第78話:虚構の救世主と操り人形の舞踏
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前回までのあらすじ:佐藤の命令で抱かれに来た陽菜から「挿入に気づかない」と男の器を酷評されEDに陥った神田は、さらに部屋へ踏み込んだ佐藤と辻姉妹にその無能さを徹底的に嘲笑・拒絶され、街を襲う獣の群れを狩るための「都合のいい傀儡の英雄」として完全に自我を叩き割られ服従を誓った。
それでは、第78話をお楽しみください。
※本作は規約遵守のR15作品です。過激な描写にご注意ください。
エンデという名の街に足を踏み入れてから、十二回目となる、どこか重苦しい薄曇りの朝だった。
宿屋「グリューネ・ラテルネ」の薄汚れた窓硝子から差し込む光は心なしか白く濁り、昨日までとは異なる、肌を刺すような湿った冷気が廊下の隅々にまで満ちている。神田の部屋から引き揚げ、自室のベッドに腰を下ろした佐藤悠は、自らの『支配庫』の深淵へと、ゆっくりと意識を沈めていった。
暗黒の空間。その絶対的な支配領域の最奥で、これまでじっくりと時間をかけ、異世界の魔物の肉や魔力核を喰らわせることで肥大化させてきた狂気の結晶が、主の意思を感じ取って不気味に胎動する。
「――『蠱毒の王』。そろそろ、お前の出番だ」
佐藤の冷徹な呟きに応じるように、支配庫の闇の中で、無数の多足と幾重にも裂けた顎を持つ禍々しい巨躯が、歓喜に震えるような金属音を鳴らした。
この街の誰も、あるいはギルド長カティアでさえも、これから始まる災厄がすべて一人の「冴えない元配送員」の指先一つで制御されているなどとは、夢にも思わないだろう。すべては、神田英雄という都合のいい神輿をきらびやかに祭り上げ、エンデの街の権力構造を完全に裏から塗り替えるための、冷酷な盤面だった。
――時計の針を、出発前のわずかな時間へと巻き戻す。
薄暗い自室のベッドの上。佐藤は北川結衣の肉厚で柔らかい太ももに頭を預け、膝枕の姿勢で横たわっていた。
結衣は母親のような深い包容力を湛えた笑みを浮かべ、自身の豊かな胸元へ佐藤の顔を優しく引き寄せている。佐藤はその柔らかい果実に深く顔を埋め、まるで自らの支配欲を確かめるかのように、貪欲にその温もりを吸い上げていた。
その一方で、佐藤の腰元には五十嵐咲希が跨がっていた。
制服を乱暴に崩し、一糸まとわぬ白皙の肢体を露わにした咲希は、うっとりとした、どこか虚ろな悦楽の表情を浮かべながら、佐藤の強靭な下半身に対して貪欲に、かつ激しく何度も腰を打ちつけている。
熱い結合部から伝わる衝撃に、咲希のうら若き肉体が激しく揺れ動く。彼女たちの肌からは生々しい熱気と情欲の香りが立ち上り、部屋の空気を濃密に支配していた。
佐藤は咲希の激しい動きを受け止め、結衣の胸に顔を埋めたまま、籠もった声で冷徹に告げた。
「結衣、咲希。少し外へ出る。有美と亜美には、引き続き宿の様子と神田の監視を任せておけ」
佐藤の猛りを自らの最奥で受け止め、激しく身体を揺らしながらも、咲希は恍惚とした呼吸の合間に「……っ、はい……悠さん……っ」と、熱い吐息とともに従順に言葉を漏らす。
膝枕をしながら佐藤の髪を優しく撫でていた結衣も、大人の色香を孕んだ微笑みを崩さないまま、静かに頭を垂れた。
「わかりました、悠さん。気をつけて。私たちが、あなたの留守を完璧に守りますから」
彼女たちにとって、佐藤は過酷な異世界から救い出してくれた絶対的な庇護者であり、その肉体と魂は、すでに佐藤の快楽の奴隷として完全に調教されている。この濃厚な情事の最中であっても、佐藤の言葉は絶対の法であり、その命は世界の何よりも重かった。
