第53話:選別の階段と裏切りの代償
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前回までのあらすじ:互いの秘密を共有し倒錯した共依存へと堕ちた有美と亜美の双子姉妹が、佐藤の猛烈な同時蹂躙によって心身ともに王の所有物として完全に調教される一方、一階では壊れゆく香織を身代わりに安全圏へ留まる陽菜の醜悪な優越感が歪んだ地獄の階層を生み出している。
それでは、第53話をお楽しみください。
※本作は規約遵守のR15作品です。過激な描写にご注意ください。
アパート『シャン・ソレイユ』を囲む樹海に、幾度目かの夜が明けた。もはや数えることすら無意味なほど、時間はその意味を失っている。郵便受けを飲み込んだ太い根は、今や一階の窓ガラスにまで触手を伸ばし、パキリと乾いた音を立てて文明の残滓を粉砕していた。異世界に放り出されてから四十四日目。漂う空気は湿り気を帯び、生命の謳歌というよりは、死と再生が強制的に繰り返される蠱毒の壺のような、粘りつく熱を孕んでいた。
一階、103号室。そこにあるのは安らぎではなく、剥き出しの飢餓と閉塞感が生んだ暴力の残響だった。田中健太は荒い呼吸を繰り返し、床に転がる小野香織を忌々しげに見下ろした。度重なる蹂躙の果てに、かつて人気嬢として磨き上げた彼女の肢体は泥と痣にまみれ、その瞳から光は完全に消失している。
「……チッ、使い物にならねえな」
健太が苛立ちをぶつけるように香織の脇腹を蹴り上げるが、彼女は弱々しく身をよじるだけで、声すら上げない。健太は彼女をゴミのように部屋の隅へ追いやると、獲物を探す獣の視線を、反対側で身を縮めている石堂陽菜へと向けた。
陽菜は、同室の香織が壊れていく様を、恐怖と醜い安堵の中で見つめていた。香織がこの部屋の底辺で「防波堤」となってくれている間は、自分が最下層に堕ちることはない。その冷酷な計算が彼女の正気を繋ぎ止めていた。しかし、健太が陽菜を力任せに押し倒し、佐藤への劣等感をぶつけるような破壊的衝動で彼女を組み伏せ始めると、その淡い期待は絶望へと塗り替えられた。
惨劇の続く廊下に、不気味なほど硬く乾いた足音が響き渡った。
「全員、一階の廊下に出てきてください! 大事な話があります!」
101号室の金井智哉が、狂気を孕んだ生真面目さで各部屋のドアを執拗に叩き、住人たちを呼び集める。103号室の重い扉が開き、乱れた服を直しながら健太が顔を出した。その背後からは、虚脱状態の陽菜が震えながら這い出してくる。だが、そこに小野香織の姿はない。彼女はもはや立ち上がる気力すらなく、暗い部屋の奥で物言わぬ肉の塊として放置されていた。
二階からは、佐藤に寄り添う女たちが、一階の地獄を蔑むような視線を投げかけながら階段を下りてくる。生存者たちが揃ったのを確認し、智哉は憔悴しきった表情ながらも、執念を感じさせる声で口を開いた。
「報告があります。以前の探索で、水源となる小川を発見しました」
その一言に場が色めき立つ中、陽菜は智哉の言葉を上の空で聞きながら、佐藤の背後に控える女たちをチラリと盗み見た。
美しく整えられた髪、潤いを保った肌、そして何より、この地獄の中で「守られている者」だけが持つ傲慢なまでの余裕。泥と体液にまみれ、獣のような健太に怯える自分とは、住む世界が違いすぎる。陽菜の胸の奥で、ドロリとした醜い羨望が鎌首をもたげた。
「マジかよ!? 水があるのか! 智哉さん、グッジョブじゃねえか!」
田中健太の歓喜の声が響くが、智哉は表情を崩さず、釘を刺すように言葉を継いだ。
「……ただし、そこは森のさらに奥。非常に危険な場所です。そこで明日、なるべく全員で探索を行いたいと考えています」
「はぁ!? 全員だと?」
即座に声を上げたのは、一階住人の川瀬だ。不満げに智哉を睨みつける。
「俺らまでそんな危ない所に行かせる気かよ。慣れてるあんたらだけで行けばいいだろ。俺はごめんだね」
川瀬の拒絶に、智哉の瞳に暗い色が宿った。彼は淡々と、逃げ場を許さない冷徹さで言い放った。
「何故かって? 残った人が……何をするかわからないからですよ。これ以上、この中で身勝手な振る舞いは許さない。……少なくとも、男性陣は全員強制参加です」
