たまの現地の依頼
静かな昼の南国のジャングル、空では海鳥達が挨拶をするように飛び交う中、ステルスクロークで身を隠し、進む一団があった。
「蒸し暑い…」
「我慢してくれよ……体温調整機能のある服装とはいえ、こうしてクロークまで着るとあつくて溶けそうだ」
煉禍とクレスがそうぼやきながら少しずつ進む。休みをもらった彼らがなぜ南国のジャングルでこんなことをしているのか。それは現地のギルドにて依頼を受けたからだ。その依頼の内容は…。
「なり損ない、いましたか?」
「いいや、見つからない、いるのかよ、"ゴブリン"なんて」
現地人からゴブリンと称されたなり損ないの討伐だった。対象は複数体で行動しており、街と街を行き来する集団を見つけては襲いかかって来るそうだ。
だが彼らはなり損ないでは珍しく知能を持った個体なのか、屈強な集団に対しては襲い掛かろうとしない。
そこでだ、現地の人からの話を元に囮作戦をすることにした
「本当にこれで大丈夫なのかな…?」
現地の人から頼まれた別の依頼、食材の輸送もこなしつつ、メルトは言う。武器は全員ステルスクロークで隠し、女性陣は一見すると非武装の姿で進む。ただ、上空、高高度から見張る者がいた。
【そちらの様子はちゃんと見えてますので、どうぞ気を楽にして進んでください】
「ん、わかった、とはいえ、フィーネがいないとちょっと心配」
【大丈夫です、予定だと120秒後に会敵しますので、数えててください】
不安になる南雲を高高度を飛ぶフィアネリスが宥める。
「120秒後とは、意外とすぐでありますなぁ」
「街を出てもうしばらくになるからね…けど、こんな見え見えの罠に引っ掛かるのかなぁ」
そうして歩いていると、近くの茂みからガサっと音が聞こえた。フローレア達は身構えるが、すると出てきたのは、小動物だった。
「なんだ、身構えて損をし…」
フローレアがホッとしかけた途端、背後から剣を持ったゴブリンが一体、奇襲を仕掛けてきた。フローレアはしまったと思い身構えるも遅く、剣で貫かれ…と思ったその一瞬だった、空からフィアネリスが高速で舞い降りてきて、剣を盾で防いだ。
「目標討伐対象、ゴブリンを確認、討伐を開始しますよ!」
フィアネリスが剣で切ると、ゴブリンは下がる、だが逃げない辺り、こちらから逃げることはできないと悟ったらしい。三体のゴブリンが出てくると、それぞれ武器を構えた。
「来なさい! その尽くを、殲滅してさしあげましょう!」
ゴブリンが身構えるも、メルト達も武器を取り出した。そして、クレスと煉禍も現れると六対三の戦いになる。
「『ブースト!』『クロックアップ!』『リジェネレイト!』」
メルトが魔法を重ねがけする中で、フィアネリス達は前に出た。ゴブリンは名前にしては大柄で、体長はフィアネリス達よりも高い、膂力もあり、一体が剣を振り下ろすと地面が少し裂けた。
「大切な街路を壊すわけにはいきませぬ!」
フローレアが槍を構えると、ゴブリンの腹部に向けて突き刺し、空想の能力を使った。
『爆ぜろ!』
槍が突き刺さった先から、爆発が起き、ゴブリンはダメージを受ける。腹部に風穴が開くもすぐに再生すると、ゴブリンはニヤリと笑い、剣を振ってきた。
「再生! やはりなり損ないはこの世の定義では推し量れぬ存在!」
「けど、私達の武器は白銀加工がされてる、力は削げるはず」
南雲が大剣を振り下ろすと、ゴブリンの片腕が千切れ飛ぶ。それでも再生するが、力は封じ込まれつつあるのか体の動きが遅くなる。
「当たれっ!」
