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休日のショピングモールで


第七章 休日のショッピングモールで


1 約束の朝


 休日の朝、鏡の前で身支度を整える。

 髪はまだ短いが、先日美容院で整えられたラインが柔らかく額に沿っている。

 彼女から贈られた小さな髪留めを、右のこめかみあたりで留める。

 少しだけ光を反射して、控えめに主張した。


 カットソーはこのあいだのレッスンで渡されたもの。

 袖口のレースはまだ慣れないが、肌ざわりがやさしい。

 ボトムスは中性的な細身のパンツ。

 靴は女性用のローヒール。ヒールの高さはないが、足首の曲げ方が違う。

 ストッキングの薄膜が、足の動きを一枚隔てて伝えてくる。


 ――どこかアンバランスだ。


 髪留めも、靴も、カットソーも“女性らしい”のに、下半身だけが重たく見える。

 それでも鏡に映る自分を見つめながら、彼女の言葉を思い出した。

 >「まずは着てみることから。似合うかどうかは、そのあと」


 スマートフォンが鳴る。

 「もう着いたよ」とメッセージ。

 時計を見ると、待ち合わせの十五分前だった。



---


2 モールの喧噪


 ショッピングモールの入口。

 休日の人波の中で、沙月はすぐに見つかった。

 白いブラウスに淡いベージュのスカート。

 陽光を反射するような柔らかい生地が、彼女の動きに合わせて揺れている。


 「お待たせ」

 「ううん、早いね。……ん?」

 彼女の目が僕を上から下まで眺める。


 「やっぱり変」

 「変ってなにが」

 「上半身だけ“春”なのに、下が“冬”って感じ」

 「そんなに?」

 「せっかくだから、もう少し合わせようよ」


 沙月はためらいもなく僕の腕をつかみ、エスカレーターへ向かった。

 案内された先は、レディースフロアの一角。

 淡い照明、花柄のマネキン、ひらひらと揺れるスカートたち。

 その空気だけで足がすくんだ。



---


3 スカート試着


 「ちょっとだけでいいから」

 「いや、でも……」

 「“見るだけ”って言ったときも、結局買ったでしょ」

 笑いながら言う彼女に、返す言葉が見つからない。


 渡されたのは、淡いグレーのロングスカートだった。

 薄手の生地で、裾には小花模様のレースが一周している。

 手に持つだけでも、空気を含んで軽い。


 試着室のカーテンを閉めると、静寂が降りた。

 ズボンを脱ぎ、ストッキング越しの脚に布を滑らせる。

 腰に回したウエストリボンを軽く結ぶと、スカートが静かに広がった。


 ――軽い。

 けれど、怖いくらいに柔らかい。


 鏡の中、裾がふんわりと足首を包み込む。

 歩くと、かすかな風をまとうように揺れた。

 身体の動きが、直接“形”になるような感覚。

 パンツでは感じられなかった“流れ”がそこにあった。


 「見せて」

 カーテンの外から沙月の声。

 「……無理」

 「大丈夫、誰も見てないって」


 意を決してカーテンを少し開けた。

 彼女の目が一瞬まるくなり、それから穏やかにほころんだ。


 「ほら、やっぱり。こっちの方がずっと自然」

 「……自然?」

 「うん、全体のバランスが取れてる。靴とも合ってるし」


 彼女の言葉に、胸の奥がくすぐったくなる。



---


4 帰り道の風


 そのままの格好で外に出る勇気はなかった。

 試着室でスカートを脱ぎ、元の服装に戻す。

 でも、鏡の前でほんの一瞬――

 スカートの裾が揺れたときの“軽さ”を、指先が覚えていた。


 帰り道、手提げ袋の中には購入したスカートが入っている。

 歩くたびにレースの裾がかすかに触れ合い、やわらかな音を立てた。


 「ねえ」

 隣を歩く沙月が言う。

 「今度、そのスカート履いて一緒に出かけよう」

 「……考えとく」


 口ではそう答えながら、袋の中の布の感触が気になって仕方なかった。



---


第七章 休日のショッピングモールで 完




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