第32話:届かぬ楽園への憎悪
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前回までのあらすじ:健太が香織と陽菜を自らの「ハーレム」として私物化して徹底的な蹂躙支配を敷く中、屈辱の極致に立たされた陽菜は人間としての心を失い、自分を地獄へ突き落とした恋人や友人たちへのドロドロとした復讐心を宿す「闇の道具」へと変貌を遂げる。
それでは、第32話をお楽しみください。
※本作は規約遵守のR15作品です。過激な描写にご注意ください。
アパート『シャン・ソレイユ』を囲む樹海に、二十四回目の陽光が冷たく差し込んでいた。窓の外に広がる原生林は、冬の訪れを予感させる鋭い風にざわめき、枯れ葉がコンクリートの壁を叩く乾いた音が廊下にまで響いている。
一階の廊下を漂う空気には、すでに生温かい腐敗の臭いが染みつき、人々の絶望が壁の染みとなってこびりついている。だが、二階――特に佐藤悠が拠点とする201号室の周辺だけは、まるで別の世界のように、瑞々しく甘やかな空気が澱んでいた。その残酷なまでの「格差」こそが、一階の住人たちの飢えた心をささくれ立たせ、新たな火種を燻らせている。
102号室。
田中健太は、以前の住人であった木村から奪ったソファに深く腰を沈め、苛立たしげに指を鳴らしていた。横山達也と川瀬涼太が左右に控え、その足元には香織と陽菜が、主人の機謙を損ねまいと床に跪いたまま、虚ろな瞳で待機している。
「ちっ……美咲の野郎、完全にあの引きこもりのところに逃げ込みやがったな」
健太は唾を吐くように言った。自分を拒絶し、息子の大愛を亡くした混乱の中で佐藤の元へと逃げ込んだ妻・美咲。かつては自分の所有物だと思っていた女が、自分を否定して別の男の下にいる。その事実が、健太の独占欲を激しく焼き焦がしていた。
「健太さん、それだけじゃないっすよ。101号の金井姉妹……あいつも最近、様子が変なんですわ」
横山が下卑た笑いを浮かべ、健太の顔を覗き込んだ。
「さっき廊下ですれ違った時に気づいたんすけどね。綾香さんも舞香も、なんだか肌がツヤツヤしてやがる。この極限状態であんな『余裕』があるなんて、おかしいと思いませんか? 間違いなく、佐藤の野郎から水や食料……いや、もっと別の『特別な施し』を受けてやがりますぜ」
「佐藤……またあの野郎か。地味なツラして、一階の女どもまで毒してやがるのか」
健太の脳裏に、佐藤の庇護下で不自然なほど健康な姿を保っている姉妹の姿が浮かび、強烈な嫉妬が込み上げた。自分こそがこのアパートの支配者であるはずなのに、目立たない存在だった佐藤が「資源」と「女」を独占している。その歪な構造が許せなかった。
「行くぞ。あの姉妹がどんな顔して佐藤の犬になってるか、じっくり拝ませてもらおうじゃねえか」
健太を先頭に、三人は102号室を出た。同じ一階にある101号室へと向かい、健太は無遠慮にそのドアを拳で叩きつけた。
「よお、金井! 少し話があるぜ、開けろよ!」
重い衝撃音が廊下に響き渡る。しばらくして、内部から慎重に鍵を回す音が聞こえた。
だが、ドアは全開にはならなかった。金属質の鋭い音が鳴り、ドアチェーンがピンと張った状態で、わずか数センチの隙間が開く。
隙間から覗いたのは、金井綾香だった。いつもの清楚なブラウス姿だが、健太の目は誤魔化せない。彼女の肌には確かな潤いがあり、瞳の奥には恐怖を越えた先にある、どこか開き直ったような妖しい艶が滲んでいた。
「へえ……。随分と色っぽくなったじゃねえか、綾香さんよ。佐藤の野郎に毎日たっぷり『可愛がられてる』からか?」
