第42話:公言の代償と支配の確定
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前回までのあらすじ:佐藤が能力で生成した「無限の湯」と女たちの献身で二階の支配を盤石にする一方、その清潔な香りと愉悦の気配に当てられた健太は、耐え難い嫉妬と劣等感から香織と陽菜を一層凄惨に蹂躙し、一階と二階の絶望的な格差がアパートをさらなる狂気へと導いていく。
それでは、第42話をお楽しみください。
※本作は規約遵守のR15作品です。過激な描写にご注意ください。
アパート『シャン・ソレイユ』を囲む樹海に、三十三度目の朝がねっとりと張り付いていた。外界から切り離されて一ヶ月余り。窓の外を埋め尽くす原生林は、もはや植物という概念を超え、住人たちの生命力をじわじわと吸い上げる巨大な生体迷宮へと変貌している。二日前の「王の湯」の余韻をかき消すように、廊下には再び淀んだ湿気と、死を待つ者の吐息のような重苦しさが沈殿していた。
二階の「聖域」から、田中美咲は静かに階段を下りていた。その肌は佐藤から与えられた清潔な水と食事、そして『自愛の微光』による自己修復によって、一階の汚濁とは無縁の輝きを放っている。彼女が纏う空気そのものが、一階の腐敗を拒絶しているかのようだった。
美咲が向かったのは、かつての自室である103号室だ。佐藤の許しを得て、残していた身の回りの品を回収するために。重い空気の漂う室内に入ると、生活の痕跡が惨状を晒していた。散乱したゴミ、饐えた臭い。美咲は顔を顰めながら、クローゼットの奥に手を伸ばす。しかし、荷物をまとめる彼女の動きが、ある一点で凍りついた。
「……ない」
部屋の隅、かつて大愛の亡骸を安置していた場所。そこには、あるはずの小さな塊がなかった。血の気が引くのを感じる。誰かが動かしたのか、あるいは――。しかし、今はそれを探している時間はない。何より、この部屋に漂う「健太の臭い」が、彼女の本能に警鐘を鳴らしていた。
美咲が最低限の私物を掴んで部屋を飛び出した、その瞬間だった。
「……美咲? 何しに来たんだよ」
背後から響いたのは、かつての夫、田中健太の掠れた声だった。廊下に立つ健太は、脂ぎった肌と泥に汚れた服を晒し、飢えた獣のような眼光を放っている。彼は美咲の瑞々しい姿を認めると、執着と欲望が入り混じった歪な笑みを浮かべて歩み寄ってきた。
「戻ってきたのか? そうだよな、あんな気味の悪い男のところにいるより、俺と一緒にいた方が――」
健太の手が美咲の肩に伸びる。しかし、美咲はその手を冷徹な一瞥で払いのけた。
「触らないで、健太さん」
美咲の声は、静かに、しかし廊下の隅々にまで氷のように響き渡った。
「勘違いしないで。私はもう、あなたの妻でもなければ、あなたのハーレムの道具でもない。今の私があるのは、すべて佐藤様のおかげ。あなたのような、力でしか人を支配できない浅ましい男には、もう何も感じないわ」
廊下に、凍りつくような沈黙が流れる。健太の顔が、怒りと屈辱で真っ赤に染まった。かつて自分に縋り、守られるだけだった女からの、これ以上ない拒絶。それは一階のリーダーを自称する健太のプライドを、根底から粉砕するものだった。
「……なんだと? 誰の許しを得てそんな口を叩いてる……!」
激昂した健太が拳を振り上げ、美咲に殴りかかろうとした、その時だ。
不自然なまでの「寒気」が健太の全身を突き抜けた。実体を持った濃厚な殺意。それは佐藤本人の威圧とはどこか異なる、鋭利な刃を首筋に直接当てられたような、逃げ場のない冷たさだった。
健太は金縛りにあったように動けなくなり、額から冷や汗を流して後ずさった。本能が告げている。一歩でも踏み出せば、文字通り「終わり」だと。
