第22話:血の匂いと追跡
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前回までのあらすじ:影の薄い木村が罠猟と氷の備蓄で得た「富」を武器に、横山から差し出された香織を食料の対価として抱き、一階の住人たちの間でも資源を媒介とした尊厳の切り売りと支配の連鎖が始まる。
それでは、第22話をお楽しみください。
※本作は規約遵守のR15作品です。過激な描写にご注意ください。
アパート『シャン・ソレイユ』を囲む樹海に、十六度目の陽光が力なく差し込んだ。
エントランス前の広場には、住人たちが排泄物やゴミを捨てに走った足跡が幾重にも重なり、泥濘となって凍りついている。昨日までの喉を焼くような乾燥は、わずかな小雨によって湿った冷気へと変わり、それがかえって住人たちの体温と気力をじわじわと奪っていた。窓枠に結露する水滴さえも、今や貴重な資源として奪い合われる——そんな極限の停滞が、この場所の「日常」をさらに一歩、深淵へと進めていた。
102号室。木村保は、昨夜の甘美な余韻に浸りながら、自作の槍の先端を研いでいた。
一度味わってしまった「支配」の味。自分より若く、本来なら手の届かない存在であったはずの小野香織を、水という対価で跪かせた全能感が、彼の臆病だった精神を歪な形に変貌させていた。
そこへ、遠慮のない激しいノック音が響く。ドアを開ける間もなく押し入ってきたのは、202号室の横山達也と、その後ろで俯く小野香織だった。
「よう、木村。また腹が減っちまってな。悪いが少し物資を分けてくれ」
横山は相談という名の強奪を当然のように告げる。
「えっ、でも、昨日の分はもう……」
「ケチケチすんなよ。お前には『狩り』の才能があるんだろ? ほら、香織もこうしてやる気に溢れてるんだ」
横山に背中を押された香織は、虚ろな瞳のまま木村の足元に跪いた。彼女はおもむろに木村のズボンと下着を下ろす。まだ力なく横たわっていたソレを、香織は潤いを取り戻した舌で愛おしむように下から舐め上げた。そのまま口の中に含み、巧みに舌を動かす。温かな口腔の刺激に、木村のモノはみるみるうちに脈打ち、大きく反り上がった。
香織の両手は木村の臀部に添えられ、彼女は下から横山の顔を伺うように見つめながら、頭を前後に激しく動かし奉仕を続ける。
ほどなくして、香織の口内に木村の熱い白濁液が放出された。彼女はそれを再び紙の上に吐き出し、「昨日出したのに、まだこんなに濃い……」と、艶めかしい表情で木村に見せつけた。
「続きはまた夜しよ」
耳元でそう囁き、香織は横山と共に、木村の部屋に残っていた貴重な食料のほとんどを持って去っていった。手元に残ったのは、わずかな水だけだった。
(……あいつら、搾り取りやがって。だが、いい。また獲ってくればいいんだ)
木村は香織の感触を反芻し、卑猥な妄想に耽る。
(次は背後から覆いかぶさる後背位もいい。彼女に跨ってもらう騎乗位も捨てがたい。最後は我慢せずに、彼女の最奥に思い切り放ちたい……。きっと、最高に気持ちいいはずだ)
想像はさらに加速する。203号室の川瀬に肉を回して交渉すれば、あの女子大生——陽菜ともできるのではないか。接点こそないが、あの若く瑞々しい身体を屈服させる情景を思い描き、木村の股間は再びズボンの上からでも分かるほど大きく膨らんでいた。その妄想を実現させるためには、何よりも「資源」が必要だった。
「……もう一度だ。もっと、獲物が必要だ」
木村は再び、アパート裏の森へと足を踏み入れた。
落とし穴を仕掛けたポイントへ向かう道中、彼は茂みの影に新たな獲物の気配を探る。この森の獣は、一見すると地球の生物に似ているが、その性質は遥かに猛々しく、何より「血の匂い」に敏感だった。
仕掛けた穴に辿り着いたとき、そこには昨日と同じ灰色の小型獣が二頭、折り重なるようにして落ちていた。
「運が向いてる……。これなら、香織さんだけじゃなく、もっと条件を上げられるぞ」
木村は興奮を抑えきれず、その場で解体を始めた。本来なら、血の匂いを避けるために速やかに移動すべきだった。しかし、欲望に目が眩んだ今の木村は、自らの「力」に酔いしれていた。ナイフが肉を裂き、温かい鮮血が土壌に滴る。その強い鉄の匂いが、風に乗って森の奥深くへと運ばれていくことに、彼は気づいていなかった。
解体を終え、血塗れの肉を袋に詰め込んだ時だった。
背後の茂みから、「パキッ」と乾いた音が響いた。
木村の身体が硬直する。ゆっくりと振り返ると、そこには三匹の「影」があった。
体長一・五メートルほど。地球の狼に似ているが、その四肢は異常に長く、背中からは針のような硬い体毛が突き出している。正体も名前もわからない異形の獣。だが、その瞳に宿る冷徹な殺意だけは理解できた。
「ひっ……!」
木村は袋を掴み、全速力で走り出した。正面から向き合う捕食者の威圧感は、死そのものだった。獣たちは逃げる木村を嘲笑うように、一定の距離を保ちながら追跡を開始した。
木村は必死だった。足がもつれ、転倒しそうになるたびに、脳裏に香織の柔らかな肌が浮かんだ。死にたくない。もっと、あの悦楽を味わいたい。その執念だけが、彼の身体を突き動かした。
あと数十メートル、裏口まで辿り着けば助かるはずだった。しかし、背後から迫った一頭が、木村の右足首を容赦なく噛み砕いた。
「がっ、あああああぁぁぁ!」
無様に転倒し、泥に顔を打ち付ける木村。残りの二頭が動けなくなった彼の背中と肩に爪を立て、地面に縫い付けた。「いやだ、死にたくない……! 香織さん、もっと……っ!」。
狼の牙が木村の喉元を深々と貫いた。彼が上げた最期の悲鳴は、湿った冷気と森のざわめきにかき消され、アパートの誰の耳にも届くことはなかった。
狼たちはこの場所に「人間」という新たな、そして容易く手に入る食料があることを学習した。彼らは動かなくなった木村の身体を、戦利品として深い森の奥へと音もなく引きずり戻っていった。
翌朝になっても、木村が戻らないことを気にかける者は誰もいなかった。他人の安否よりも自分の空腹が優先されるこの場所では、隣人が消えた程度では波風一つ立たない。一階の貴重な「供給源」が一人、誰にも知られぬまま永遠に失われたという事実だけが、アパートにさらなる絶望の影を落とそうとしていた。
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