それぞれの時間
それから数日、フィアネリス達の南国暮らしは続いた。昼はレジャーを楽しみ、夜は街に繰り出すかバーベキューをしたりと楽しんだ。一方その頃都市の病院では…。
「ふへへ…陽宮永戸さん…血液検査の時間ですよ…大丈夫、怖くないですからね…」
「もう何日血液検査来てるんだよ! なんで神癒奈は一発で済んで俺だけ何度も血液検査しなくちゃならないんだ!」
血液検査をされかけてる永戸がいた。永戸はコヤァー!と狐のように威嚇をしながら抵抗する。
「だって、検査結果を出してくれない貴方が悪いんですよ、だから何日もこうやって血液検査に来ているわけです…」
そんな永戸を見て舌なめずりをする看護師、永戸はそれに本能的な恐怖を感じ、言った。
「もう採れる血液はないよ! つかこれ以上採ったら貧血で逆にぶっ倒れるぞ! 都市を救った英雄がそんな倒れ方していいと思ってるのか!」
「科学と都市の進歩のためです! 犠牲になってください♡」
「嫌だー! 助けて神癒奈ー!」
永戸が神癒奈に助けを求めるも、神癒奈はよそ見をしなからお腹を鳴らし、こんなことを言った。
「おそときれい」
「ダメだ⁉︎ こっちはこっちでまずい病院食の食べ過ぎと空腹で自我を失ってる⁉︎」
虚な目で空をぽかんと見てぐーっとお腹を鳴らす神癒奈に、永戸も状況的に危機感を感じた。だが無慈悲にも神癒奈は助けてくれず、永戸は今日も都市の進歩のため、血を吸われる。
「アッー!」
「いい声で鳴いてくれますねぇ、ふひひ……」
「も…もう無理…血の吸われすぎで意識が…」
永戸についに限界が来たのか、ふらりとベッドに倒れ込む。それをそっと看護師が布団をかけると、注射器の血を見ながらこう言う。
「ではまた必要になったら血を吸いに…じゃなかった血液検査をしに来ますので、またよろしくお願いしますね♡」
そうして看護師は去っていくが、ベッドに倒れ込んだ永戸は枕に顔を埋めながら言った。
「あの看護師…中身は絶対吸血鬼だろ……」
「あっ、とりさんです」
血の吸われすぎで貧血になり、ベッドに倒れ伏す永戸に、虚な目で鳥を見て窓の外なのに捕まえようと手を伸ばし、食に飢えた神癒奈、世界を救った英雄がこの始末…と、二人は病院の退屈な時間を過ごすのだった…。
ーーー
フィアネリス達の方は充実した時間を過ごしていた。
「今日は南国の魔物の肉を使ったバーベキューです!」
フィアネリスが丁寧に肉と毒の部位を捌きながら言う。それを見たクレスとメルトは言った。
「なぁ…フィーネ…数日バーベキューとかしてきてそろそろ味変したいと言った俺が言うのもアレだが…その肉食えるのか?」
「そうです……牛型の魔物だったとはいえ、毒の部位がないとは言い切れませんし」
だが肉を捌くフィアネリスは笑顔でこう言ってのけた。
「大丈夫ですよ、牛なら余程のことがなければ食あたりは起こしませんし、毒となる部位は分かってますので事前に摘出しておきます。そ・れ・にぃ♪ これだけあれば、明日と明後日の晩御飯にも困りません♪」
「それは、そうだけどよ…」
まるまる一頭の魔物の肉を分け、フィアネリスは涎を垂らす。今日使う分の肉を用意すると、どこから取り出したのか、大量の調味料をアメリカンスタイルでふりかけていく。その時点で塩分が高そうな香ばしい匂いをしていたが、フィアネリスはそれを豪快に焼いていく。酒…は未成年がいるのでダメとして、その代わりにオイルを垂らしてはフランベにする。
「蒼き炎灯すそれは破壊…♪ いい香りがします」
くくくと悪い笑みを浮かべながら豪快に肉を燃え上がらせるフィアネリスは、さしずめ終末を呼ぶ天使…いや終末の天使なのだが…兎に角周りを震え上がらせた。
「フィアネリスさんがしちゃいけない表情してる……」
煉禍がフィアネリスの姿を見て恐怖を感じる。だが種族的本能か、意識は肉の方へと段々と寄っていった。
「そういえば、フィーネ、魔物狩る時意気揚々としてたね……この肉食べるの楽しみにしてたんだろうか」
「えぇ! とっても楽しみです♪ 焼き加減はいかがなさいますか? レア? ウェルダン? お好みの焼き加減で焼いて差し上げますので♪ ステーキにローストビーフ、何もかもつくりたい放題です♪」
永戸達がいたら「こんなに楽しそうなフィーネを見るの久々かも」と言っていたであろう、今のフィーネは楽しそうに肉を焼いていた。どこかの悪魔と酒の飲み比べをするゲームみたいにノリノリで焼いていくフィアネリス。なんならウィスキーまで開けて一人コークハイにして飲んでいた。
「あっずるい俺も飲む」
「私も」
クレスもコークハイを飲む中、南雲はウィスキーをそのまま、煉禍とフローレアとメルトはコーラを飲んだ。
「いやぁしかし休暇がこうも続くと刺激が欲しくなりますねぇ」
「やめろそれはフラグになる」
「確かに、私達は死神部隊、何かやることがないと面白みがない」
「南雲まで…勘弁してくれよ、お気楽気ままな四課が俺たち第二支部組のいいとこだろ?」
フィアネリスと南雲が退屈な日々を感じ、やれやれとクレスが言う中、バーベキューは続く。そして満遍なく肉が焼き上がると、フィアネリスは肉を一度取り出した。
「食べ頃でありまするか⁉︎」
「いえ、今はあくまで表面が焼けただけです、レアでも構わないならいただいてもよろしいですが腹痛を起こしたくなければ、今から裏技で中までじっくり焼きますので、見ていてください」
「ほう? 裏技とは?」
フローレアが興味津々に聞く。するとフィアネリスは肉をホイルで包み、バーベキューコンロの上に乗せては蓋を閉じ、時間操作魔法を使う。それを見るとメルトは驚いた。
「時間操作魔法⁉︎ 最高位のレベル10の魔法じゃないですか⁉︎ 一体どこでそれを習得したのですか⁉︎」
「おや、博識ですねメルトさん、勤勉で結構です。この魔法に関しては、天界でアカデミーを卒業してから暇な時に覚えてました。私は時間と魔力だけは有り余っていたので、こんな風に"面白い"魔法を覚えたい放題だったのですよ、まぁ戦闘の用途に使うには、チート持ちとは違って詠唱もかかりますし、不便ですので使うことはないのですがね」
「でも時間操作魔法なんてそうそう覚えてる方はいませんよ…? ひょっとして天使ってそんな魔法を覚えてる方が多いのですか?」
「えぇ、神々に仕える者ですので、仕事で割と使う方はいますよ、これ参考文書です」
そうしてフィアネリスが本を渡すとメルトが目をキラキラさせながら本を読み出した。気になったフローレアも隣で覗き見するが、天界の言葉で描かれてるせいか、二人とも首を傾げるだけで終わったのだった。
そうして肉が高速で焼き上がると、今度こそフィアネリスはそれを取り出し、ホイルを取ると包丁で肉を切る。断面を見るとじっくり焼けており、食べても問題なさそうだった。
「完璧な調整です、それではいただきましょう♪」
「はい!」
焼き上がった肉を皿に乗せると、何度目かもわからないバーベキューの味を、全員は楽しむのだった。




