第12話:聖女の失墜、鏡の向こうの境界線
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前回までのあらすじ:悠の活力を蘇らせた美咲、情欲をぶつけ合う健太と香織、そして妹の舞香に主導権を奪われ孤立した綾香が、それぞれの思惑と絶望を抱えながら、水と生存を司る悠の支配下へとさらに深く沈んでいく。
それでは、第[話数]話をお楽しみください。
※本作は規約遵守のR15作品です。過激な描写にご注意ください。
アパート『シャン・ソレイユ』を囲む樹海に、また一つ、残酷なまでの静寂が積み重なった。窓の外に広がる原生林は、住人たちの生命力を吸い上げるようにしてその深緑を濃くし、アスファルトの隙間からは見たこともない色彩の苔が這い出している。文明から切り離されて以来、何度太陽が昇り、何度月が沈んだのか、もはや正確に数えられる者は少ない。ただ、洗面台の蛇口から響く乾いた音と、喉を焼くような渇きの記憶だけが、この異常な監禁生活が二桁の日に突入しようとしていることを告げていた。
101号室の空気は、湿り気を失った砂漠のように重く沈んでいる。
「……智哉さん、これ、飲んで」
金井綾香は、手に入れたばかりの貴重な水を、夫の智哉の唇に押し当てた。真面目一筋に生きてきた智哉の顔は土気色に変色し、もはや自力で上体を起こすことすらままならない。ひび割れた唇からわずかな雫が滴り、彼は本能的にそれを啜ったが、その瞳に宿る光は濁ったままだった。
その様子を、部屋の隅で冷ややかに見つめる視線があった。綾香の妹、鈴木舞香である。彼女は自らの首筋に残る「証」を指先でなぞり、そこに残る熱い感触を反芻していた。
「あら、お姉ちゃん。そんなに少しずつ分け与えて、いつまで保つと思っているの?」
舞香の声には、以前のような姉への敬意は欠片もなかった。あるのは、自らが選んだ「適応」という名の堕落への確信と、姉に対する歪んだ優越感だけだ。
「智哉さんの命を繋いでいるのは、お姉ちゃんの『努力』のおかげね。でも、佐藤さんに名前で呼ばれる気分、教えてあげようか?」
舞香はわざとらしく、佐藤によって刻まれた歯形を姉に見せつけた。
「舞香、やめて……」
綾香の声は震えていた。かつての完璧主義な「聖女」の面影は、201号室の主である佐藤悠によって徹底的に暴かれ、塗り潰されようとしている。佐藤が提示する「一瓶の潤い」という名の鎖に、彼女の矜持は既に絡め取られていた。
午後、廊下を渡る乾いた風に背中を押されるようにして、綾香は再び階段を上った。
201号室の前で立ち止まり、震える指でドアを叩く。返ってきたのは、短く低い「入れ」という声だった。
部屋に入ると、そこにはアパート内で唯一、圧倒的な余裕を湛えた佐藤悠が椅子に深く腰掛けていた。
「……智哉さんの状態が、良くないんです。だから、もっと、潤いが欲しいんです」
綾香は俯いたまま、喉の奥から絞り出すように言った。
「昨日は舞香が来た。あいつはな、お前よりもずっと積極的に『自分を汚してくれ』と頼んできたぞ」
佐藤の冷徹な言葉が、綾香の胸を刺した。妹に負けている。その事実が、彼女の理性の最後の一線を焼き切った。
「私だって……私にだって、できます。佐藤さんの望むように、どんなことでも……!」
綾香は佐藤の足元に跪き、縋り付いた。完璧だったはずの聖女が、一瓶の水を巡って妹と競い合い、自らを投げ出していく。その姿こそ、佐藤が望んでいた「腐敗」の形だった。
佐藤は立ち上がり、壁に備え付けられた大きな鏡の前に綾香を立たせた。
「そこに映る自分をよく見ろ、綾香。夫のために身を捧げる『聖女』の顔か、それとも、ただ水に飢えた『メス』の顔か」
鏡の中には、頬を紅潮させ、乱れた呼吸を繰り返す自分の姿があった。佐藤の手が、彼女の事務服のボタンを一つずつ外していく。肌を撫でる冷たい空気と、佐藤の熱い指先の対比が、彼女の感覚を狂わせていった。
佐藤は背後から彼女を抱き込み、鏡越しに視線を絡ませた。
「口を開けろ」
命令に従い、綾香は震える唇を分かつ。佐藤は水の入った瓶を傾け、自らの口に含んだ後、それをゆっくりと綾香の口へと流し込んだ。口移しで与えられる、冷たく甘美な潤い。それは単なる水分補給ではなく、支配を受け入れるための儀式であった。
