第4話:最初の取引 完璧妻の屈辱
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前回までのあらすじ:水不足で息子が危篤状態に陥った美咲が、夫に隠れて悠の部屋を訪れ、水を得るための「対価」として自らの身体を捧げ、依存と隷属の一歩を踏み出す。
それでは、第4話をお楽しみください。
※本作は規約遵守のR15作品です。過激な描写にご注意ください。
アパート『シャン・ソレイユ』を囲む樹海に、三度目の不吉な夕暮れが訪れていた。
文明という生命維持装置から切り離されたこの建物では、備蓄という名の砂時計が最後の一粒を落とそうとしている。
101号室のキッチン脇には、ラベルの剥がれた空のペットボトルが転がっている。昼過ぎに最後の一滴を分け合って以来、金井家にはもう、潤いをもたらすものは何も残っていない。
金井智哉はリビングの床に力なく座り込み、脂汗にまみれた顔を伏せていた。公務員としての矜持は、喉を焼く渇きの前に、すでに灰と化している。
「智哉さん、私……佐藤さんのところへ行ってくるわ」
妻の綾香が、白くひび割れた唇を震わせて告げる。
ソファで横たわる妹・舞香の、今にも消え入りそうな吐息。それを背に、綾香は重い足取りで階段を上がった。
201号室の前。
廊下の蒸せ返る熱気とは裏腹に、そのドアの隙間からは、結露が生じるほどの異常な冷気が漏れ出していた。
綾香は震える指先で、ドアをノックした。
「佐藤さん……金井です。」
数秒の沈黙の後、カチャリと無機質な音が響いた。だが、ドアは全開にはならない。重厚なドアチェーンが、拒絶の意思を示すようにピンと張られている。
「……何の用だ」
隙間から響く佐藤の声は、驚くほど冷淡だった。
「お願いです、水を……分けてください。これ、差し上げます。お金……五万円以上あります。だから、一本だけでも」
綾香は縋るように、ドアの隙間へ長財布を差し出した。しかし、佐藤はそれを見ようともしない。
「……お前もゴミか、ここで何の役に立つんだ」
「えっ!?……でも、これしか……」
「いらない。帰れ」
佐藤の冷徹な手が、差し出された財布を無造作に弾き飛ばした。
廊下に中身がぶちまけられる。万札が虚しく床を舞うが、佐藤はそのままドアを閉めようとした。
「待って! お願い、何でもしますから!」
綾香はなりふり構わず、閉まりかけたドアに指をかけた。
「……何でも?」
チェーン越しの佐藤の瞳が、暗い光を帯びる。
「なら、あんたの持っている『価値のあるもの』を見せろ。……今、ここでだ」
綾香の思考が白く染まる。階下で苦しむ妹。情けなく俯く夫。
(ああ……そういうこと、なのね……)
完璧な妻、有能な事務職。積み上げてきたすべての仮面を、彼女は自ら剥ぎ取った。
震える指先が、ブラウスのボタンに掛かる。
パチン、パチンと、乾いた音だけが廊下に響く。
屈辱に濡れた瞳で、彼女はドアの隙間へ向けて、自らの「肉体」を対価として晒した。
佐藤の視線が、鎖の隙間から、露わになった彼女の白い肌をねっとりと検分する。
佐藤は、何も言わなかった。
ただ、無言のまま、バタン! と勢いよくドアを完全に閉めた。
静寂が廊下を包む。
(拒絶……? 私は、自分を差し出してまで、無視されたの?)