「私は佐藤様のもの。私の心も、体も、すべてあの方に捧げたわ。一階の皆さんも、よく覚えておいて。佐藤様こそがこの場所の真の王であり、私たちはその慈悲の下で生かされているだけだということを」
美咲は最後に健太を一瞥すると、迷いのない足取りで階段を上り、二階へと戻っていった。後に残されたのは、絶対的な格差を突きつけられ、言葉を失った住人たちと、自らの無力さを剥き出しにされた健太だった。
健太の憎悪は、爆発する寸前の火山のように膨れ上がった。彼は逃げ場のない怒りを、102号室に囲っている女たちへと向けた。
「おい、お前ら! 中に入れ!」
閉め切られた102号室の中で、健太の狂ったような暴走が始まった。
「ふざけやがって……! あいつも、佐藤も……俺を馬鹿にしやがって!」
健太は、隅で震えていた石堂陽菜の細い腕を強引に掴み上げ、床へと叩きつけた。
「まずは貴様だ陽菜! 佐藤の影に怯えるくらいなら、俺の恐怖をその身に刻んでやるよ!」
健太は陽菜を強引に引き寄せ、有無を言わせぬ暴力的な所作で、彼女の口腔へと己の昂ぶりを深く突き立てた。
「んぐっ、ぅ……! げほっ……!」
逃げ場のない圧迫感と、喉の奥を蹂躙される苦悶。陽菜の瞳からは涙が溢れ、必死に酸素を求めてむせ返るが、健太は容赦なく彼女の髪を鷲掴みにして独善的な律動を止めない。佐藤への憧憬を抱く彼女の心を、肉体的な陵辱によって塗り潰そうとする。陽菜は激しくえずき、生理的な嫌悪に身を震わせながらも、荒れ狂う健太の欲を飲み下すしかなかった。
ひとしきり陽菜を弄んだ健太は、彼女を物のように床へ突き放すと、今度は壁際で虚空を見つめていた香織へと狙いを定めた。
「おい、次は香織、お前だ。美咲と同じ思いをさせてやるよ!」
健太は香織を四つんばいの姿勢に固定すると、背後から猛々しくその秘部へと侵入した。すでに感覚を麻痺させている香織だったが、準備もなげうった衝撃に、その細い体は痛みに跳ね上がる。
「あ、あぁっ……あ、はっ……」
香織の掠れた喘ぎは、もはや意味をなさない。健太は彼女の腰に指の痕が食い込むほど強く掴み、美咲への未練と憎悪をぶつけるように、獣じみた勢いで何度も腰を打ち付けた。湿った肉のぶつかり合う音と、フローリングに膝が擦れる鈍い音だけが、虚しく室内に響いていた。健太は最後に濁った咆哮を上げ、香織の最奥に自らのドス黒い衝動を叩きつけるようにして、果てた。
行為が終わっても、健太の心には空虚な嫉妬だけが募っていく。二階から聞こえてくるはずのない「清浄な音」が、幻聴となって彼の耳を抉り続けていた。
一方、二階の201号室。
美咲は佐藤の足元に跪き、持ち帰った荷物を置きながら報告していた。
「……すべて、仰せの通りに公言してまいりました」
ふと、美咲の背後の影がゆらりと揺らぎ、そこから五十嵐咲希が姿を現した。彼女は佐藤の命に従い、姿を隠して美咲の護衛を務めていたのだ。先ほど健太を凍りつかせたのは、彼女のスキル『淡影』による、急所を捉えた殺意の放射だった。
佐藤は満足げに頷き、跪く美咲の頭に手を置き、その柔らかな髪を指先で遊ばせる。
「よくやった、美咲」
そして視線を、少し離れて控える少女へと向けた。
「咲希もご苦労だったな。いい働きだったぞ」
王からの直接的な称賛に、咲希は頬を林檎のように赤らめ、深々と頭を下げた。
「……ありがとうございます、佐藤さん。私は、あなたの道具としてお役に立てれば、それで……」
美咲は佐藤の膝に顔を寄せ、恍惚とした表情で目を閉じる。しかし、その胸の奥では、103号室で消えていた「大愛の亡骸」への不安が、小さな澱となって沈んでいた。
三十三日目の夜、アパートを包む樹海の風は、これまで以上に冷たく、鋭い音を立てていた。それは、静かに、しかし確実に近づいてくる、新たな混沌の予兆だった。
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