潤いが喉を通り、胃に落ちるたび、彼女の中の「理性」が崩壊していく音がした。
鏡の中には、既に水などなくなった佐藤の口を、もっと、もっとと貪るように口付けをする綾香の姿が映り込んでいた。彼女はさらに鏡の前で跪くと、溢れる唾液を滴らせながら佐藤の昂ぶりを深く口に含んだ。ふと横に目をやると、必死な形相でそれを咥え込み、奉仕に没頭する自分の醜態が鮮明に映し出されている。その背徳的な光景を視覚的に突きつけられただけで、彼女の意思とは無関係に、秘部からは熱い粘液が溢れ出し、下腹部を濡らしていった。
佐藤は無慈悲にそのモノを綾香の口から引き離した。もはや準備万端となっていた綾香の深奥に、それは容赦なく突き立てられる。
鏡の向こうで、佐藤の逞しい肉体が彼女を包み込み、正面から深く重なり合う。
「横を見てみろ」
耳元で低く囁かれ、綾香は言われるがまま視線を横へ向けた。
そこには、結合部から飛び散る愛液と、自分を貫く衝撃に耐えきれず、だらしなく口を開けて喘ぐ一人の女の姿があった。自分を貫く衝撃が伝わるたび、鏡の中の自分と視線が合う。そこには、苦痛を装いながらも、その実、支配される快楽に完全に甘んじている「聖女」の成れの果てがいた。彼女はもはや、自身の崩壊をどこか他人事のように眺めていた。
激しく繰り返される抽送。佐藤が深奥を突くたびに、綾香の口からは甘く甲高い喘ぎがこぼれ落ちる。佐藤は腰の動きを止めないまま、綾香の胸の先端を強く吸い上げた。その刺激に彼女の身体はビクンと跳ね上がり、反射的にキュッと下腹部を締め上げる。自覚するほどの緊縮は確実に佐藤へと伝わり、彼をさらに昂ぶらせた。何度も繰り返される甘噛みと、そのたびに訪れる下腹部の弛緩。彼女の思考は快楽の泥濘に沈み込んでいく。
次第に佐藤の動きが激しさを増し、終焉への予兆を感じ取った綾香は、本能的に手足でガッチリと彼の肉体にしがみついた。必死になって離れまいと、その逞しい背中をホールドする。
佐藤も彼女の執着を受け入れるように、深く繋がったまま綾香の唇を塞ぎ、喉の奥を鳴らして熱い奔流を彼女の胎内へと解き放った。
何度となく綾香の中で跳ねる鼓動が収まると、佐藤は口を離し、ゆっくりと結合を解いた。奥深くに注ぎ込まれた熱い液体は、あまりの密度の高さゆえか、すぐには溢れ出してくることはなかった。
綾香はふらつきながらも鏡の前で再び屈み、佐藤のモノを口で綺麗に掃除し始めた。鏡には、献身的に奉仕する彼女の後ろ姿が映り込む。そしてその太腿の付け根からは、隠しきれなくなった白い濁りが、どろりと艶かしく垂れ落ちていくのが見えた。
それから、鏡の前で乱れた服を着て、見なりを整えてすぐに、綾香は101号室へと戻った。手には智哉の命を繋ぐための、重い水の瓶が握られている。
「……お姉ちゃん、おかえり」
舞香が、暗闇の中で獲物を狙う獣のような眼差しで声をかけてきた。彼女は姉の衣服のわずかな皺や、肌に残った他人の匂いを逃さない。
「ずいぶん丁寧な『取引』だったのかしら。お姉ちゃんの顔、なんだかさっきより……いい顔してるわよ」
舞香の言葉には、姉を追い詰める愉悦が満ちていた。彼女にとって、完璧だった姉が自分と同じ、あるいは自分以上に汚れていく姿を観察することは、最高の娯楽であった。
綾香は何も答えず、ただ智哉の寝顔を見つめていた。だが、その脳裏に焼き付いているのは、先ほどまで自分を支配していた佐藤の感触と、鏡に映った自分の艶やかな姿だった。
「……智哉さん、ごめんなさい」
その謝罪は、誰に、何に対して向けられたものなのか。
舞香は姉の背中を眺めながら、自らもまた明日、佐藤の元を訪れる決意を固めていた。姉よりも、もっと深く。姉よりも、もっと汚く。
アパート全体を包む腐敗の毒は、もはや不可逆的な段階に達していた。
202号室では香織が自らを削りながら健太を繋ぎ止め、103号室では美咲が静かに夫への情を切り捨てている。
そして201号室。そこは、住人たちの欲望と生存本能が渦巻く、この閉ざされた世界の「中心」であった。
夜の帳が再び下りようとしている。
九度目の夜。それは聖女が完全に失墜し、姉妹の絆が「共有される秘密」という名の泥沼に沈んでいく、終わりの始まりであった。
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