智哉の視線が、女たちに囲まれ悠然と立つ佐藤悠を真っ向から射抜いた。
「佐藤さん。あなたもですよ。不参加は認めません」
その緊張感あふれる睨み合いの最中も、陽菜の瞳は佐藤の圧倒的な存在感と、彼に傅く女たちの姿を焼き付けていた。あの輪の中に入ることさえできれば、この泥濘から抜け出せる。智哉が提示した「水源」という希望よりも、陽菜には佐藤という「暴力的な太陽」の方が、はるかに現実的な救いに見えていた。
招集が解かれた後、201号室には、外世界の緊迫を遮断した背徳的な楽園が戻っていた。佐藤はベッドの上で、北川結衣の豊かな胸に後頭部を深く沈め、もたれかかっている。
佐藤の右腕には田中美咲、左腕には金井綾香が収まっていた。佐藤は、夫を完全に拒絶した美咲の柔らかな肌を力強く愛撫し、かつて夫である智哉を支えていた綾香の深奥を、智哉を見限った証を刻むように容赦なく指先で掻き回した。二人は支配の感触に身を震わせ、溢れ出す蜜でシーツを汚しながら、佐藤の情動に狂おしい吐息を漏らす。
佐藤の上半身には五十嵐咲希が跨り、飢えた渇望を露わに彼の胸元へ吸い付いていた。熱を帯びた舌で執拗に弄り、自らの所有物であると刻印するように激しく喉を鳴らす。その足の間では、鈴木舞香が恍惚とした表情で顔を埋めていた。彼女は自身の顔を股間に押し付け、その窄まりを熱く刺激しながら、奥底に潜む佐藤の猛々しい質量を貪り食おうと悶えている。
佐藤の屹立には、辻亜美と有美の双子が左右から縋り付いていた。二人は競い合うようにして、佐藤の太い熱量を交互に喉の奥深くまで迎え入れ、卑猥な水音を絶え間なく響かせる。有美が右側から這わせれば、亜美が左側からそれを追い越し、双子ならではの酷似した顔で互いを出し抜こうとする、狂気的な奉仕を繰り広げていた。
この乱痴気騒ぎを統制しているのは、『月下の統御』を持つ北川結衣だった。彼女は佐藤を背後から抱擁し、冷徹な指揮で女たちの動きをコントロールし、奉仕を快楽の連鎖へと変えていく。だが、その支配は完全ではなかった。心の深奥に譲れぬ一線を画す五十嵐咲希と、佐藤への執着を爆発させ、自我そのものを捧げようとする辻亜美。この二人にだけは、結衣の統制が全く効いていない。二人は結衣の指揮を黙殺し、制御不能な熱狂と共に佐藤を食らい尽くそうと、激しく腰を揺らし続けていた。
女たちの熱が佐藤の肌を這い、重なり合う肢体の熱気と蜜の匂いが部屋を支配する。佐藤は肉の波に溺れながら、自らに蓄積された『支配庫』の重みを感じ、冷笑を深めていた。
103号室。陽菜は床に力なく横たわっていた。衣服は裂かれ、心身ともにボロボロになった彼女の耳に、香織の微かな吐息が聞こえてくる。陽菜はゆっくりと顔を上げた。そこには、かつての面影を失い、完全に壊れてしまった香織の姿がある。
(……あの時、香織さんは私を助けるために、一人で102号室に戻ってくれたのに)
かつて香織は、自らの恐怖を押し殺してまで陽菜の為に引き返した。その自己犠牲によって陽菜は守られたのだ。だが、今の陽菜の胸にあるのは献身ではない。ボロボロになった香織を冷たく見下ろし、彼女を自分を支える「底辺」として確定させることで、自らの生存欲求を正当化する汚泥のような自己愛だった。
「ごめんね、香織さん。私は……私は、死にたくないの」
恩人を見捨て、陽菜は這いずるように部屋を出た。先ほど階下で見た、佐藤の女たちの冷ややかな、しかし満たされた瞳。それが今の陽菜を突き動かす唯一の光だった。
一歩、また一歩と階段を上る彼女の瞳には、佐藤という絶対的な太陽に縋り付こうとする、醜くも切実な光が宿っていた。
残された香織は、扉の向こうへ消えていく陽菜の背中を、光のない虚ろな瞳で見つめていた。その瞳から、最後の正気が静かに、しかし決定的に失われていく。
二階の主、佐藤悠は、背後の結衣の鼓動を感じながら窓の外を見つめていた。智哉が計画する明日の探索。その裏で、佐藤の支配する『王国』は、犠牲と背徳を糧に、今まさに真の産声を上げようとしていた。
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