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第16話 鶴ヶ城上空での戦い、容保の秘めた能力。

 5人が乗った赤べえが引く牛車は時空の川を進み、1868年、8月の会津を目指してた。

 そこでは会津戦争が起こっている。この国で800年続いた武士による統治の終わりの時。


「かわひらこくん。わたしたちは、正確なところ1868年、慶應4年の8月何日に向かっているの?」 

 岬が聞いた。


「我々は時空の損傷が激しい箇所を探知して、それに吸い寄せられています。人々の情念が凝縮された特異点。それは絶えず揺らぎがあるので、いま特定することは難しいのですが、おそらくは……」

「そう」

 岬は、かわひらこのその説明で察しがついたようだった。


 大地は四振りの聖刀について説明されたことを思い返していた。 

 照の秘めた強大なエネルギーを容保と岬、そして大地が連携して標的にぶつける。


(ゴレンジャーハリケーンみたいだね)


 大地は内心『大昔の戦隊もの』を思いついたが、容保と照はもちろん岬にすらそれが伝わるとは思えなかったので、何も言わなかった。


 そして向こうに座る岬の横顔を見つめた。

 朱雀の薙刀を肩にたずさえて、緊張した表情の彼女はとても美しかった。艶やかで凛として、まるで赤いバラの花束のような。


 大地は今までいろんな人から、お前は努力などしていない、と何度もいわれた。

 どうして努力をしないのかと罵られた。僕のやってきたことなんて見てもいないくせに。


 僕が他人の思いを否定して何が悪いというのか。欲しいものを手に入れるために。


「あれ、……頭が痛い。なんだこれ?」

 大地は自分の頭を手で押さえた。ひどい頭痛が急に起こった。手で軽く頭をとんとん叩いてみるが全然収まりそうにない。


 かわひらこが彼の顔を覗き込んだ。

「時空移動の影響がもろに出てるようでおじゃるな」

「いままではこんなのなかったぞ?」


「それだけ今向かっている時間と場所が特別ということ。あなたは時空につけられた傷跡そのものなのでおじゃる」


 照が、両手で大地の手を包み込むように握ってくれた。

「大丈夫、これはきっと二日酔いのようなもの。昨日はたくさん飲みましたものね。また一緒にお酒を飲みましょうね」

「照さん」

「大丈夫」


 かわひらこの緊張した声が響いた。

「一同、まもなく到着です。1868年8月の会津へ」


 激しい痛みに大地は頭を左右に振った。そして言葉を漏らした。

「あのさ、いまさらなんだけど、……僕はこの作戦に協力したくない」


 次の瞬間、牛車が急ブレーキでもかけたかのように大きく揺れた。

「どうした、何事だ!」

 容保が叫ぶ。

 牛車の簾がめくれて、外の景色が目に入ってきた。そこにいたのは大きな寅。


「寅太だ。しまった先回りされた!」

 かわひらこの声が響く。大地と容保が江戸の市中で見かけた寅。

 

 1000年ほど昔の平安時代からやってきたかわひらこ。彼にとっての敵対勢力、大地たちよりもはるか未来からやって来た『未来人』。

 彼らによって創られた寅太。


 容保は寅太を見据えながらかわひらこに尋ねる。

「戦って勝てる相手か?」

「難しいですが、やるしかなさそうです。距離をとれ赤べえ!」


 さきほど重大な宣言をした大地はかわいそうにほって置かれている。それどころではないのは確かだったが。


 岬が容保たちの横から顔を出した。そして彼女は見た。


 立ち上るおびただしい煙。そしてその中心にそびえる鶴ヶ城。


 容保たちの乗る牛車と寅太は会津の上空で対峙していた。


 赤べえは必死の形相で空を駆け急旋回する。寅太がすかさず追走してきた。


 地上からの煙の臭いはここまで届き、砲声も聞こえた。町のあちこちで戦闘が起こっている最中のようだった。


 容保も混乱の中にある会津城下を目にした。

「わたしの国が……会津が破壊されている!」

 

 日本に平穏を取り戻すために京都で働き続けた容保が、いまその帰着を目の当たりにしていた。

 彼にとっては最悪の結論。


 岬も動揺している。

 2025年の会津若松市からやってきた彼女は、歴史として情報として会津戦争について知っている。しかし、実際にこうして過去とはいえ自分の故郷が惨劇に巻き込まれている様をみた衝撃はあまりに大きいものだった。