クレスがライフルによる射撃でゴブリンの首元を白銀弾で撃ち抜く。弾丸は貫かれず内部に残り、再生すると、ゴブリンの一体が苦しみ始めた。
「それで、核は何処にあるんですか!」
「心臓部に!」
「なら! これです!」
煉禍がパイルソードを突き刺すと、苦しむゴブリンの腹部のど真ん中にパイルバンカーを打ち出す。杭が突き刺さると、ゴブリンは体を霧散させ、まず一体を倒した
「次!」
「メルト殿! 後ろ!」
「っ! 『アイジングウォール!』」
メルトが氷の壁を作ると、斧を持ったゴブリンの攻撃が受け止められる。斧が氷に突き刺さり、抜けなくなると、ゴブリンはそれから手を離し、素手で戦おうとする。
「これでも喰らいなさい!」
フィアネリスから波動砲が放たれ、ゴブリンの右肩が弾け飛ぶ、だがゴブリンはまだ抵抗の意思を見せ、氷の壁を乗り越えると自身の体躯でメルトを押し潰そうとした。
「きゃっ!」
慌ててメルトは横に飛び退く。ゴブリンは起きあがろうとするが、フローレアに背中に組み付かれると、彼女は槍を突き立てた。
「これで、二体目!」
槍を突き刺すと、核までその攻撃が届き、二体目は倒れた。すると、三体目は勝てないとわかると降伏の姿勢をとった。
「何⁉︎ 我々に跪くのでありますか⁉︎」
ゴブリンはフローレアの言葉に頷く。それを聞くと殆どが戦闘体勢を解こうとするが、フィアネリスだけは違った。剣でゴブリンの首を切り落としたのだ。
「なっ⁉︎ フィアネリス殿⁉︎ 降伏した敵を斬るのは野蛮なのでは⁉︎」
「残念ですが、なり損ないは人類を脅かす害悪、倒さねばならない敵です、それに…過去に降伏した敵をのさばらしにして、人を亡くしたことがありますので」
かつてあった戦いを思い出すと、フィアネリスは容赦なく首を蹴飛ばし、核を剣で貫く。これにより、ゴブリンは全員討伐され、依頼は完了となった。
「あっけない依頼でしたね…」
「そうだね…向こうの街に着いたらギルドで酒とジュースでも飲もう?」
「それがいいですな!」
そうしてフローレア達は先を行くが、フィアネリスが武器を戻すと、クレスは聞いた。
「なぁ、その、教えてくれよ、さっき言ってた人を亡くしたって話、あんたがすっげぇ大事そうな顔で言ってたから、知りたくなった」
「……えぇ、教えてあげますよ、あれはそう、一年ほど前の機械兵との戦いが始まって数ヶ月のこと…マスター達に起きた出来事です」
機械兵と聞いてクレスは口を押さえ、少し考えると言う。
「機械兵? 機械兵って、マシンノイドのことか?」
「詳しいのですね?」
「あぁ、とは言っても、あの戦いは四課に入るまでの教鞭で軽く学んだ程度だけどな」
すると、煉禍も近づいて話を聞こうとしてきた。
「その話は、僕も断片的にしか知りません、永戸隊長達は、そこで一体何を見てきたのですか?」
「そこでマスター達は……難民の村を見つけたのですが、マシンノイドの襲撃の際、降伏した一匹を逃したことによって、のちに難民を虐殺されたのです」
「…そうか」
「そんなことが…」
フィアネリスは目を閉じ、残っていた記録をリプレイするとその時のことを鮮明に思い出す。あの時叫んだ彼の声は、悲痛な嘆きの声であったと。
「だから、敵が降伏の意思を見せても、最後まで気を抜いてはいけないのです」
「……わかったよ、あんたが言うことなら、俺は信じる」
「うん、覚えておくよ」
「ありがとうございます」
フィアネリスの話を聞くと、三人はフローレア達を追いかけ、ギルドに討伐の報告と食糧の輸送を行なっていくのだった。




