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彼女たちの再訪



第24章 彼女たちの再訪


 昼下がりの陽光が、ショーウィンドウの中のマネキンをやわらかく包んでいた。

 ブティックのガラスに反射する光が、店内の空気を少しだけ甘くする。


 俺は開店準備を終え、鏡の前で姿を確認した。

 今日のコーディネートは、春らしい淡いピンクベージュのブラウスに、白いリボンをあしらった襟元。

 袖口には繊細なレースが縫い付けられていて、手を動かすたび、陽の光を吸ってかすかに輝く。

 下はアイスブルーのタック入りスカート。シフォンのように軽い素材で、足を動かすたびに裾がふわりと舞う。

 履き慣れたローヒールのパンプスは、淡いベージュで、肌の延長のように自然に馴染んでいた。


 ――けれど、どんなに自然でも、やっぱり“俺の服”という実感はまだない。

 ブラウスの布の柔らかさも、スカートの風の通り方も、心地よすぎて逆に落ち着かない。

 それでも仕事だから、と自分に言い聞かせていた。


 店のドアベルが軽やかに鳴った。

 顔を上げると、三人の女性が入ってきた。


 ――ほのか。

 大学の同じゼミにいる、あの明るい笑顔。

 その隣には、美奈と遥。サークルでもよく顔を合わせる二人だ。


 息が止まった。

 心臓が、服の中で暴れるように跳ねた。

 前に来たときも、一瞬だけ目が合った。そのときの、彼女たちの微妙な表情を思い出す。


 もしかして、俺に気づいているのか?

 それとも、ただ似ているだけと思っているのか?


 俺はハンガーを並べ直すふりをして、視線を避けた。

 けれど彼女たちの視線が、明らかにこちらを追ってくるのがわかる。


「ねえ……やっぱり、あの人」

「うん……たぶん」


 ほのかの声が、服越しに届いた瞬間、胸の奥が冷たくなった。

 逃げたい――けど、逃げられない。


 彼女たちが近づいてくる。

 俺は笑顔を作った。仕事のときの、作りものの笑顔だ。


「いらっしゃいませ」

 声が震えないよう、ゆっくりと言葉を出す。


 ほのかが、一歩前に出た。

 彼女の瞳はまっすぐで、優しいのに、逃げ道を許さない。


「……優斗、だよね?」


 世界が、静止したように感じた。

 店内のBGMも、外の車の音も遠くなっていく。


 俺は視線をそらした。

 けれど、彼女たちの前で否定する言葉が出てこなかった。


 ほのかが、ため息をひとつ。

「やっぱり……そうだと思った」


 そのとき、ポケットのスマホが震えた。

 表示された名前――沙月。


 俺は小声で「すみません」と言い、倉庫の奥に下がって電話を取る。


「沙月……バレたかもしれない」

『誰に?』

「大学の友達、三人。たぶんもうごまかせない」

『……大丈夫。優斗、正直に話していいと思う。あなたがどんな経緯で“今の姿”になったのかを』


 沙月の声はいつも通り落ち着いていて、それだけで心が少し温かくなった。


 俺は小さく頷いて、電話を切った。


 ――逃げるな。


 自分にそう言い聞かせ、休憩スペースに戻る。

 彼女たちは静かに紅茶を飲みながら、俺を待っていた。


「……高校のときに、病気が見つかって」

 言葉が自然にこぼれた。

「ホルモンのバランスが崩れてて、治療してたら……少しずつ体の形が変わってきて。

 大学に入るころには、もう……“どっちなのか”って、説明するのが難しくなってた」


 沈黙。

 紅茶の香りが、静かに満ちていく。


「だから、この仕事も……“練習”みたいなもんだ。

 人前で、こうして笑っていられるか試してる」


 ほのかが、カップを置いた。

「……そうだったんだ。

 最初に見たとき、すごく綺麗だなって思ったけど、なんか“優斗っぽさ”も残ってた。だから混乱したの」


「似合ってるよ」

 美奈が言った。

「そのブラウスのレース、ほんと繊細。こういうの、着慣れてる感じする」


「いや、慣れてないよ」

 思わず笑ってしまった。

 その笑い声に、少しずつ重かった空気が和らいでいく。


 ほのかが、静かに言う。

「優斗……じゃなくて、“優”の方が、しっくりくる気がする」


 その言葉に、胸の奥で何かがゆっくり溶けていった。


 外に出ると、夕暮れの風がスカートの裾を揺らした。

 シフォン生地がふわりと膨らみ、膝に触れる感触が、なぜか心地よかった。


 ポケットのスマホを取り出す。

 沙月にメッセージを送った。


> 『話した。全部。もう隠せなかったけど、受け入れてもらえた』




 すぐに返信が来た。


> 『よかった。優、あなたはちゃんと自分で前に進んでる』




 その言葉を読みながら、胸元のリボンをそっと指で整える。

 小さなリボンが風に揺れ、レースがほのかに擦れる音がした。


 ――それはもう、“女の子の音”というより、

 俺自身の音だった。



---


服装の詳細描写


トップス:ピンクベージュのブラウス。光沢のあるレース襟と白いリボン。キャンディスリーブ仕様。


スカート:アイスブルーのシフォンタック入り。膝下丈、裏地つき。風を受けると軽く広がる。


インナー:サテンのキャミソール(薄ピンク・胸元に小花の刺繍)。


パンプス:ベージュのローヒール、丸みを帯びたつま先、低反発インソール。


アクセサリー:沙月にもらった桜色のリボンヘアピン(絹糸のような光)

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