第21話:取引される尊厳
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前回までのあらすじ:飢えに屈した智哉の目前で、綾香と舞香は自ら進んで悠に肉体を捧げて狂乱の情事に耽り、絶望の中で勃起を晒す智哉を「嫌悪の対象」として切り捨て、佐藤悠という絶対王のもとへ去ることで金井家は完全に崩壊した。
それでは、第21話をお楽しみください。
※本作は規約遵守のR15作品です。過激な描写にご注意ください。
アパート『シャン・ソレイユ』を囲む樹海に、また新たな朝が訪れた。かつては鳥の声で目覚めたはずの窓外からは、今や正体不明の獣の遠吠えと、湿り気を帯びた不気味な風鳴りしか聞こえてこない。
この異界へと放り出されてから、幾度もの絶望的な夜が明けた。住人たちの顔からは生気が削ぎ落とされ、頬はこけ、目は一様に虚ろな光を宿している。廊下を漂う死臭と獣臭の混じり合った異臭は、もはや誰も気に留めないほどにこの場所の空気として定着していた。
102号室。木村保は、震える手で自作の槍を握りしめていた。
「……やるしかない。やるしかないんだ」
彼はアパートの中でも、とりわけ影の薄い男だった。中堅の営業職として培った「空気を読む」技術。しかし、この極限状態において、その性質は「慎重さ」という名の生存本能へと昇華されていた。
木村は数日前から、アパートの裏手に広がる深い藪の中に、人知れず落とし穴を仕掛けていた。健太たちのように徒党を組んで正面から獣に挑む勇気はない。だが、狡猾に、確実に獲物を得る知恵だけはあった。
慎重に足音を殺して森へ踏み入る。仕掛けた場所へ辿り着いたとき、木村の心臓は跳ね上がった。隠しておいた枝葉が大きく陥没し、底から「ギャウ、ギャウ」と短く苦しげな鳴き声が響いていた。
「……か、かかった……!」
穴の底には、兎を一回り大きくしたような、灰色の毛皮を持つ小型獣が横たわっていた。木村は必死に込み上げる興奮を抑え、尖らせた木の棒を突き立てた。確かな手応え。温かい血の感触。木村は獲物を抱え、誰にも見つからないよう裏口からアパートへと滑り込んだ。
自室に戻ると、彼は夢中で獲物を捌いた。さらに幸運だったのは、飲料の備蓄だ。営業職のストレスを癒やすため、彼は普段からウイスキーを割るためのミネラルウォーターと炭酸水を常備していた。その蓄えが底を突きかけ、死を覚悟したとき――彼は停電して久しい冷凍庫の奥に、買い溜めていた大量のロックアイスが残っているのを見つけたのだ。氷が溶けて水となり、数本分のペットボトルを再び満たしている。肉と水。今のこのアパートにおいて、それは絶対的な「生」の象徴だった。
しかし、その「富」の香りは、飢えた狼たちの鼻を欺くには強すぎた。夕刻、102号室のドアが、無遠慮に激しく叩かれた。
「おい、木村。入るぞ」
返事も待たずに押し入ってきたのは、202号室の横山達也だった。背後には、健太のグループの男たちが控えている。
「……な、何ですか、横山さん。今は取り込んでいて……」
「とぼけるな。いい匂いが廊下まで漏れてるぜ。それに、そのペットボトル……随分と蓄えてるじゃないか」
横山の目は、木村が隠しきれなかった獣の肉と、水のボトルに釘付けになっていた。木村の背中に冷たい汗が流れる。奪われる。せっかく手に入れた、自分が生き延びるための糧を。
「これは、その……僕が苦労して……」
「分かってる。お前が頑張ったのは認めてやる。だがな、木村。独り占めは感心しないな。……そこでだ、相談がある」
横山はニヤリと笑い、傍らに立っていた小野香織を前に突き出した。
「お前にその肉と水を分けてもらう代わりに、今夜、香織を貸してやる。どうだ?」
