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アパートごと異世界に転移したが、俺だけ収納スキルだったので住民を支配することにした  作者: 飯尾 意緒
第1章 異界転移と水の隷属

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第16話:森の獣狩り、初挑戦と失敗

いつもご愛読ありがとうございます!

前回までのあらすじ:妻の献身を信じて再起を誓う智哉と、その愛を他人の体温で上書きされた綾香、そして支配を愉しむ舞香の三者の間に、偽りの平穏と決定的な破滅の種が撒かれる。

それでは、第16話をお楽しみください。


※本作は規約遵守のR15作品です。過激な描写にご注意ください。

 アパート『シャン・ソレイユ』を囲む樹海に、また一つ、文明の理性を剥ぎ取るような沈黙が積み重なった。

 日常が断絶されてから、今日で十二日目。窓の外に広がる原生林は、住人たちの戸惑いを嘲笑うかのように密度を増し、かつての駐車場を緑の深淵へと変えている。もはや正確に時を刻む術を失った住人たちにとって、ただ喉を焼く渇きと、それを癒やすための「対価」だけが、過ぎ去る日々の唯一の指標となっていた。

 「……やるしかないんだな」

 101号室の玄関先で、金井智哉は自分に言い聞かせるように呟いた。

 佐藤から与えられる水で命を繋ぐ屈辱から、一刻も早く家族を救い出さなければならない。十分な水分を得て最悪の脱水症状は脱したものの、身体は未だ重く、こめかみの奥には割れるような頭痛が居座り続けている。視界が時折ゆらりと歪む感覚を、彼は家族を想う意志の力で無理やり抑え込んでいた。智哉は台所から持ち出した、場違いなほど小さな果物ナイフを強く握り締めた。

 エントランスには、智哉の他に数人の男たちが集まっていた。

 103号室のリーダー格、田中健太。202号室の横山達也。そして204号室の大学生、川瀬涼太だ。彼らは空腹を紛らわすため、森に潜む未知の生物を「食料」として狩ることを決意していたが、その表情には、未知の領域への根源的な恐怖と緊張が色濃く滲んでいた。

 「金井さんも来るなんて、意外っすね。公務員様が泥仕事っすか?」

 健太が虚勢を張るように笑ったが、その声は微かに震えている。

 「……家族を守るためだ直に。君たちの足手まといにはならない」

 智哉は短く答え、己の恐怖と頭痛を押し殺した。

 一行は、アパートを囲む見えない壁の境界線……樹海の入り口へと足を踏み入れた。

 一歩森へ入れば、そこは異世界の静寂が支配していた。巨大なシダ植物が頭上を覆い、足元には腐葉土の湿った匂いが立ち込めている。いつ背後から襲われるかわからない不安に、男たちは何度も肩を震わせた。

 「しっ、静かにしろ……あそこだ」

 健太が指差した先。巨大な根の影に、異様な姿をした生物の群れがいた。

 見た目は兎に近いが、その大きさは智哉たちの知るものとは明らかに異なり、中型犬ほどもあろうかという巨体だった。耳は異常に長く、背中には鋭い棘のような体毛が生えている。

 数頭の群れの中で、一匹だけが少し離れた場所で草を食んでいる。

 「……あいつだ。あのはぐれた一匹を狙うぞ」

 健太の囁きに、男たちの間に冷たい緊張が走った。

 智哉は、不慣れな手足で草むらを這った。心臓の鼓動が、静かな森の中で爆音のように鳴り響く。激しく動くたびに頭痛が脈打ち、冷や汗が頬を伝った。手にした果物ナイフがあまりに短く、頼りなく感じられた。

 「いけっ!」

 健太の叫びと共に、男たちが一斉に飛び出した。

 だが、森の獲物は甘くはなかった。

 草食獣は、信じられないほどの瞬発力で地を蹴った。行く手を塞ごうとした川瀬に対し、獣は怯むどころか、その巨体を弾丸のようにして腹部へ叩きつけた。

 「うわっ、ぐあっ!」

 川瀬は呻き声を上げ、そのまま地面に転がった。幸い怪我はなかったが、その一瞬の隙に、獲物は森の深淵へと消えていった。智哉も果物ナイフを振り下ろしたが、鈍い体が追いつかず、勢い余って地面に突っ伏した。