極上の肉の玩具たちから溢れんばかりの奉仕を受け、自らの絶対的な支配権を誇示するように満足のいくまで腰を振らせた後、佐藤はようやくベッドを降り、身支度を整えた。快楽を限界まで注ぎ込まれた咲希と結衣は、疲れ果てた様子でシーツの海に身を沈め、余韻の残る身体を横たえたまま、ただ従順な視線で主の後ろ姿を見送っていた。
佐藤は一人で宿屋を後にした。目指すは、人跡未踏とされる森の最深部――エンデの街を囲む広大な緑の奈落である。
そこは佐藤達がこの世界に来た時、アパートがあった場所。踏み荒らされた草の上には、あの重量物が鎮座していた跡が、今もなお生々しく残っていた。さらにその傍ら、不自然に土が盛り上がった場所には、手向けられた花すらとうに枯れ果てた、亡骸なき墓標が三つ、物言わぬ杭のように虚しく並んでいる。かつて同じアパートの住人であった者たちの、この世界における哀れな終着点。佐藤はそれらに一瞥をくれることすらなく、冷徹な視線をただ前方にだけ向けていた。
鬱蒼と茂る巨木の合間、陽光すら届かない森の暗がりに、佐藤の姿があった。
周囲には、時折ヴァルトヴォルフやシュタッヘルケイラーといった狂暴な獣の気配が漂うが、佐藤が放つ圧倒的な威圧感の前に、どの魔物も近寄ることすらできずに逃げ出していく。
「ここらでいいだろう」
佐藤は立ち止まると、虚空に向けて右手をかざした。
空間が歪み、どろりとした漆黒の霧が地面へと流れ落ちる。その霧のなかから現れたのは、悍ましい魔力を放つ「蠱毒の王」の本体だった。
佐藤は王に対し、この森の中を適当に走り回るよう命じた。悍ましい威圧感を放つ巨大な影が木々を揺らし、原生林を蹂躙していく。それはまるで、臆病な家畜を追い立てる羊飼いの犬のようだった。王の放つ圧倒的な恐怖の波動に、周囲の魔物たちはパニックを起こし、唯一その脅威が及んでいない方向――すなわち、エンデの街が位置する方角へと必死に逃げていく。
その凶悪な気配に追い立てられ、周囲の森に生息していた中型から大型の獣たちが、恐慌状態に陥って一斉に動き出した。
銀貨数枚の価値しかないヴァルトシュヴァインから、金貨十数枚に値するドゥンケルハーゼやパンツァーケイラーにいたるまで、森の生態系そのものが狂い、一つの巨大な「うねり」となって誘導されていく。
佐藤はその狂乱のうねりを見据えながら、向かってくる群れの一部を適当に『支配庫』の闇へと吸い込み、収納させていった。すべてを一度に放てば舞台が壊れる。まずは手頃な小規模の群れから始めるのが最善だ。
「序章って所か」
誰もいない薄暗い森の奥で、佐藤の唇が冷酷な弧を描く。
「いい調子だ。まずは小規模な群れを街へ走らせろ。……お前たちの新たな『英雄』に、ふさわしい舞台を用意してやる」
佐藤の冷酷な命令を受け、蠱毒の王はなおも森の奥を縦横無尽に駆け巡り、魔物たちを追い立てる見えない壁となった。これは、近いうちに街を襲う本格的なスタンピードの、ほんの瑞兆に過ぎない。
一方、その頃のエンデの街――。
西の城門の上では、突如として遠方の森から立ち上った猛烈な砂塵を捉え、若手門番のルーカス・ケラーが顔を真っ青にしていた。
「デ、ディーターさん! あれを見てください! 森から魔物の群れが……こっちに向かってます!」
叫ぶルーカスの膝は目に見えて震えていた。そんな若手の肩を、ベテラン門番のディーター・ブラントが分厚い手で強く叩く。
「落ち着け、ルーカス! ここで俺たちがあの群れに怯めば街の連中が死ぬ。門を閉鎖し、防衛線の配置につけ! 何が何でもここを死守するぞ!」
ディーターの年季の入った鋭い眼光に、ルーカスは必死に恐怖を噛み殺し、「はい!」と叫んで鐘の紐を力一杯に引き絞った。
突如として街に鳴り響いた非常事態の鐘の音は、冒険者ギルド「エンデ支部」の喧騒を一瞬で悲鳴へと変えた。
