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アパートごと異世界に転移したが、俺だけ収納スキルだったので住民を支配することにした  作者: 飯尾 意緒
第1章 異界転移と水の隷属

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15/26

第15話:静寂の亀裂、濁りゆく鏡像

いつもご愛読ありがとうございます!

前回までのあらすじ:悠の命じた「鏡合わせの儀式」で姉妹が互いの醜態を晒しながら競うように奉仕し、妹・舞香の独占欲と姉・綾香の嫉妬が入り混じる狂乱の中で、二人は夫の待つ部屋へ拭えぬ背徳を抱えて帰還する。

それでは、第15話をお楽しみください。


※本作は規約遵守のR15作品です。過激な描写にご注意ください。

 アパート『シャン・ソレイユ』を囲む樹海に、また一つ、文明の理性を剥ぎ取るような沈黙が積み重なった。日常が断絶されてから、今日で十二日目。窓の外に広がる原生林は住人たちの生命力を吸い上げるように深緑を濃くし、アスファルトの隙間からは見たこともない色彩の苔が這い出している。もはや正確に時を刻む術を失った住人たちにとって、ただ喉を焼く渇きと、それを癒やすための「対価」だけが、過ぎ去る日々の唯一の指標となっていた。

 101号室の暗がりに、重い足音が響く。

 金井智哉は、寝室の布団の中で微かな衣擦れの音を聞いた。玄関の鍵が開く音がし、妻の綾香と義妹の舞香が戻ってくる気配がする。

 ドアが開くと、綾香が数本の水が入ったボトルを抱えて入ってきた。

「……智哉さん、お水よ。今日はたくさんあるから、安心して飲んで」

 綾香は智哉の背中に手を回して上体を引き起こすと、その喉元に惜しみなく水を流し込んだ。冷たく甘美な潤いが、砂漠のように乾ききった身体に染み渡っていく。一杯、また一杯と、綾香は慈しむように彼に水を強いた。

 十分な水分を得た智哉の瞳に、次第に生気が宿り始めた。鉛のように重かった四肢に力が戻り、思考の霧が晴れていく。

「……ありがとう、綾香。……助かった」

 智哉は掠れた声で礼を言い、妻の細い手を力強く握りしめた。だが、その瞬間に鼻腔を突いた「匂い」に、彼は微かに息を止めた。至近距離にある綾香の頬は紅潮し、瞳には陶酔の残滓が揺らめいている。服の乱れや、自分以外の男の濃厚な痕跡が漂うその姿に、智哉の胸は激しく疼いた。

 しかし、智哉はそれを懸命に否定した。

(いや、違う。綾香は俺のために、俺を生かすためにあそこへ行ったんだ……)

 彼は自分に言い聞かせるように、握った手の力をさらに強めた。

「綾香、辛い思いをさせて……本当にすまない。でも、見てくれ。もう動ける。これからは俺が……俺が君と舞香を守る。明日からは俺も外へ出て、食料や水を探す手段を考えるから」

 智哉の真っ直ぐな言葉に、綾香は一瞬、何とも言えない表情を浮かべて視線を逸らした。その反応すらも、智哉は「耐え難い羞恥と自己犠牲の痛み」だと解釈し、彼女への愛おしさを募らせた。

 リビングからは、舞香の乾いた声が聞こえてくる。

「……お姉ちゃん、いつまでそうしてるの? 私たちはもう『役割』を果たしたのよ。佐藤さんがくれたこの水が、今の私たちの現実なんだから」

 舞香の声には、かつての快活さはなく、夜の闇に同化するような妖しい光が宿っていた。彼女は佐藤の部屋で、姉が翻弄される光景をすべて特等席で眺めてきたのだ。

 智哉はリビングにいる舞香にも聞こえるように、はっきりとした口調で告げた。

「舞香も、ありがとう。これからは俺がやる。二人にばかり、あんな……あんな奴のところへ行かせるわけにはいかない」

 佐藤悠という男が握る不当な支配から、愛する妻を必ず奪い返さなくてはならない。智哉の中に眠っていた「守るべき者」としての自負が、潤いと共に激しく燃え上がった。

「綾香、愛してる。君をこんな目に遭わせた自分を許せないが、必ず、元の生活に戻れる道を俺が見つけるから」

 智哉は綾香を抱き寄せた。彼女の体から漂う他人の体温に激しい焦燥を感じながらも、彼はその「汚れ」を自らの愛で上書きしようと必死だった。

 しかし、綾香の脳裏には、先ほどまで自分を蹂躙していた佐藤の重い感触と、鏡越しに見つめさせられた自らの艶やかな姿が、消えない残像として焼き付いていた。彼女は夫の腕の中で、微かに震えながらも、その温もりをどこか遠い異物のように感じ始めていた。

 智哉はまだ知らない。自分が啜った水が、妻と義妹が跪き、佐藤を満足させた果ての「代価」であることを。

 彼は明日、自らの手で愛する者を救い出すために立ち上がろうと決意していた。

 一方、201号室の暗闇では、佐藤悠が冷淡に次の「遊戯」を思案している。

 金井家という平穏な家庭の虚飾は、既に内側から崩壊を始めていた。

 信じようと足掻く男の意志が、深淵に堕ちゆく女たちの本能と激突する日は、すぐそこに迫っていた。

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