絶望の残滓
永戸と小さくなった神癒奈が、絶望の狐に挑み掛かる。
此方は零も神格も使えない。だが向こうは全力で戦える状態だ。戦闘能力で言えば相手の方が大きく上回る。
だがそれでも、永戸達は絶望に挑んだ。ここで負ければ、二人の運命どころか世界の運命さえ危ぶまれるのだから。
「来ますよ!」
狐は永戸に噛みつこうとするが瞬間的な魔力ブーストでそれを回避、返しにガンブレードで切り裂く。絶望と呼ばれた存在なだけあって、戦う覚悟があれば、切り裂くことはできた。しかし、巨大なだけあって、血が溢れても軽症で済まされる。
「ダメージ入ってるんですかこれ⁉︎」
「血が出るなら殺せる!」
永戸は白魔を抜くと、すれ違いざまに切る。
白銀の効果で絶望は体から瘴気が浄化されていくが、それでも巨大な体を保ち、爪で引き裂こうとする。
「危ないっ!」
魔力ブーストで緊急回避を行うと、永戸は背後に回り込み、絶望の後ろ足を切り裂いた。すると絶望は痛みで苦しみ、ジタバタと暴れた。
「くそっ! 純粋にタチの悪い強さだ!」
永戸はガンブレードで飛び上がり、白魔で暴れ回る絶望の腹部を切り裂く。すると、徐々にだが、絶望の本体から、永戸達本来の体が溢れ出してきていた。
「いける! このままなら!」
神癒奈は的確にダメージが入っていく絶望に対し、勝てる見込みを感じる。が再び絶望がタールを撒き散らすと、今度は使い魔が津波のように襲いかかってきた。
「ガードです!」
「あぁ!」
押し寄せる波に永戸と神癒奈は魔力バリアを展開し、打たれることで防ぐ。なんとか攻撃は凌げたが、続いて絶望は前足を永戸に向けて振り下ろしてきた。
「っ!」
永戸は即座にガードの体勢を取る。だが、前足が振り下ろされた途端すぐにバリアが粉々に砕け散り、永戸は剣で受け止める事になる。
「くっおおおおお!」
「させません!」
永戸が潰されそうになる中、神癒奈が反対から斬り込み、絶望の足を切り裂き、よろめかせる。これで攻撃がそれ、永戸は事なきを得た。
「助かった!」
「礼には及びません! 次きますよ!」
絶望が黒いタールのようなものを出し、そこから使い魔を出しては永戸達に襲いかかる。
「こんな雑魚程度!」
永戸と神癒奈は剣と刀を振るい、使い魔を切り裂く。そしてそのまま、神癒奈は術を唱えた。
「まだまだ! 『狐火!』」
狐型の焔が飛び出すと、絶望を焼く。だが、燃やされたダメージで絶望が暴れ出した。
「動きが良くなってるぞ!」
「熱くてのたうち回っているだけです!」
神癒奈が次の攻撃にと暴れ回る絶望に向けて、上から刀で刺す。ドスリと突き刺さると絶望は痛みで苦しんだ。
「暴れるな…!」
「大人しくしてろよ!」
今度は永戸がワイヤーを射出すると、ブーストで飛んでいき、背中を数回転して切り刻んだ。だが、直後再び絶望が暴れ出すと、永戸と神癒奈は吹き飛ばされる。
「あぁっ!」
「神癒奈!」
慌てて神癒奈をキャッチすると、永戸は反撃にガンブレードから砲弾を撃つ。白銀製の砲弾が突き刺さり、絶望から瘴気がまた抜けた。瘴気が抜けるとともに、徐々に体が小さくなっていく絶望、だが、それでも残滓なだけあって抵抗は辞めず、永戸達に噛みついた。
「っ!」
噛みつかれたのを永戸は避けるが口から溢れてきた残滓の体液が体に降りかかると、片腕が溶け落ちた。それにより、白魔を落とし、片腕だけになってしまう。
「これ以上の絶望に、体が持たない⁉︎」
