邪竜の脅威
永戸達はその夜、街にある人間用の宿に泊まることが決まった。竜用の大きな住処が並ぶ街中にちょこんとある宿屋で、永戸達は人間サイズに収まった空間に、のんびりと過ごす。
「竜の国ってこんなにすごいんですね」
「そうだな、俺も初めて見て驚いたよ、巨人でも住んでるんじゃないかって家ばかりでさ」
永戸は部屋で神癒奈が持ち出してきたお菓子を食べながら、語り合いをする。
「竜の国とはいえ、夜は静かなんだな」
「流石にこの時間帯は竜達もお休みをしてると思いますよ」
正面に見える住居の奥を見ると、竜がぐっすり休んでいるのを見かける。街を歩く竜も、空を飛ぶ影も無かった
「リオーネさんは今頃王城で休んでるのでしょうね」
「久々に彼女が竜の姿で休んでるところを見かけたな、彼女がありのままの姿で休むのを見るのはいつぶりだろうか」
普段リオーネに付き添ってるライも物珍しそうにそう言う。
一方玉藻前は竜の国の地酒を飲んでいた。
「ふむ、竜の飲む酒と銘が打たれてるだけあって、火酒のような味わいじゃ」
「あまり飲みすぎて、明日の仕事に支障をきたすんじゃないぞ」
「問題はない、お主らがついておるからの」
そう言うわけでも不安なものは不安なのだと永戸達は思うが、玉藻前は特産品の魔物の燻製をつまみに酒をぐびぐびと飲んでいた。
「というかそれお土産店の奴だろ、いつの間に寄ったんだ?」
「永戸さん達が宿を取ってる間ですよ、暇だったんで皆へのお土産も兼ねて寄ってきたんです。
そう言うと神癒奈はお菓子の代わりにキャリーケースに詰められたお土産を見せる。あのなぁ、一応仕事なんだぞと永戸は思うが、ニコニコの神癒奈の姿を見ると、恋人なだけあって何も言えなくなった。
「分かったよ、観光も兼ねて来てるんだから、それくらいは許す。ただ羽目を外しすぎるなよ」
「はーい」
軽く答えた神癒奈はお菓子を食べ終えるとジュースを飲む。仕事なんだよな? と永戸は思うと、改めて任務の書類を確認する。そこにはこう書かれていた。"竜の国にて魔想体の出現あり"と。
(兎も角……警戒するに越したことはないな、リオーネが言ってた急進派の竜がどう動くのかも気になるし)
そう考えると、永戸は布団に倒れ、ゆっくりと寝始めた。一日あちこち歩き回ったりしたせいか、疲れで自然と瞼が落ち、彼は夢の中へとゆったり入っていくのだった…。
ーーー
それから数日、神癒奈と玉藻前はリオーネの政治の手伝いを行い、永戸とライは時折街を歩いてはのどかな時間を過ごした。
そんなある日のことだった、公園でのんびり過ごしていると、ライがこんなことを聞いてきた。
「永戸、君はどう思う? 竜の国の急進派について」
「んなの俺に分かるかよ、政治は俺は詳しくない」
永戸は手を振ってはないないと答える。ライも同じ意見なのか、だよなと言っては隣で寝転んだ。
「私達は時間が起きなければ完全にお荷物、竜達からも冷たく見られる始末だ」
そう言ってると空に飛ぶ竜を二人で眺める。
「不思議と、今は空が狭く感じるな」
「そりゃそうだろう、ここは竜の国、竜があちこち飛び回っててもおかしくはな…」
おかしくはないと言おうとした時だった、空を群翼が覆い尽くすのを見たのは。
「なっなんだ⁉︎ アレは⁉︎」
「……どうやら俺たちの出番らしいな、行くぞ、ライ、あーそれと、神癒奈にも連絡を頼む、なる早で」
「分かった!」
永戸達は空を覆う翼が、王城へと向かっていくのを見かけると、二人で走り出す。
「ダメだ! 王城まで間に合わない!」
「神癒奈達に連絡だけでもするんだ! もう敵はすぐそこまで来てるんだぞ!」
ライはEフォンで神癒奈達に連絡をする。そうすると、王城の方にて火が燃え上がるのが見えたのだった。
「アレはどっちの火だ! 神癒奈達か⁉︎ 竜達のブレスか⁉︎」
「わからない! ただ状況的にまずいのは確かなようだ!」
そうして永戸達は王城へと向かう。神癒奈達が食い止めてくれていることを信じて。
ーーー
一方、王城では神癒奈と玉藻前が竜達を前に立ち塞がっていた。
