病院にて
ピーーーーー
心音の検査機がずっと心音がないと言う中、永戸と神癒奈はベッドに縛り付けられていた。
「なんで心音が聞こえないのにわざわざつけるのかな…うるさくて寝れん」
永戸は検査機を外したかったが、外したら看護師と医者に怒られるので我慢した。他に、体を動かそうとするも、片手がよりにもよって白銀製の手錠でベッドに繋げられ、ロックされていた。コレではトイレにも行けないし食事も取りづらい、と言うか取れない。食事の代わりに点滴を打ち込まれていて、永戸は差し入れのお菓子にさえ、手を出すことができなかった。因みに、隣のベッドの神癒奈は行儀よく生活していたのか、手錠がなく、丸くなって大人しくしていた。
「我慢してくださいよ、検査入院なんですから、すぐに終わりますよ」
「検査ったって俺身長と体重くらいしかわかんないぞ、それ以外が零でぽっかりなくなってるんだから」
永戸の体は零の力を得て以来、身体は虚ろなものとなり、検査を受けても何もわからない身体になっていた。今もこうして検査入院を続けているが、どれだけ検査をしてもなんの情報も得られず、医者達を困らせていたのだった。
「それでもお医者さんがうんうん唸りながら貴方を診てくれてるんですから、我慢です」
「肉体の損傷だってそこまでなくなってるのに、なんでわざわざ俺を入院させたんだ?」
永戸は寝返りが打てない事にもどかしく感じながら寝る。一方神癒奈の方は心音などはきっちり取れていた。医者曰く神癒奈の方は元気で、体の異変も何事も無く過ごせてるらしい。一時期はなり損ないになりかけたが、永戸がピンチを救ったことによって、事なきを得たようだ。
「病院食って本当に美味しくないんですね」
「メシマズ嫁の料理よりはマシらしいけどな」
「私の飯が食えないと?」
「お前のことじゃないよ、お前の作る料理はいつも美味い」
あの某フライトシューティングのPVのMADを連想しながらも永戸はそう言い、褒められて神癒奈は尻尾を嬉しく揺らす。こんな時でもカップルでいちゃいちゃするが、そんな事をしてると看護師が永戸の所へやってきた。
「陽宮永戸さん、血液検査の時間です」
「やだ! どうせ分からないし注射怖い!」
「急に駄々をこねはじめましたね…」
ダメですよーと言われる中、永戸は採血用の注射器を見てはもがく。だが健闘虚しく抑え込まれると、永戸は看護師からぶすりと注射を刺された。
アーッと血が抜かれていく永戸を見て、神癒奈はジト目でそれを眺める。これが世界を救った英雄の姿なのかと。血が採られた後、ぐったりした永戸は看護師に言う。
「なぁもういいだろ? 俺を検査しても何も出ないって」
「そんなことはありません、都市の医療を甘く見ないでください、いつか必ず、貴方の身体検査を完璧にこなせる技術が確立されますから!」
「俺が死ぬまでに完成するといいな」
自信満々に言う看護師に対し、皮肉げに永戸は言う。看護師は次に神癒奈に近寄っては注射器を出した。
「神癒奈さんも注射を受けてくださいねー」
「はーい」
こっちは大人しく注射を受ける。だが気になるのか、針の先端をじっと見ては刺された時に「痛っ」と軽く言った。
「うへへ…英雄達の血……検査のしがいがある」
「こいつ絶対なんかのフェチ抱えてるだろ! 担当看護師変えてくれ!」
永戸が悲鳴を上げながらも看護師に抗議した、だが看護師は喜びながらまた採りに来ますと言っては軽い足取りで去っていった。
「行っちゃった……私たちの血を見てはすごい恍惚とした表情をしてましたね」
「なぁ、検査入院を終えたら体に悪いものでも食べに行こう? バーガークイーンとか、三郎ラーメンとか」
「新手の死亡フラグを立てないでくださいよ、病院が襲撃されて二人ともお陀仏なんてケースもワンチャンあるんですから」
「だが行きたいだろう?」
「それは…まぁそうですけど」
そう言うと二人で大人しくベッドで寝転がる。小鳥が外でさえ付く中、二人は静かな時間を過ごす。すると永戸がこう話し始めた。
「なぁ……俺達ってさ、生きてるんだよな?」
「何を今更、生きてるに決まってるじゃないですか…どうしてそんな事を?」
「時々思うんだ、俺たちは何かの物語の上に描かれた登場人物のような存在なんじゃないかって」
「それは……うーん、言われてみればそうですね、これまでの出来事を振り返ると、結構ドラマチックかつ派手に戦ってきましたよね、なんかフィアネリスさんもたまにそんなこと言いますし」
「だろう? なんだか不思議に思えるんだ、普通じゃない状況を乗り越えてきて、絶対勝てないような敵を倒してきて、不思議に思えるんだ」
永戸は天井に手を上げて、自身の感覚を確かめながら言う。
「ただ、これが誰かが描いた空想であったとしても、だれかが選んだ舞台であったとしても、それでも、俺達が作っていく物語なんだって、そう思う」
「そんな歌詞の歌、ありましたよね」
英雄を語った時のことを思い返すように二人は言う。
「これからいく先が地獄の底であろうと、俺達がやる事は決まってる。最後まで抗う事だ」
「そうですね、私も、できる事なら最後の最後まで生きる努力はしたいです……ところで永戸さん」
「ん?」
「この前絶望になった時、後は頼むって言ったじゃないですか、あれの意味って、"後はお前に託した"って意味ですよね? 私を残して死んでいくと言う意味で言ってませんよね?」
それを言われると永戸はため息をつき、答えた。
「悪い、本当は弱気になっていた、お前を逃す事だけ考えて、考えが後ろ向きになってた」
「…だと思いましたよ、いつもの永戸さんらしくない、自己犠牲の極まりみたいな発言だと思いました」
「ごめんな、けどまさか、あんな手段を取るとは思わなかった、わざわざ自ら侵食を受けてまで助けにいくだなんて」
「それしか手段はなかったんです、仕方ないじゃないですか」
もうっと神癒奈はぷんすこ怒る。
「今度あんな方法を取ろうとしたら、私と夜の大運動会3DAYコースですからね」
「どこで覚えたそんな言葉」
神癒奈に殺される…と恐怖しながらも永戸は言う。だが永戸だってこんな手段は取りたくなかった。事件の裏で蠢くフォーチュンの掌の上で踊らされる形で、こんな博打を打つのは永戸としてもごめんだ。
「分かってるさ、俺も、無理な行動は自重するよ」
「本当にお願いしますよ? 私だって堪忍袋の尾が切れる事はありますからね」
「お前って時々割と古い言葉使うよな」
「狐ですので」
そんな風にいちゃいちゃをしつつも、二人はゆったりとした時間を過ごすのだった…。