健太はチェーン越しに、綾香の胸元を舐め回すように見つめた。以前よりもふっくらと厚みを増したように見える胸の輪郭、そしてブラウスの襟元から覗く首筋の滑らかさが、男に慈しまれている裏付けのように見えて健太を逆撫でする。
「……何の用ですか。お引き取りください」
綾香の声は冷ややかだが、健太はその隙間に指をかけ、こじ開けるように顔を近づけた。鼻を突く野卑な体臭が、チェーンの隙間から綾香の顔へと吹きかかる。
「隠したって無駄だぜ。その身体、佐藤にどんな風に磨いてもらったんだ? 清楚なフリして、裏じゃあの野郎のモノを欲しがって、ふしだらに身を悶えさせてんだろ。そのブラウスの下の膨らみも、佐藤に散々弄ばれて形が変わっちまったんじゃねえのか? ほら、見せてみろよ。こっちの方が『いいもん』持ってるって教えてやるからよ」
卑猥な言葉を叩きつけられ、綾香の頬が屈辱と嫌悪で朱に染まる。その瑞々しい反応が、さらに健太のサディスティックな欲望を煽った。
「その顔……たまんねえな。佐藤に組み敷かれてる時の顔も、そんな風に真っ赤にして鳴いてるのか? ええ? 鍵を開けろよ。俺たちがじっくり『鑑定』してやる」
健太が力任せにドアを揺らすと、チェーンが悲鳴のような金属音を上げた。
「……いい加減にして。あなたたちに関係ないでしょ」
綾香の後ろから、妹の舞香が顔を出した。彼女もまた、頬を上気させ、唇がわずかに腫れたような瑞々しさを帯びている。
「健太さん、もう私たちのことは放っておいて。あなたたちとは住む世界が違うの」
舞香の強い言葉に、健太は一瞬絶句し、それから怒りで顔を赤く染めた。
「住む世界が違うだと……? 佐藤の野郎に身体を許して食いつないでる分際で、偉そうな口叩くんじゃねえぞ!」
健太はチェーンに指をかけ、無理やりドアを押し開けようと力を込めたが、姉妹が必死に体重をかけてドアを押し戻す。その攻防の間も、健太の視線はチェーンの隙間から、彼女たちの乱れた衣類や、佐藤から分け与えられたであろう豊かな身体の曲線を、ねぶるように貪り続けた。
「チッ……佐藤の野郎、一階の女まで囲いやがって。おい、次だ。二階へ行くぞ。美咲を連れ戻す」
健太は吐き捨て、踵を返した。横山と川瀬も悔しげに舌打ちし、彼に従う。
三人はそのまま階段を上がり、二階へと向かった。佐藤が美咲を囲っている201号室へと向かうためだ。
二階の廊下を進む。204号室――陽菜がかつて住んでいた部屋の前を通り過ぎる際、連れられていた陽菜が一瞬だけドアの方を振り返った。だが、健太はその細い髪を容赦なく掴み、引きずるようにして先を急がせた。
やがて、201号室の前に辿り着く。健太は殺気立った様子でドアノブを掴んだが、びくともしない。当然、鍵は固く閉ざされ、チェーンの隙間すらも用意されてはいなかった。
「おい、佐藤! 開けろよ! 美咲がいるのは分かってんだ。俺の女を返せ!」
健太はドアを激しく蹴りつけた。金属のドアが不快な音を立てて振動するが、その頑丈な造りは、力任せの暴力など一切受け付けないという佐藤の拒絶そのものだった。
「……お引き取りください。美咲さんは、もうあなたの妻ではありません」
ドア越しに、佐藤の静かな、しかし冷徹な声が響いた。
その声の背後から、微かに、だが確実にかつての妻・美咲の気配が感じられた。彼女が漏らした、安堵に満ちた溜息。それは健太が彼女を抱いている時には、一度として聞いたことのない、心からの信頼を寄せる女の響きだった。
「ふざけるな! 佐藤! 貴様、何様のつもりだ!」
健太の絶叫は、二階の廊下に虚しく反響する。