羞恥を通り越した絶望が、彼女の膝から力を奪おうとしたその時――。
ジャリッ。
チェーンを外す重い金属音。
再び開かれたドアの向こうには、底知れない暗闇のような眼差しをした佐藤が立っていた。
「入れ」
綾香は、吸い込まれるように佐藤の住処へと足を踏み出した。
室内は酷暑が嘘のように冷え切っている。テーブルには、キンと冷えたペットボトルが置かれ、結露した水滴が絨毯に滴っていた。
「お前にもルールを教えよう。俺を満足させろ。一回につき、一本だ」
リビングに通された金井綾香は震える手でブラウスの最後のボタンを外した。
床に落ちたブラウスとスカート。下着姿で立ち尽くす綾香の肉体は、事務職らしい白さと、三十代前半の成熟した曲線を闇に浮かび上がらせていた。
「…………」
悠はリビングのソファに深く腰掛け、不遜に足を組んだまま、何も言わずにただ彼女を見つめていた。孤独を知る男特有の冷めた眼差しが、半裸で立ち尽くす「エリートの妻」を、まるで検品でもするかのようにじっと見下ろしていた。
悠はローテーブルのペットボトルを手に取ると、ゆっくりと蓋を開けた。しかし、それを彼女に手渡そうとはしなかった。悠は悠然と自分の口にたっぷりと水を含むと、ソファに座ったまま、目の前に立ち尽くす綾香の細い腕を掴み、力任せに手元へと引き寄せた。
「っ……!」
不意の衝撃に、綾香の身体が前のめりに崩れる。悠はその勢いを利用して、彼女を自分の股の間に跪かせた。
悠は逃げようとする彼女の後頭部を大きな掌で掴んで固定すると、強引に唇を重ねた。
「っ……ん……」
悠の口内から、待ち望んでいた生温かい水が注ぎ込まれる。
激しい渇きでひび割れ、喉に張り付いていた粘膜に、水が染み渡っていく。それはこれまで飲んだどんな高級な飲料よりも甘美で、脳を痺れさせるような法悦を伴っていた。彼女はなりふり構わず悠の首に縋り付き、その唇を貪るようにして「施し」を必死に飲み下した。
ぷはっ、と音が漏れるほど強く吸い込み、一滴たりとも逃すまいと喉を鳴らす。
悠の口から溢れ、口角を伝って彼女の白い喉を流れる雫すらも、綾香にとっては至高の滴だった。はだけた胸元へと滴り落ち、乳房の谷間を濡らした水の冷たさに、彼女は初めて自分が「救われた」ことを実感し、頬を紅潮させて熱い吐息を漏らした。
悠は水を飲み下させた後、唇を離して冷徹に告げた。
「……礼くらい言ったらどうだい?」
綾香は頬を屈辱に染め、乱れた息を整えながら、消え入りそうな声で絞り出した。
「……ありがとう、ございます……」
「いい心がけだ。君のような『完璧な奥さん』が、こうして僕の足元で水を欲しがっている……。それだけで、この水には十分な価値があるというものだ」
悠はソファにふんぞり返ったまま、自身の熱を帯びた欲望を露わにした。跪いていた綾香の腰を強引に抱え上げると、彼女の体を反転させ、自身の顔の上に跨がらせた。
「っ……!? あ、っ……」
悠の無骨な腕が彼女の太ももを左右に割り、強引に固定する。悠は彼女の薄いショーツを指先で乱暴に横へとずらし、露わになった熱い肉の割れ目へと、その顔を深く埋めた。
「んんっ……!!」
綾香は、悲鳴を殺すために自らの手を強く噛んだ。声を出せばすべてが破滅するという恐怖が、彼女の理性を縛り付ける。悠の執拗な舌使いが、剥き出しになった粘膜を容赦なく蹂躙する。
極限の刺激に耐えかね、逃げ場を失った綾香は、吸い寄せられるようにその唇を寄せた。目の前に迫った悠の禍々しい熱を、震える唇で自ら迎え入れる。
言葉はなく、ただ互いの体液が混じり合い、グチャリ、という生理的な水音が、静まり返ったリビングに生々しく響き渡る。
「…………っ、んぅ……っ、んんっ……!」
悠の指が、ずらされた下着の脇から彼女の蜜の源を激しく掻き回す。塞がれた口の中で、綾香は必死に嗚咽を漏らしながら、悠の与える暴力的な快感に身を委ねていった。智哉との淡白な営みとは比較にならない、野性的で冷徹な支配。声を押し殺してまで男を貪り、貪られる背徳感が、彼女の「淑女」としての仮面を内側から焼き切っていく。
やがて、極限の緊張と快楽の中で、悠の激しい放出が彼女の喉を襲った。
綾香はそれを一滴もこぼさぬよう、音も立てずに、必死に飲み下した。それが、彼女に課せられた「秘密」と、大切な人への「生命」の対価だった。
悠の激しい拍動が収まると同時、彼は無造作に綾香を突き放した。
床に力なくへたり込み、乱れた息を切らす綾香。その白い太ももの内側には、自身の欲望の証である愛液が糸を引き、無残に流れ落ちている。
悠は事も無げに立ち上がり、自身のシャツを整えながら、約束通り一本の水とわずかな保存食をローテーブルの端へ放り投げた。
「……持っていけ。報酬だ」
綾香は虚ろな瞳でそれを見つめ、震える手で物資を胸に抱き寄せた。まだ熱を帯びた下半身の違和感を、ブラウスを整えることで必死に隠し、立ち上がる。
部屋を出る直前、彼女は振り返り、湿り気を帯びた瞳で悠を見つめた。
「……また、来ても……いいですか?」
悠は答えず、ただ満足げに口角を上げた。
綾香は、一本の冷たいボトルを宝物のように抱え、廊下へ出た。
床には、先ほど投げ捨てられた財布と紙幣がそのまま転がっている。彼女はそれを拾い上げることもせず、足早に階段を降りた。
彼女が持ち帰ったのは、家族のための水だけではない。
声を殺して蹂躙されることでしか得られない、暗く甘い愉悦への渇望だった。
自室へ戻り、水を飲む夫と妹の頬に朱が差していく。
それを眺めながら、綾香は確信していた。
明日も、また自分はあのアパートの階段を上がるだろう。
窓の外では、深緑の森が、すべてを飲み込むように暗闇を深めていた。
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