第8話:姉妹同時侍奉の予感
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前回までのあらすじ:極限の渇きと悠の冷徹な支配に心身ともに屈した綾香が、家族のためという建前を捨てて自ら進んで隷属を誓う一方、その情事の気配を察した妹の舞香の中で激しい嫉妬と野心が燃え上がる。
それでは、第8話をお楽しみください。
※本作は規約遵守のR15作品です。過激な描写にご注意ください。
アパート『シャン・ソレイユ』を囲む樹海に、六度目の、そしてこれまでで最も残酷な朝が訪れた。
断水と停電から始まったこの悪夢が、一週間に迫ろうとしている事実は、住人たちの肉体からだけでなく、精神からも「明日」への希望を削ぎ落としていた。蛇口から水が消え、電気が途絶え、文明の残り香が完全に消え失せた廊下には、死を待つような沈黙だけが重く沈殿している。101号室の金井家の居間では、空になったペットボトルが累々と転がり、一滴の湿り気も残っていない。
「……お姉ちゃん、起きてる?」
鈴木舞香の声は、ひび割れた大地のように掠れていた。
かつて営業職として鳴らした彼女の快活さは見る影もない。整えられた爪は剥がれ、肌は乾燥で粉を吹いている。しかし、その瞳だけは、飢えた獣のような鋭い光を失っていなかった。
視線の先には、姉の金井綾香がいた。
綾香はソファに身を横たえ、虚ろな目で天井を見つめている。昨夜、201号室から戻ってきた彼女は、貴重な二本の水を手渡した後、一言も発さずに眠りについた。だが、その肌には智哉も舞香も知らない、異様なまでの艶が宿っている。それは生命力というよりは、何か濃密なものに浸された末の、毒々しいまでの「潤い」だった。
「智哉さんは?」
「……まだ、寝室よ。もう、起き上がる気力もないみたい」
綾香の声は、昨夜の情事の名残か、どこか甘く、湿り気を帯びている。それが舞香の神経を逆なでした。
「昨日も、佐藤さんのところへ行ったのよね。あんなに冷えた水を二本も……。お姉ちゃん、本当はあそこで何をしているの?」
舞香の追求に、綾香の肩が微かに跳ねた。だが、彼女は妹の目を見ようとはしない。
「……何って、お願いしているだけよ。あの人は、ただ……少し気難しいだけ」
「嘘よ。あんな冷酷そうな男が、タダで水を分け与えるはずがないわ。営業をやっていればわかる。取引には必ず、見合った対価が必要なの」
舞香は立ち上がり、姉に詰め寄った。その足取りはふらついているが、執念が彼女を動かしている。
「お姉ちゃん、身体、触らせて」
「……何言ってるの、舞香、やめて」
拒絶する綾香の腕を、舞香は強引に掴んだ。ブラウスの袖から覗く白い手首。そこには、昨夜佐藤が強く掴んだであろう、青紫の指の痕が鮮明に残っていた。
「……これ、何? お願いして付けてもらうような痕じゃないわよね」
綾香は黙って視線を逸らした。その沈黙は、何よりも饒舌に事実を物語っていた。
その時、ドアをノックする音が響いた。
101号室の三人は、今やこの音に過敏に反応するようになっている。綾香が重い腰を上げ、ドアを開けると、そこには無機質な表情を浮かべた佐藤悠が立っていた。
彼は階下の住人たちの窮状など露知らずといった様子で、完璧に整った身なりを崩していない。その手には、結露でラベルが湿った冷たい水のボトルが一本、見せつけるように握られていた。
「……佐藤さん」
綾香の声が、期待と恐怖で震える。
「金井。昨夜の続きを話に来た」
佐藤は部屋の中へ土足で踏み込むと、ソファに座る舞香を品定めするように見下ろした。その視線は、人間を人間として見ているのではなく、陳列棚の品物を値踏みするような冷徹なものだった。
「……金井の義妹、だったな。君も、姉と同じように賢明な判断ができる人間だと期待しているが」
「私に……何か用ですか?」
舞香は警戒を隠さず、低い声で応じた。自分を「義妹」としか呼ばないこの男に、名前すら覚えてもらう価値もないと切り捨てられたような、言いようのない屈辱感を覚える。
「明日の朝までに、新たな水の配給を行う。ただし……」
佐藤は言葉を切り、綾香の腰に手を回した。人前であることなど気にも留めないその独占的な動作に、綾香は拒絶するどころか、陶酔したような吐息を漏らしてその身を預けてしまう。
「今回は、姉妹二人で僕の部屋に来てもらおうか」
その言葉に、舞香の顔から血の気が引いた。
「……二人で? どういう、意味よ」
「言葉通りの意味だ。綾香一人では、少々物足りなくなってきてね。姉妹揃って僕に奉仕し、その絆が壊れていく様を見せてもらう。それが、今夜の『対価』だ」
佐藤は残酷な宣告を、事務連絡でもするかのように淡々と告げた。
「断れば、金井家への水の供給は今日で打ち切る。寝室で震えているあの男がどうなろうと、僕の知ったことではない」
「……そんな」
舞香は姉を見た。姉は、佐藤の腕の中で力なく首を振っていたが、その瞳には抗う意志など一片も残っていなかった。むしろ、妹も自分と同じ場所へ堕ちてくることを、密かに望んでいるかのような気配さえ漂っている。
佐藤が去った後、101号室には死のような沈黙が戻った。
テーブルの上に置かれた、佐藤が「手土産」として残していった一本の水。その透明な液体が、死に体の家族にとってどれほどの重みを持つか、舞香には痛いほどわかっていた。