やつれてはいるが、香織の瞳には生存への執着から来る妖艶さが宿っていた。
「……木村さん、お願いします。私、お腹が空いて……もう、我慢できないの」
香織の細い指が、ブラウスのボタンを外していく。露わになる白い肌。木村の内に眠っていた欲望が、血の匂いと空腹、そして彼女の放つ色気に煽られ、急速に膨れ上がった。
「……分かった。肉を少しと、水を一本……出します」
「話が早い。おい香織、しっかり『接待』して差し上げろよ」
横山は笑いながら部屋を去り、ドアを閉めた。
静まり返った室内。香織が歩み寄る。
「……水、飲ませて……。お願い……」
「あ、あぁ」
木村はペットボトルを彼女に差し出した。香織は受け取ると、渇いた喉を鳴らして一気に飲み干した。乾いた唇に潤いが戻り、彼女は艶やかな表情で木村を見つめた。
香織は躊躇なくスカートを脱ぎ捨て、薄汚れた下着姿となると、目一杯のサービスを始めた。彼女の濃厚な接吻は、木村の理性を容易く吹き飛ばした。彼の股間は痛いほどに怒張し、熱を帯びる。香織はその苦しげな膨らみを解放し、「おっきい……」と、真実か嘘か判らぬ甘い吐息で囁いた。
二人の唇は再び重なり、舌と舌が絡み合う。香織の手は木村の怒張を上下に愛撫した。水を得て活力を取り戻した彼女は、木村の耳元で「どうして欲しい……?」と問いかける。
「……舐めて」
木村が漏らした要望に、香織はフフっと笑みを浮かべ、彼の股間に顔を埋めた。
「入りきらない」
彼女は木村を見上げながら、その熱量を口に含んだ。激しく頭を上下させ、懸命に奉仕を繰り返す。木村は腰が浮き上がるほどの快楽に襲われ、香織の口中に一気に熱い白濁を放出した。
香織はそれを白い紙に吐き出し、「こんなに出た」と木村に見せた。
「残ってるのも吸ってあげる」
敏感になった先端をさらに舐め上げられ、木村は声を漏らす。すぐには回復しないものの、昂ぶった木村は香織の最奥を舐めていいかと問うた。香織が頷くと、木村は彼女の秘部に顔を寄せ、執着するように吸い舐めた。木村の顔は彼女の蜜でビチャビチャに濡れ、喘ぐ香織の姿を見て、彼の怒張は再び力強く回復した。
「……いい?」
木村の問いに、香織は「中に出さないならいいよ」と答えた。本当は横山から「本番」まではしなくていいと言い含められていた。しかし、最初にペットボトルをくれた木村に微かな優しさを感じた彼女は、その侵入を許したのだ。
木村は香織に覆い被さり、一心不乱に腰を動かした。絡み合う舌、混ざり合う吐息。木村にとって、この極限状態での営みは夢のような恍惚だった。自分より立場が上だったはずの美しい女を、食料という対価で思いのままに扱っている事実に、彼はかつてない全能感を覚えていた。
昂ぶりが頂点に達する直前、木村は彼女から離れ、白濁を香織の口の前に持ってきた。彼女の舌の上に放出された白濁液を、香織は残りも吸い取るように咥えて掃除し、紙へと吐き出した。
「……もう、無理だ」
木村が告げると、香織は貴重な水でタオルを濡らしてもらい、丁寧に身体を拭き取った。身支度を済ませた彼女に、木村は約束より多めの水と食料を手渡した。
「また来いよ、香織さん」
「……はい。木村さん……」
香織は重くなった袋を抱え、202号室へと帰って行った。
窓の外では、アパートを囲む樹海が、また一つ理性を飲み込んだことを祝うように、深い闇を色濃くしていった。腐敗の連鎖は、止まることを知らない。
佐藤悠の君臨する「上」の階とは別の場所で、この一階でも、新たな地獄の歯車が回り始めた。
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