた。
もう一人は、隙を見て近くの大木にすばやくよじ登っていた。
「ふう、ここなら見つかるまい。女を一人さらうだけの楽な仕事と思ったが、こんな面倒に巻き込まれるとはな。しかし、どうしてあんなところに運ぶ必要があったのだろう?」
「その話、もう少し詳しく聞かせてもらっていいかのう」
容保が目の前に浮かんでこちらを見ていた。彼の体を白い光が包んでいる。聖刀『白虎』の能力。
「うわ、飛んでる!」
「うるさいぞ、こっちはいろいろあって参っておるのだ」
珍しく容保の眼が座っている。
「空ぐらい飛ばせろ」
「ひい!」
悪者たちは三人によってとらえられた。大地が彼らのことを、先ほどあった町の責任者と思しき人物の元へ連れて行った。
責任者の前で、縛られた男たちに照のことを尋問した。岬が声を強める。
「それでその女性は無事なんでしょうね!」
「意識はなかったが、ケガをしているわけでもなさそうだった」
「あなたたちは彼女をどこに連れ去ったの?」
「さざえ堂だ。理由はさっぱりわからねえ」
「さざえ堂?」
岬の顔が強張った。
大地は、隣の容保がいつのまにか笠を深くかぶりなおしていることに気づいた。
「殿さま?」
「あの男はわたしの顔を知っている。『検断』だ」
「検断?」
大地は責任者の顔を見た。岬がとなりでささやいた。
「会津若松の商人のトップである検断には、商いの妨害をしたものを自分の判断で罰する権限があるの。はるかむかし、足利義満から許可をもらった」
「へえ、凄いんだね」
「この五人はわしが処分する。この町で悪さをすることは許さねえ」
「許すも何も、もう町なんて燃えて無くなったじゃないか」
検断の言葉に、捕らわれた男の一人が憎まれ口をたたいた。
検断はしゃがんでその男の胸倉を荒々しくつかんだ。
「会津なめんじゃねえぞ、明日には商売を再開してやらあ」
検断はずっと厳しい表情をしていたが、大地の顔を見ると少しだけ眉の角度が和らいだ。
「あの子供は家族に会えたよ」
「そりゃよかった。ありがとうございます」
「行くのかい、さざえ堂に」
「はい、急がねば」
「うちの若いのを手伝わせる。急ぐのだろう?」
容保たちは空の荷車に乗せてもらえることになった。三人がかりで押していく。
乗り心地があまり良くないが早い。
一度、かわひらこと赤べえがいる蚕養国神社に戻ることにした。
遠ざかる町を振り返りながら大地がつぶやいた。
「都みたくばここまでござれ、今に会津が江戸になる」
岬がそれに気づいて大地のことをちらりと伺い、それから彼女も七日町のほうを見つめた。
「わたし、その歌好きよ」