ドア一枚隔てた向こう側には、清潔で甘い空気が満ち、愛し合う男女の時間が流れている。それに引き換え、自分たちのいる廊下は死と絶望に満ち、足元には汚れた女を引き連れている。その圧倒的な「格差」を自覚させられるたびに、健太のプライドは粉々に砕け散り、黒い嫉妬へと変わっていく。
「チッ……いつか絶対に、このドアごとぶち壊してやるからな!」
健太はドアをもう一度強く蹴り飛ばすと、逃げるように階段を駆け下りた。
*
健太たちが去った後の101号室。
綾香は震える手でチェーンを外し、再び厳重に鍵を閉めた。崩れ落ちるようにドアに背を預ける。
部屋の奥では、夫の金井智哉が壁に寄りかかり、虚ろな目で天井を見つめていた。彼は衰弱していたが、妻が佐藤から分けてもらった水と食料を自分に与えてくれている事実を、胸の奥で噛み締めていた。
「……綾香、ありがとう。でも、俺も……何かしなきゃ」
智哉は震える手で水を飲み、ゆっくりと立ち上がった。彼の脳裏には、息子の大愛を殺したあの狼の記憶が焼き付いている。「動物は水辺を知っているはずだ」。
彼は自らの内に目覚めつつある感覚に気づき始めていた。以前よりもずっと、周囲の気配に敏感になっている。視界の端で動く埃の粒さえ追えるような、奇妙な冴え。それが自身のスキル「機敏」の萌芽であるとは、まだ知る由もない。
その日の午後遅く。
智哉は一人、アパートの裏口から森へ滑り込んだ。
かつて大愛が襲われた広場の近く、血の痕が残る茂みを見つける。そこから一本の狼の足跡を慎重に追った。
心臓の鼓動がうるさいほど鳴るが、なぜか体が軽い。木の根や岩の配置が、思考する前に情報として脳に飛び込んでくる。智哉は自分でも驚くほど静かに、そして速く、森を通り抜けていった。
やがて、木々の隙間から小さな沢が見えた。清らかな水が岩の間を流れている。
「水源だ……!」
智哉は興奮を抑え、道標を残しながら、慎重にアパートへと引き返した。
「……水源を見つけた。まだ誰にも言うな。でも、これで……少しは役に立てるかもしれない」
智哉の報告を受け、綾香は複雑な表情で頷いた。
一方、一階の102号室に戻った健太は、荒れ狂っていた。
「佐藤……! 全部だ、全部奪い取ってやる!」
怒号とともに、健太は近くの壁を思い切り殴りつけた。鈍い音とともに壁紙が破れ、血の滲む拳が赤く染まる。その剥き出しの怒りの矛先は、佐藤に向けられない分、室内にいた二人の女へと向けられた。
「おい、陽菜! そこに這いつくばれ!」
健太は陽菜の髪を強引に掴み、床に叩き伏せた。
屈辱的な姿勢を強いたまま、健太は自身の獣性を爆発させる。背後から叩きつけるような激しい衝撃。肉と肉がぶつかり合う鈍い音が室内に響き、陽菜の細い身体がその勢いで大きく揺れる。
それは睦み合いなどではなく、ただの暴力的な所有権の誇示だった。陽菜が苦痛に顔を歪め、悲鳴を上げるたびに、健太は佐藤への憎悪をぶつけるように腰を叩きつけた。
さらに、健太は真横に座らせた香織の首を左手で引き寄せた。
「香織、お前もだ……」
彼女の豊かな胸を鷲掴みにし、その柔らかな肌に歯を立て、己の印を刻みつけるように蹂躙する。
「ひっ……痛いっ、健太さん……!」
香織が涙を浮かべて悶えるが、健太は構わずに執拗な支配の痕跡を残す行為を続けた。
そのあまりの荒れっぷりと、獣じみた執着心に、傍らにいた川瀬も横山も言葉を失っていた。普段なら下卑た冗談を飛ばす彼らですら、佐藤という存在に完全に理性を焼き切られた健太の姿に、得体の知れない寒気を感じ、ただ傍観することしかできなかった。
嫉妬と執着が渦巻く中、アパート『シャン・ソレイユ』の24日目が、深い闇に包まれていく。
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