 結局、得られたのは土汚れと、自分たちの無力さを再確認させられた精神的な疲弊だけだった。

 「……クソッ、今日は運が悪かっただけだ。あんな動き、人間ができるわけねえだろ」

 アパートへ戻る道中、健太は怯えを隠すように毒づいた。

 101号室に帰還した智哉を、綾香と舞香が迎えた。

 「智哉さん! 大丈夫だったの!?」

 綾香が駆け寄り、智哉の泥だらけの服を心配そうに脱がせていく。

 「……ああ、なんとかね。でも、獲物は捕まえられなかった。森は、想像以上に恐ろしい場所だよ」

 智哉は割れるような頭痛に顔をしかめながら、ソファーに深く身体を沈めた。

 失敗の挫折感に打ちひしがれながらも、智哉の心には、ある種の「誓い」が芽生え始めていた。恐怖に震えながらも、家族のために立ち向かったという事実が、彼を支えていた。

 「綾香……こっちへ」

 智哉は、心配そうに自分を見つめる妻の細い肩を抱き寄せ、その唇に口付けをしようとした。だが、その瞬間、綾香は拒絶するように一瞬だけ顔を背ける仕草を見せた。

「っ……」

 綾香も即座にマズイと思ったのか、瞬時に顔を正面に戻したが、その瞳はきつく閉じられ、何かを必死に耐えるような強張りが浮かんでいた。

 その痛々しいほどに強張った表情を見て、智哉はそれ以上は踏み込めず、祈るような気持ちで彼女の額にそっと唇を寄せた。

 「……すまない。今日は何も持って帰れなかった。でも、俺は諦めない。必ず、君を佐藤に頼らなくてもいいようにしてみせる。愛してる、綾香。俺を信じて待っていてくれ」

 一方、リビングの隅でその様子を見ていた舞香は、冷ややかな視線を姉夫婦に向けていた。

 彼女には分かっていた。智哉がどんなに「愛」を語り、小さな果物ナイフで抗おうとしても、アパートの廊下を数歩歩けば、そこには圧倒的な「力」を持つ支配者が君臨しているのだ。

 「……お義兄ちゃん、頑張ってるのはわかるけど。お腹が空いたら、愛だけじゃ何も解決しないわよ」

 舞香の小さな呟きは、二人の耳には届かなかった。

 その頃、201号室では、男たちが無様に這いずり回る様子を窓から見下ろす影があった。

 佐藤悠は、備蓄しておいた貴重なアルファ米を贅沢に二袋分、たっぷりの湯で戻して平らげたところだった。佐藤の足元では、彼が与えたその食事によって腹を満たしきり、満足感に微睡む田中美咲が跪いていた。

「……夫たちが、必死に泥を啜っている間に、お前は何をしていた?」

 佐藤の冷徹な問いに、美咲は震える手で彼の衣類を押し下げ、剥き出しになった怒張をその口に含んだ。健太の粗野な振る舞いとは対照的な、佐藤の圧倒的な存在感と、空腹を満たしてくれた慈悲に、美咲の理性は摩耗していく。

「んぐ……ふー……っ、ん、んむっ……」

 美咲は涙を浮かべながら、佐藤の欲望を喉の奥まで受け入れ、奉仕を続けた。やがて佐藤が低い呻きを漏らすと、熱く濃密な白濁液が彼女の口内に溢れ出した。彼女はそれを拒むことなく、生命の源を分け与えられるかのように、一滴残らず嚥下した。

 佐藤は満足げに彼女の髪を撫でると、傍らにあった空の袋を手に取り、それを「支配庫」へと丁寧に収納した。この箱庭における徹底したリソース管理こそが、彼の王としての権威を担保している。

 佐藤は再び窓の外へ視線を戻した。エントランスへ逃げ帰る男たち。果物ナイフを握りしめ、必死に「守護者」を演じようとする滑稽な智哉の姿。そして、リーダーを気取りながらも足が震え、部下の醜態に毒づくことしかできない健太の浅ましさ。

「……身の程を知れ。この庭で生かされているだけの、無力な者どもが」

 佐藤は愉悦に瞳を細めた。彼にとって、智哉たちの必死な抵抗も、美咲の卑屈な奉仕も、すべてはこの閉ざされた世界を彩るための余興に過ぎなかった。

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