「お姉ちゃん……本気なの? あの男に、二人で……」
「……舞香。あの人は、神様なのよ。この絶望の中で、私たちを生かせる唯一の存在」
綾香は狂信的な光を宿した瞳で、妹の手を握った。
「智哉さんはもう限界よ。あなたが断れば、彼は明日には死んでしまうかもしれない。……私と一緒に、行きましょう? 大丈夫、最初は怖かったけど……今は、あの方に壊されることが、何よりも心地いいの」
「正気じゃないわ……」
舞香は姉の手を振り払った。
しかし、同時に彼女の脳裏には、営業職として常に抱いていた強烈な向上心と、姉に対する歪んだ優越感が首をもたげていた。
(お姉ちゃんは、あの男に負けたんだ。事務職らしく、ただ言われるがままに支配されて……。でも、私なら……)
舞香は鏡に映る、ボロボロになった自分の姿を凝視した。
このまま無様に枯れ果てて死ぬか。それとも、あの尊大な男の懐に飛び込み、姉以上に重用される存在となって、この地獄を生き抜く「勝者」になるか。名前さえ呼ばれなかった屈辱を、実力で上書きしてやりたいという衝動が、渇きと共に膨れ上がっていく。
「……わかったわ。行くわよ。お姉ちゃんと一緒に」
舞香の言葉に、綾香は安堵の表情を浮かべて彼女を抱きしめた。
その抱擁に、舞香は冷ややかな殺意にも似た対抗心を抱いていた。
(お姉ちゃん、私が見せてあげる。私が、あなた以上にあの男を満足させて、この部屋の主導権を握る姿を)
夜が更け、智哉が意識を混濁させながら眠りについた頃、二人の姉妹は音もなく部屋を抜け出した。
鉄製の階段を上がる足音。前を行く綾香の腰つきは、すでに自らが「供物」であることを受け入れた雌のそれだった。舞香はその背中を冷めた目で見つめながら、自らの唇を強く噛んだ。
201号室のドアが開く。
そこには、一階の蒸し暑い熱気とは一線を画す、何かもっと本能的な恐怖を呼び起こすような静寂が広がっていた。窓から差し込む月光だけが、リビングのソファに君臨する佐藤悠を青白く照らしている。
「……よく来たな。二人揃って」
佐藤の声が響くと同時に、綾香は吸い寄せられるように彼の足元へ跪いた。
「佐藤さん……妹を連れてきました。どうか、私たちに……」
「わかっている。対価を支払えば、その分だけ水を与えよう」
一回につき水一本。その徹底した支配のルールを告げ、佐藤はゆっくりと立ち上がり、舞香の前まで歩み寄った。彼は舞香の顎を乱暴に掴み上げ、その顔を月の光に晒す。
「君は、姉を助けるためにここに来たのか? それとも、姉を蹴落として僕の寵愛を奪うために来たのか?」
舞香の心臓が大きく跳ねた。見透かされている。この男は、人間の底にある醜い感情を、愉悦として味わおうとしているのだ。
「……両方、ですよ。私は、お姉ちゃんみたいに無能じゃないわ」
舞香は精一杯の強気で言い返した。自分にはまだ「鈴木舞香」としてのプライドが残っている。名前すら呼ばないこの男に、自分の存在を刻みつけてやりたかった。
佐藤は低く笑った。その笑い声は、今夜から始まる姉妹の崩壊を祝う弔鐘のように聞こえた。
「いい目だ。では、そのプライドを一つずつ剥ぎ取ってやろう」
佐藤はテーブルの上のペットボトルを手に取り、まずは綾香に命じた。
「綾香、いつものようにしろ。……妹君、君はそこで、姉がどのようにして『命』を繋いでいるか、その目に焼き付けるんだ」
綾香は躊躇なく、佐藤の前に跪き、愛おしそうに彼を見上げた。
舞香の目の前で、完璧主義で誇り高かった姉が、一滴の水を乞うために、自ら佐藤の衣類に手をかけた。
綾香はまだ硬くなっていない佐藤のモノを震える手で取り出すと、まるで聖杯でも扱うかのようにうっとりと見つめた。そのまま、袋の下から先端までを執拗に舌でなめ上げ、おもむろにその口内に含んだ。
ねっとりとした不快な熱気の中、綾香の口腔の熱に当てられたそれは、舞香の目の前で明らかに怒張し、そそり立っていく。
その光景に舞香が息を呑む中、綾香の自由な方の手は、自らの秘部へと伸びていた。ブラウスの裾から潜り込ませた指を、水気の失せたアパートでは考えられないほどに濡れそぼった場所へ出し入れする。そこから垂れ落ちる雫は、まるで佐藤の熱を待ちきれないヨダレのように、床を汚していった。
やがて綾香は、ソファに座る佐藤に跨るようにして身を重ねた。
「あ、っ……! さとう、さん……!」
自らの秘境へと佐藤の剛直を誘い込み、一気に身を沈める。衝撃に腰を跳ねさせ、乳房を激しく上下させながら、彼女は佐藤の上で狂ったように乱れた。
かつての理知的な姉の面影はどこにもない。ただただ、一滴の水の代価として、男に魂まで蹂躙されることを悦びとする、一匹の雌の姿があった。
「……君は、今日は見学だ」
佐藤の冷徹な声が、呆然と立ち尽くす舞香に向けられた。
姉の身体を汚したばかりのその手で、佐藤は舞香の頬を撫でた。
「私はお姉ちゃんより、うまくできるわ……」
舞香は掠れた声でそう呟くと、自ら佐藤の胸板に手を回し、唇を寄せた。
アパートを囲む樹海は、今夜もまた、壊れていく姉妹の悲鳴を飲み込み、深く、静かにその口を開けていた。
断絶された世界の六日目の夜。
金井家の姉妹は、佐藤悠という名の絶対的な深淵へと、二人揃って堕ちていった。
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