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はじめての女子会


第23章 はじめての女子会


 その日の朝、俺――山下優斗は鏡の前でずっと悩んでいた。

 髪は前回の美容院以来、肩に軽くかかるくらいの長さになっていて、沙月に教わった通りブローしてみたが、毛先がどうしても言うことを聞かない。

 今日の予定は――女子会。

 沙月、ほのか、美奈、遥。

 そして、俺。


 “女子会”なんて言葉、自分には一生関係ないと思っていた。

 けれど沙月が「せっかくだから、みんなで集まろうよ」と言い出し、ほのかたちもすぐに賛成してしまった。

 俺は断るきっかけを失い、結局、流されるようにうなずいていた。


 服装は沙月が前夜に選んでくれた。

 淡いラベンダー色のワンピース。

 胸元に小さなリボンが二つ並び、ウエストには白いレースの帯。

 袖は透けるように薄いシフォンで、腕を動かすたびにひらりと揺れた。

 裾はふくらはぎのあたりでふんわり広がり、歩くたびに裏地の柔らかい生地が脚をなぞる。


 「……本当に、これ着て行くのか?」

 鏡の中の自分は、もう“男”ではなかった。

 けれど、内側の俺はまだ抵抗している。

 サテンのインナーの冷たさも、ストッキングの肌を包む感覚も、どれも馴染まない。

 けれど――嫌じゃない。

 それがいちばん厄介だった。


 カフェの扉を開けると、ほのかたちがすでに席にいた。

 店内は淡い木目調で、花柄のクッションとミルクティーの香りに満ちている。

 女性ばかりの空間に、俺の足は一瞬止まった。


「優斗!」

 沙月が手を振る。

 その声に振り返ったほのかたちの視線が、一斉に俺へと注がれる。


「すごい! 似合ってるよ!」

「前よりずっと柔らかい雰囲気だね」


 言葉は優しい。

 それでも胸の奥で、何かがざらつく。

 俺は笑ってみせる。


「……沙月が選んだんだ。俺の趣味じゃないけど」

「でも、似合ってるよ?」

 沙月が穏やかに笑う。


 ナイフを持ち上げた瞬間、袖口のレースが手首を撫でた。

 その感触が、どうしようもなく気恥ずかしい。

 周囲を見渡せば、テーブルを囲む全員が女性。

 俺だけが、この服に戸惑っている。


「優斗、女子っぽくなったね」

 遥の何気ない言葉に、喉がつまる。

「……そう見えるだけだよ」

「でも、自然に見える。バイトでもそうじゃない?」

 ほのかが軽く笑う。


 “自然”――それは褒め言葉のはずなのに、なぜか苦しかった。

 俺は“男としての自然さ”をどこに置いてきたんだろう。


 沙月が紅茶を注いでくれる。

 カップの縁から立つ湯気が顔に触れ、ほのかたちの笑い声が遠くに響く。

 俺は無意識にスカートの裾をつまんだ。

 レースの縁が指に触れ、さらりと冷たい。

 生地が動くたび、脚の内側で空気が通り抜ける。

 その軽やかさに、戸惑いながらもどこか安らぎを感じてしまう。


「優斗、今度みんなで買い物行こうよ」

「えっ?」

「せっかく可愛い服着てるんだし、もっといろいろ挑戦しようよ」

 ほのかの笑顔がまぶしかった。


 “挑戦”という言葉に、胸がざわつく。

 俺は“女の子になる挑戦”をしているつもりはない。

 ただ、流れに流されているだけだ。

 でも、その流れの中で、知らなかった自分が顔を出す。


 ――この服、悪くないのかもしれない。


 そんな思考が頭をよぎった瞬間、俺は慌ててカップに視線を落とした。

 紅茶の表面に揺れる自分の顔。

 唇には薄く色がのっていて、目元も沙月に整えられたままだ。

 そこに“優斗”の影は薄い。


 カフェを出ると、夕暮れの風が頬を撫でた。

 ワンピースの裾がふわりと浮かび、パンプスの中でストッキングがさらりと擦れる。

 その感触が、思いのほか心地よくて。

 俺は一瞬、何も考えられなくなった。


「今日の優斗、楽しそうだったね」

 隣を歩く沙月が微笑む。

「……無理してたかも」

「無理でもいいよ。少しずつで」


 俺は小さく頷いた。

 スカートの裾がまた風に揺れ、リボンが光を反射した。

 “俺”という言葉が、少し遠くに感じられる――そんな帰り道だった。



---


服装の詳細描写


ワンピース:ラベンダーのシフォン素材。胸元にサテンのリボン2つ、ウエストには白いレースの帯。袖は透け感のある半袖。裾はふんわりと広がる。


インナー:ベージュのサテンキャミソール、小花の刺繍入り。


ストッキング:ヌードベージュ20デニール。肌に密着し、滑らかな感触。


パンプス:オフホワイトのローヒール。クッション入りで履きやすい。


髪留め:桜色のリボンヘアピン(沙月から贈られたキーアイテム)。

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