 岬は鶴ヶ城から目が離せずにいた。上空高くからでも、二の丸、三の丸を走り回る兵士たちの姿が分かる。

 彼女はぽつりとつぶやいた。

「あれが山本八重」


 岬の眼前に寅太の恐ろしい形相が迫った。

「きゃ!」


 赤べえが体をひねって寅太の突進をよけた。


「この!」

 岬が薙刀を振りかざし、牛車の後ろから炎の帯が放たれた。聖刀『朱雀』の能力。


 寅太はそれを空中で器用にかわした、そして攻撃を警戒しながらも再び襲い掛かって来た。


「機動力は向こうが上か。岬!」

 大地が叫んだ。


「僕の刀はエネルギーを増幅する。君の炎をパワーアップできるはず」

「分かった。やってみましょう!」


 殺されてはかなわないので、大地もいやいやながら戦うしかない。頭痛が少し収まった大地は腹をくくった。


 大地と岬は並んでそれぞれの武器を構えた。

「いくよ大ちゃん。朱雀の炎!」

「青龍の叫び!」


 岬と一緒に大地も叫んだ。言葉が自然と出てきた。


 岬の薙刀から炎が噴き出す。そして大地の刀からあふれ出た青い光が、岬の炎を包み込む。


 炎が鳥の羽ばたく形へと変わり、そしてさらに巨大化した。寅太よりもはるかに大きく。

「すごい、これが聖刀『青龍の力』!」

「いいぞ、いける!」


 岬と大地は炎が寅太に襲い掛かることを期待した。

 ところがその炎は、轟音と共に、赤べえの鼻先をかすめてあさっての方向へと飛んでいった。

「ぴぎゃー!」


「なんだこれ! まったく制御ができない!」

「大ちゃん何やってんのよ。赤べえがちょっと焦げた!」

「赤べえごめん!」


 寅太は強烈な炎の通り過ぎて行った方向を見ていたが、気を取り直したようにこちらへ向かってきた。


「やばい、逃げろ、やばい!」

 大地が慌てる。その横で照が眉をしかめて何かを見ていた。


「もう一匹いますね」


「え?」


 大地が照の視線の先を見ると、確かに空中に浮かぶ影があった。寅太よりはだいぶ小さい。


「あれは」

 かわひらこが身を乗り出した。


「またお会いしましたな、ねずみ」

兎奇子(ときこ)、お前も来たのか」


「かわひらこ、あなたの知り合い?」

「あやつもまた未来人によって創られしもの、兎奇子。『未来の人斬り』面倒な奴でおじゃる」


 兎奇子はどこかの軍服のようなものを纏っていた。

 とても長い銀髪を二つのお団子からツインテールで束ねて、人のような姿だが、目がぎらぎらと赤く光っている。

 鋭く冷たい風貌は女性にも男性にも見えた。


「さあて、商売の時間でっせ♪」

 兎奇子が手にした長槍で襲ってきた。


「あ」

 兎奇子の飛翔、そのけた外れの早さ。大地は目で追えず、消えたかとすら思った。

 一瞬で距離を詰めてきた。狙いは赤べえだった。


「まずい、赤べえ!」

 かわひらこが叫び、赤べえが観念したようにそのつぶらな瞳を閉じた


 その瞬間、容保が赤べえの前に現れた。


 槍が容保の眼に向かって真っすぐ伸びてくる。

 

 命のやり取りのこの場において、容保にはすべてがゆっくり動いて見えていた。

 容保は感情のない眼差しで、自分に近づいてくるその槍先を見つめる。


 そして刀でいっきに槍を切り払った。


 兎奇子ははじけるように後方へ飛び退り、破壊された自分の槍を眺めた。

「おや、思ったよりやるやないの、容保はん」


 容保は刀を構えたまま、空中にとどまっている。浮かんでいる。


 岬がその姿を見て、驚きとともに叫んだ。

「これが聖刀『白虎』の力……! 容保さまは……」


 容保は足元に見える鶴ヶ城を一瞥した。それから正面の兎奇子をにらみながら呟いた。

「飛べる」

次回 第17話 空飛ぶ殿様

2026年 7月1日(水)投稿予定

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