永戸は片腕だけとなった体で絶望の体液を避けるも、降り注ぐのを避けきれず体にあたっては蝕まれてしまう。
「永戸さん!」
「来るな! 来るとお前もこうなるぞ!」
思わず神癒奈は叫ぶが、溶け落ちていく身体に、永戸は血反吐を吐きながら、血を溢れさせる。しかし、それでもと立ち上がり、彼は前衛に立ち、ガンブレードを構える。
「まだだぞ化け物が、まだ俺は生きている、来るなら来い」
永戸は絶望に向けて剣をかざす。絶望は永戸に対して吠えるが、永戸はそれに対してガンブレードの砲撃で帰した。弾が切れればガンブレードを捨てると、落ちていた白魔を手に取り、絶望に対して切り裂こうとする。だが、絶望は爪で彼を引き裂くと、壁に叩きつけた。
「けほっ!」
「永戸さんもう無理はやめてください!」
「できるか! ここが正念場なんだ!」
永戸に対して黒い狐火が絶望から放たれる。だがそれを、神癒奈が前に立って魔力バリアで塞いだ。だが、同時に酷い苦痛を味わう事になる。
「うぅうううううっ!」
ジュウゥと音を鳴らしながら彼女の手が焼けるように痛み、絶望の力に飲み込まれる。このままだと、永戸と神癒奈は絶望に負ける事になる。その時だった。
【業火!】
絶望に焔の槍が突き刺さる。一体誰がこの攻撃をお二人は思ったが、思わぬところから助けが来た。
【今この瞬間だけ、貴方達を守る力となりましょう】
「お母さん!」
八尾乃が他の狐達を連れて、神癒奈達を助けに来てくれた。だがそれだけじゃない。
【総員! 突撃! 英雄殺しの盾となれ!】
「404の…皆まで」
永戸の仲間達も絶望に突撃しては攻撃を入れた。あちこちから攻撃を受け、絶望は悶え苦しむ。
【まさか禁忌の狐達と共闘できるなんてな!】
【私達も、同じ志を持つ者ですから。今はあの二人を守る、そうでしょう?】
【だな! 立てよ英雄、まだここで、終わりじゃないだろう?】
【想いを形にするのよ! そうすれば、貴方達の力が呼び覚まされる!】
大切な死していった仲間達に言われ、二人は互いに支え合いながら立ち上がる。そして、二人が頷き、互いに手を重ね合わせると、どこから現れたのか、聖剣イクセリオスが目の前に現れた。
【かざせ! お前達が信じた正義を!】
【行きなさい! 貴方達ならばどのような困難も打ち砕ける!】
二陣営からの攻撃により、動きを止めた絶望。二人は剣を構えると、真っ白な焔と光が溢れ出した。
『光を放て! イクセリオス!』
そして、聖剣からビームの刃が形成されると、二人は一直線に突撃した。
『これでとどめだぁあああああ!』
絶望の体を頭部から切り裂き、彼らの本体がしまわれた腹部ごと切り裂き、断ち切ると。絶望から瘴気が溢れ出し、聖剣の光で浄化され、絶望は倒れた。同時に、絶望から二人の体が溢れ落ちてくる。
二人はそれに近づくと、体を取り戻そうとする。だがその時、二人は振り返った。そこには、光とともに次々と消えていく仲間達がいた。
【私たちの役目はここまで……また、貴方達の旅路を眺めさせてもらうわ】
【俺達がいなくても、お前ら二人ならきっとこれからも大丈夫だ、だから、行けよ、死人ができるのはこれくらいだ】
「…あぁ、ありがとうな」
「後は、私たちに任せてください」
二人は手を挙げて死人と別れを告げるとそれぞれ自分の体に触れる、次の瞬間、吸い込まれるような感覚と共に、二人の意識はまたフェードアウトした。




