第19話:自愛の微光と甘泥の座位
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前回までのあらすじ:気配を消すスキルを持つ咲希が201号室に潜入し、住人が飢えに苦しむ中で悠だけが温かい食事と湯浴みを楽しむ圧倒的な特権階級ぶりを目撃する一方、狩猟の成功に酔いしれる智哉の自信は、悠に心身を支配された姉妹の冷ややかな沈黙によって空虚に削られていく。
それでは、第19話をお楽しみください。
※本作は規約遵守のR15作品です。過激な描写にご注意ください。
アパート『シャン・ソレイユ』を囲む樹海に、また一つ、文明の理性を剥ぎ取るような沈謀が積み重なった。
十四日目の午前。エントランスの血痕は黒ずみ、廊下の獣臭は住人たちの体臭と混ざり合い、新たな「日常」の臭いへと変質している。佐藤悠から与えられる水は、生存を維持するだけの残酷なメトロノームだ。数日前の狩猟成功がもたらした「自立」への希望は、喉を焼く渇きの前に早くも色あせ始めていた。
103号室。田中美咲は、ベッドで横たわる息子、大愛を見つめていた。
「……大愛、しっかりして。今、お水をもらってくるから……」
美咲自身は、これまで佐藤の部屋で密かに水や食料の施しを受けていたため、この極限状態でも元気を保っていた。しかし、その恩恵を分け与えられていない三歳の幼児を救うには、彼女一人の体力ではあまりにも無力だった。
夫の健太は、今朝も横山達也たちと森へ出かけ、そのまま戻ってきていない。獲物を得て以来、健太は肉を自分の支配力を強めるための「餌」として使い、家族を顧みる余裕を失っていた。
(……あんな人、もうどうでもいい。でも、大愛だけは……)
美咲は母親としての執念に突き動かされ、二階の201号室へと向かった。
201号室の前。美咲は震える手でドアをノックした。
カチャリと鍵の開く音が響き、中へ入ると、そこには豊かな湯気と食料の匂いが満ちていた。
ソファに座った佐藤悠が、冷徹に彼女を見据える。
「……水をください。息子が死にそうなんです。私、何でもしますから……」
美咲は床に膝をつき、額を床に深く擦りつけて懇願した。
佐藤は鼻で笑い、無造作に言い放った。
「お前のその奉仕も、正直もう飽きたんだよ。もっと身を削った誠意を見せろ」
美咲はびくりと肩を震わせたが、額をつけたまま動かなかった。拒絶という選択肢はない。佐藤は立ち上がり、冷蔵庫から取り出したかのように『支配庫』から冷えたペットボトルを出現させ、彼女の目の前に置いた。
「……っ!」
美咲が手を伸ばすが、佐藤はその手を足で制した。
「待て。タダとは言っていない。……お前は、その『命』と引き換えに、夫を裏切り、俺の支配を完全に受け入れるか?」
美咲は、佐藤の冷徹な瞳を見つめた。彼を受け入れれば、大愛は救われる。
「……はい。受け入れます」
そう言うと美咲は佐藤の足に口付けをした。足の指一本一本を舌で舐め回し、自らの尊厳を差し出すことで忠誠を誓う。佐藤もその意図を理解し、満足げに右足を上げた。美咲は両手で佐藤の足を持ち、親指から順に恭しく口に含んでいく。
全ての指を舐め終わると、彼女は「飽きた」と言われた佐藤の熱い熱量へと顔を寄せ、必死に貪り始めた。いつもより激しく、より深く、自らの喉奥までを差し出す。込み上げる嘔吐感を必死に堪え、目尻に涙を浮かべながら、彼女は母としての狂気で奉仕を続けた。
佐藤もその心意気を受け取り、美咲の髪を強く掴んで自らの欲望を激しく押し付けた。何度も、何度も抽送を繰り返し、最後は最奥に熱い白濁液を放出した。
息ができず苦しむ美咲など構わず、佐藤は最後の一滴までを彼女に託した。美咲はそれを順次飲み込んでいき、口を離した時にはその内側には何も残っていなかった。ただ、不足した酸素を求めて、肺を激しく波打たせるだけだった。
「いいだろう。お前は、俺の支配を完全に受け入れた」
佐藤は美咲を引き寄せた。
「お前、自分の体に何か心当たりはないか。例えば、自分だけは疲れにくいとか」
美咲は困惑して首を振る。
「まあいい。まずは、俺の体に触れてみろ. お前のその『生きたい』という意志を、俺に流し込むつもりでな」
美咲は躊躇いながらも、佐藤の肉体に触れ、必死に祈りを込めた。
「……っ!」
その瞬間、美咲の指先から確かな温かさが伝わり、佐藤の身体に蓄積していた疲労が雪解けのように癒やされていく。
(なるほど、これがコイツのスキルか……。他者を癒やす力、これは利用価値がある)
これまで感じていた疑問が一気に晴れた。
活力を取り戻した佐藤は、ソファに座ったまま、美咲を抱き寄せ、自らと身体を重ねた。
座位での行為は、唇と下半身が繋がり、互いの身体が深く密接に触れ合う。美咲は、佐藤の身体から伝わる圧倒的な「力」と「潤い」に、自らの身体が甘い泥に沈んでいくような感覚を覚えた。佐藤との結合の深さに酔いしれる彼女は、繋がった唇を離さまいと佐藤の首に必死に抱きつき、不足する資源をねだるように自らも腰を突き上げ、男の欲望を貪欲に迎え入れていた。
渇ききっていた彼女の奥底へ、佐藤が独占する資源が、熱を帯びて注ぎ込まれていく。
「……あ、佐藤さん……もっと……ください……」
美咲の声は、隷属への快楽に染まっていた。佐藤が身体を離そうとすると、美咲は自らの意志でその残滓を拭い去るように顔を埋め、丹念に、そして深く吸い上げた。夫である健太に対しても抱いたことのない、奉仕への能動的な衝動。自発的にこの男を「清めて」いる自分自身の変容に驚愕しながらも、彼女の舌はその熱量を惜しむように動き続けていた。健太には決して与えられなかった「決定的な支配」を、彼女はこの男の中に見出していた。
行為の後、佐藤は美咲に水とおにぎりを与えた。
「お前……、……美咲と大愛の『命』は、俺が保証する」
突然名前を呼ばれ、美咲の胸に羞恥と、それ以上に抗いようのない喜びが込み上げる。自分がただの「住人の妻」ではなく、佐藤悠という男に一個体として刻まれた瞬間だった。
美咲は差し出された水とおにぎりを、今は自分の喉に通すことを堪え、震える手で大事に抱えた。
「……ありがとうございます、佐藤さん」
美咲の瞳には、佐藤という絶対的な「王」に隷属することへの、奇妙な多幸感が宿っていた。彼女はそれらを大愛のもとへ届けるべく、ふらつく足取りで部屋を後にした。
美咲が去った後、佐藤は冷めた瞳でドアを見つめていた。
「美咲が手中に収まった今、俺の支配はさらに盤石になる」
佐藤悠の唇が、音もなく吊り上がる。
アパートを囲む樹海は、人間たちの浅ましい営みを飲み込むように、音もなくその影を伸ばし続けていた。
そして101号室の金井綾香もまた、自らの内にあった「完璧主義」の壁が、佐藤悠という毒によって静かに崩壊しつつあることを感じていた。完全隷属への儀式は、もう、目前に迫っている。
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