「西の街道から、魔物の群れが接近中! 中型種を含む数十頭の規模です! 近隣の冒険者は直ちに防衛線へ向かってください!」
カウンターの奥から、受付のミナ・ヴァルターが声を張り上げる。その隣では、まだ経験の浅い後輩のエルナ・フェルドが、パニックを起こして泣き出しそうな顔で書類を落としていた。
「ミ、ミナ先輩、どうしよう……こんな規模、街が……っ」
「しっかりしなさい、エルナ!」
すかさず背後から厳しい声をかけたのは、先輩受付のソフィー・ベルナーだった。ソフィーは冷静にエルナの肩を掴み、毅然とした態度で指示を出す。
「エルナは奥で緊急用のポーションと物資の確認を。ミナはそのまま冒険者の防衛編成を進めて。私たちはギルドの盾よ、絶対に動転しちゃダメ」
ソフィーの凛とした言葉にミナは深く頷き、エルナも涙を拭って走り出した。
その時、ギルドの奥深くにある解体場から、血と油にまみれたエプロン姿のブルーノ・ヴァイスが、かつての負傷で不自由になった足を厳しく引きずりながら現れた。元冒険者である彼の鋭い眼光は死んでいない。
「おい、ただの群れじゃねえな。森の奥の奴らが引きずり出されてやがる……。ソフィー、戦える野郎を片っ端から門へ集めろ! 俺もいざとなったらその辺の鈍器持って壁に立つ!」
ブルーノの覚悟に、ギルド内の空気が一気に引き締まる。
そこへ、二階の執務室から階段を駆け下りてきたのは、ギルド長のカティア・シュタールだった。
「総員、ブルーノの言う通りに動きなさい! 出し惜しみは無しよ。このエンデは、私たちの街よ。魔物ごときに一歩も譲るもんですか!」
カティアの激昂を孕んだ大音声がギルド全体に響き渡り、新人から中堅にいたるまで、武器を握る冒険者たちの目に決意の炎が灯った。
そこへ、一人の男がふらりと現れた。
神田英雄。かつてアパートの住人たちから「最強のスキルを持つ主人公」と目されながらも、昨夜、佐藤の手によって男としての尊厳を、肉体も精神も、跡形もなく完膚なきまでに破壊し尽くされた哀れな男である。
その瞳は泥水のように濁り、感情の起伏は完全に失われていた。だが、その手には、昨日佐藤から投げつけられた、カティアに無理やり作らせたあの「特級依頼書」が握られている。
(逆らえない……。俺は、あの男に逆らっちゃいけないんだ……。言われた通りに、やらなきゃ……)
脳裏にこびりついたその絶対的な恐怖と呪縛だけが、硬直した彼の肉体を機械的に突き動かす。神田は騒然とする冒険者たちを押し退け、無言のまま、魔物の群れが迫る西の城門へと歩を進めた。
「おい、見ろよ……あれ、神田じゃないか?」
「一人でいく気か? 正気かよ!」
周囲の制止の声など、今の神田の耳には届かない。
城門をくぐり抜けた先、砂塵を巻き上げて迫り来るのは、ヴァルトヴォルフの群れと、その中央で牙を剥く大型のシュタッヘルケイラーだった。普通の冒険者パーティであれば、万全の陣形を敷いてなお死力を尽くさねば全滅しかねない凶悪な突撃である。
しかし、神田の内に眠る『神の英雄:勇敢なる者』というスキルは、彼の壊れた精神とは裏腹に、主の危機を察知して全自動で最強クラスの力を解放した。
「――おおおおおおおっ!!」
魂の底から絞り出されるような、狂気と絶望の混ざり合った咆哮。
次の瞬間、神田の身体から爆発的な黄金のオーラが吹き荒れた。彼は一歩の踏み込みで大地を爆砕し、迫り来る魔物の群れへと単身で突撃した。
凄まじい光の斬撃が虚空を払い、先頭のヴァルトヴォルフたちが一瞬で肉塊へと変わっていく。シュタッヘルケイラーの巨大な突進に対しても、神田は避けることすらせず、真っ向からその剛腕で受け止め、そのまま力任せにその巨躯を真っ二つに叩き斬った。
その戦いぶりは、まさに鬼神。命を惜しむ気配が一切ない、ただ破壊することだけを目的とした戦闘機械のそれだった。
