第2話 松平容保公②
「なんだ、あれは?」
容保は、その異形のものたちを前にして、目を見張った。
白く輝く、見たこともない装い。
慶喜が静かにつぶやいた。
「南蛮の鎧じゃないか? ずいぶんと古めかしいようだが」
西洋の軍装にも詳しい慶喜だから気づいた。もののけたちは西洋の古の騎士のような白銀の鎧をまとっている。大剣を手にして、巨大な兜で顔の部分は覆い隠されていた。
岬が呼びかけた。
「容保さま。これは人ではありません」
「どうもそのようだな。もののけというやつか」
慶喜は感心している様子。
「ほう、初めて見たよ、もののけ。こんなにはっきり見えるものなんだな」
かわひらこは、白銀の鎧たちを見渡しながら、ゆっくりと距離を置いていく。
「戦うしかないようですね。岬さんお気をつけて。わたしは絶対に安全な場所まで下がりますので、よろ♪」
「君、いつもながらそういうところがカッコ悪い」
あきれ顔の岬。赤い刃を白銀の鎧たちに向けて構えた。
岬の隣に容保が歩み寄り、腰の刀を抜いた。
「助太刀するよ」
「ありがとうございます、容保さま」
岬は周囲を見渡して状況を確かめる。戦う姿勢をとる彼女と容保。二人に近づいてくる四体の白いもののけ。思いっきり距離をとるかわひらこ。
それから慶喜。腰に手をやってこの状況を眺めている。他人事のように。
岬は敵に注意を払いながら、そんな慶喜に声をかけた。
「恐れながら慶喜さま。わたしはあなたを守る必要がありますか?」
「おやおや」
慶喜は岬の言葉に笑みを見せた。とても凄みのある微笑だった。
「娘、みくびるなよ」
刀を抜いた慶喜。彼は突然、四体の敵に向かって躊躇なく斬りかかった。
「あ、こいつら結構強いんですけど!」
岬が止める間もなく、慶喜は白銀の鎧たちの一つの胸元まで一瞬で飛び込み、そこから袈裟懸けの一刀を打ち込んだ。
鎧が裂けて、ふきとんだ上体が船の甲板から真っ暗な海へ落ちていった。
「戦うことが最善と見れば、それを恐れる慶喜ではない」
言うが早く、慶喜は次の相手に向かって斬りかかる。容保がそれに続くように自分の正面の敵に向かっていった。
容保は剣を持つ白銀の騎士の一体と何度か切り結ぶ。自分より一回り大きい敵の攻撃をしなやかな動きで受け流し続け、最後に彼が一閃した刀で甲高い金属音とともに敵の首が高く飛んだ。
慶喜がもう一体倒して、あっというまに合計三体の敵が容保と慶喜によって切り捨てられた。
岬は感心したように、小さく息をひとつついた。
「それはそうか。このふたりが弱いはずはなかった」
そして岬が後ろを振り返ると、残り一体の騎士が彼女に向かって同時に斬りかかってきた。
「岬殿!」
容保が叫ぶ。
「やー、容保さまに名前呼んでもらっちゃった」
岬はこともなげに、騎士の連続攻撃を受け止めて、かわす。
それから彼女は、トンと後ろに飛んで、敵から距離を置いた。
「行け、朱雀の炎!」
岬が自分の目の前の中空を薙刀で切り裂くと、赤い光の帯が生まれた。光はまるで鳥が大翼を広げたようにかたちどり、相手に向かって勢いよく放たれた。
岬に向かってきた白銀の鎧は一瞬で真っ二つに切り裂かれ、断片が炎に包まれた。
「なんと」
海へ落ちていく炎の塊。見たこともないその様に、容保は呆然とするばかり。
四体の敵がすべて倒された甲板に沈黙が戻った。そして岬はもう一度容保のもとにひざまずいた。
「容保さま、改めて申し上げます。わたしたちと一緒に来てください」
戦闘では特になにもしなかったかわひらこも、岬のとなりに歩み出る。
「このままでは世界が崩壊します。わたしたちはそれを防ぐために自らの命すら惜しまぬ覚悟。そして、どうしてもあなた様の助けがいる。とはいってもそれはあまりに途方もない話。その目で見ていただかなければ理解も信用もできるはずがなく。容保さま、わたしはこれからあなたをお連れします。二つの未来、二つの会津へ」
かわひらこが懐から取り出した扇子を空にかざすと、七色の巨大な光の渦が巻き起こり、中から赤い大きな牛と、黒漆で染められた牛車が現れた。
光の渦はどこかへ続く扉のようだった。
閃光の向こうに、容保は幻を見た気がした。ふたつの幻。
青い海原にはためく、たくさんの会津の旗。もう一つは炎に囲まれた城の姿。
「……会津」
立ち尽くす容保は、自分の守るべき国の名を口にした。
次回 第3話 二つの会津①
岬とかわひらこに連れられて、容保は未来の会津へと向かう。
二つの会津、二つの可能性。容保がそこで見たものは。
(6月2日投稿予定)