『愚かな狐の娘め! そこをどけ!』
『これは竜の国の問題なのだ! 我々に手出しをするな!』
竜達が威嚇をするも、神癒奈はそれにひかない。彼女は武器を構えては言った。
「悪いですけど! 私はこの国と外交してる身、この国の問題は私たちの国の問題でもあります! リオーネさんには指一本触れさせやしません!」
『ほざけぇ!』
そう言ってドラゴンがブレスを吐くも、神癒奈はそれを一刀両断して防ぐ。幸いにも周辺には観光客や住民の竜はいない、いるのは急進派の竜だけだ。
「誰も傷つけたくはありません、下がってください!」
神癒奈が一本、線を引くと竜達は恐れ慄き、一歩下がる。神癒奈の目から放たれる眼光から竜達は悟った、この狐には勝てないと、すると、軍団の奥から、一際大きな竜が現れた。
『我が名はローゼス、古くから竜の国にて貴族をしている者だ、異邦の狐よ、道を開けよ』
「断ります!」
『何故関係のない女王の側につく、お前にとってこの国はただの外交関係に過ぎない国のはずだ、それなのにこの国に何の想いがあって守ろうとする』
「友達を助けるためですから!」
神癒奈は、一線を超えてきたローゼスを、容赦なく斬る。だが、ローゼスの鱗に傷こそはいるが、甲殻を貫くまでには至らなかった。
『弱い、所詮下等生物の攻撃など、この程度』
「……その尋常ならざる気配、貴方、まさか魔想体を⁉︎」
『あぁ、運命と名前を言っていたお方から賜った。この国を変えるためだ、どのような力にだって縋ってやろう』
「その力がどう言う意味か知っててそれに縋るのですか⁉︎」
神癒奈は今度は境界線の停止の力を使い、ローゼスを斬る。今度は傷は深く入ったが、斬り込まれた肉がつなぎ合わされ、回復される。
『今のは効いたぞ、そこまで抗うのならば、こちらも相応の力で戦おう』
ローゼスが口から息を吸うと、ブレスを吐く体勢に入る。それに神癒奈が身構え、停止の境界線で壁を敷くと、ビームのようなブレスが薙ぎ払われた。その威力はかくたるや、停止の境界線を破り、神癒奈達を吹き飛ばす。
「くっ! 無事か! 神癒奈よ!」
「はい! 玉藻様!」
王城までローゼスに入られ、神癒奈達は、リオーネとローゼスを鉢合わせにしてしまう。
『ローゼス、何故温厚だったアンタが今、こうしてアタシに楯突こうとしているわけ?』
『長らく席を空けていた女王、貴方がいけないのです、貴方がいない間、この国は遠巻きに貴方の指示を受けながら、貴族達が国を回して来ました、これほどまでに空けていたのであれば、女王の席など不要、ならばこの国を共和政に変えさせていただきたい』
『残念だけど、その答えはノーよ、アタシは、受け継がれた王位として、この国を大事にしたいのだから』
リオーネがビーム状のブレスを吐く。それはローゼスの鱗を焼くも、貫くには至らずローゼスに反撃の隙を与えてしまった。
『愚かな…力で捩じ伏せようとするとは、暴君にでも成り下がったか』
『この国を守るためならアタシは何だってするわ、その思いは、アンタも同じはずよ』
『なるほど、そう返すか』
そう言うと、ローゼスは再びブレスを吐く体勢に入る。その次の瞬間だった。
「守れ!」
ローゼスから放たれたブレスを、ライがシールドから展開されるバリアで防いだ。数枚バリアが破られるが、攻撃を受け返すと、ローゼスの体が焼ける。
『何奴……』
「通りすがりの人間だよ」
ライがそう返すと、今度はローゼスの背後からワイヤーが飛んできて、背中に乗り上がると赤い稲妻を迸らせながら斬り込んだ男がいた。
『ぐっ! まだ戦力がいたのか!』
「あぁ、お前の中の魔想体、摘出させてもらう」
やって来た永戸は政権を振りかざすと光らせては構える、彼らは戦う準備はできていた。
『アンタ達!』
「リオーネは下がってるんだ! ここからは我々が戦う!」
ライがそう言うと、永戸達四人は構えた。
『誇り高き竜族に抗うか! なら、塵芥となるがいい!』
ローゼスが咆哮をすると、永戸達は体をこわばらせ、真っ直ぐかけていくのだった。