城壁の上からその光景を目撃していた防衛隊や、必死に槍を構えていた門番のルーカスたちは、あまりの圧倒的な強さに息を呑み、やがてそれは、地を震わせるほどの歓声へと変わっていった。
もっとも、この魔物たちのほとんどが、蠱毒の王に蹂躙され、最初から酷い傷を負っていたこと。そして、ほぼ瀕死の状態で、ただ恐怖から逃れるためだけに必死に突っ込んできていた出来損ないの群れであったことなど、この場にいる誰一人として知る由もなかった。すべてを仕組んだ、佐藤悠を除いては。
「す、凄すぎる……! たった一人で、あの規模の群れを全滅させたぞ!」
ディーターが驚愕に目をみはれば、ルーカスもまた涙を流しながら叫んだ。
「救世主だ……! あいつこそ、俺たちの本当の『英雄』だ!!」
血飛沫の雨のなか、息を荒くして立ち尽くす神田の耳に、街の住人たちからの熱狂的な崇拝と称賛の声が降り注ぐ。
しかし、その返り血に染まった神田の顔には、勝利の歓びなど微塵もなかった。ただ、濁った瞳で自身の血塗られた手を見つめ、裏で糸を引く佐藤の顔を思い浮かべては、身体をガタガタと震わせることしかできないのだった。
――同刻、バルト侯爵館。
不気味に鳴り響いた街の早鐘は、この豪奢な館にも激震をもたらしていた。魔物の群れが西門に迫っているという報を受け、館の各所では私財や機密書類を運び出す使用人たちが慌ただしく走り回り、騒然とした緊迫感に包まれていた。
その喧騒から隔絶された一室で、かつて高潔な侯爵令嬢としてプライドを保っていたはずのクラリスは、避難の準備を促す小作人たちの声を無視し、すっかり変わり果てた姿でベッドの端に佇んでいた。
彼女の身体は、宿屋の薄暗い一室で佐藤から与えられた濃厚な悦楽の記憶に完全に調教されており、今や佐藤悠という存在なしでは生きられない、自堕落な虜へと成り下がっている。衣服の隙間から覗く肌は、思い出すだけでも微かに熱を帯び、その美しい瞳には、絶対的な主への歪んだ信仰心が爛々と輝いていた。外の危機など、彼女にとっては些事ですらなかった。
そこへ、緊迫した面持ちで扉を開けて入ってきた女性がいた。
クラリスの生みの親であり、バルト侯爵の第二夫人であるセレーネ・アウグスト。気品と成熟した大人の色香を漂わせる美女である。彼女の指示のもと、背後では使用人たちが豪奢な調度品や金目のものを木箱へと詰め込む作業に追われていた。
「クラリス! 何をぼさっとしているのです。街に魔物の群れが近づいています。すぐに荷物をまとめて地下の安全な収容庫へ移る準備をなさい!」
セレーネは娘の傍らに駆け寄り、その細い肩を揺さぶろうとした。侯爵家の安全を守らねばならないという緊迫感のなか、母親としての直感が、この状況下でも微動だにしない娘の内に秘められた「異変」を敏感に察知していたのだ。
しかし、クラリスはその母親の手をそっと拒むと、どこか恍惚とした、妖艶な笑みを浮かべてセレーネの目を見つめ返した。
「心配いりませんわ、お母様。私、今、これまでの人生で最も満たされ、素晴らしい時間を過ごしておりますの。このような有象無象の騒ぎなど、どうでもよいのです」
「満たされている……? あなた、何を言っているの? 魔物が迫っているのですよ。まさか、恐怖で頭が……」
セレーネが眉をひそめ、作業を止めてこちらを伺う使用人たちを厳しい視線で下がらせる。クラリスは母親の耳元へと顔を近づけ、まるでお互いに秘密の果実を分け合うかのような、甘く昏い声で囁き始めた。
「お母様はご存知ないのです。この街に、どれほど偉大で、底の知れないお方がいらっしゃるかを。……佐藤悠様。あのお方は、私たちがこれまで正しいと信じてきた世界のすべてを、一瞬でひっくり返してしまうほどの、圧倒的な力と……そして、この上ない悦びを授けてくださるお方なのですわ。たとえ魔物が押し寄せようとも、あのお方が望まぬ限り、私たちが傷つくことなどあり得ません」
「クラリス……? あなた、何を言っているの? 意味が分かりませんわ。まさか、市井の不届き者にたぶらかされて……」
セレーネの顔に、明確な動揺と警戒の色が走る。避難の最中という極限状態も手伝い、娘のまとう異様な妖気への恐怖が募る。侯爵家の人間として、そのような妄言を見過ごすわけにはいかない。しかし、クラリスの言葉は止まらなかった。その瞳に宿る熱は、セレーネの警戒心をじわじわと侵食していく。
「たぶらかされる? いいえ、逆ですわ。あのお方の前では、侯爵家の権威も、お父様の地位も、すべてがちっぽけな砂の城に過ぎません。あのお方の手のひらの上で、ただ従順に身を委ねることこそが、私たち女性にとっての本当の幸福の形なのです……。お母様も、あのお方の熱に触れれば、きっとお分かりになりますわ。私、これほどまでに、あのお方を求めてしまう理由が」
「なっ……! 不謹慎なことを言うものではありません! 今は避難が先決です!」
セレーネは思わず娘の腕を強く掴み、強く叱責した。だが、クラリスの表情は微塵も揺るがない。むしろ、母親の激しい動揺をすべて見透かしたように、いっそう深く、淫らな美しさを湛えて微笑むだけだった。
バタバタと廊下を走る足音と、遠くから聞こえる怒号のなか、セレーネの胸の奥で、言い知れぬ不安と、それ以上に「そこまで娘を狂わせる男とは、一体いかなる存在なのか」という、禁断の好奇心の芽が、静かに、確実に植え付けられていく。クラリスが仕掛けたこの小さな布石が、やがて侯爵家全体の破滅と、セレーネ自身が佐藤の足元で傷つく引き金になるとは、この時の彼女はまだ知る由もなかった。
――その日の夕暮れ。
魔物の群れを単独で退け、街中が「神田英雄」の名を讃える歓声に包まれるなか、佐藤悠は悠然と宿屋へと戻ってきていた。
防衛戦の首尾も、神田の壊れ具合も、そして侯爵家の令嬢を利用した次なる獲物へのアプローチも、すべては計算通り、寸分の狂いもなく進行している。
「悠さん、ギルドのほうでも神田くんの噂で持ちきりみたい。みんな、あなたがあの神田くんを裏でコントロールしているなんて、これっぽっちも気づいていないわ」
廊下を歩きながら、辻有美が声を潜めて佐藤に報告する。その横では、妹の亜美も「神田くん、ずっと壊れたお人形みたいに怯えてた……。完璧ね、悠さん」と、冷ややかな、だが佐藤への愛に満ちた瞳を細めていた。
「フン、それでいい。表の栄光が大きければ大きいほど、あいつが裏での敗北感に苛まれる落差は極上になるからな。……だが、本番はこれからだ」
佐藤は薄暗い廊下の窓から、先ほどまで自分がいた森の深淵を見つめた。
今回はほんの挨拶代わりに過ぎない。蠱毒の王が本気で森を揺るがしたとき、このエンデの街は、本当の連続スタンピードという絶望の大渦に巻き込まれることになる。
鍵となる駒たちも、ギルドも、門番も、そして避難に右往左往する貴族たちでさえも、それぞれが己の役割を全うしようと必死に足掻いているが、それすらもすべて手のひらの上の踊りに過ぎない。
配置した役者たちが舞台の上で華々しく踊れば踊るほど、その裏に潜む佐藤の影はより深く、色濃くなっていく。
そしてその混乱のなかで、佐藤はさらなる所有物を増やし、この街のすべてを骨の髄までしゃぶり尽くすのだ。
張り巡らされた網の目は、誰にも気づかれることなく、さらに深く、確実にこの街の全域を奈落へと引きずり込んでいく。暗い宿屋の階段を上る佐藤の背後で、夕闇がエンデの街を静かに、そして完全に包み込んでいった。
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