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ヒトとキツネの異世界黙示録Ⅱ  作者: 遊戯九尾
第十四章 初めての異世界管理
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狂い始めた平和

 それからも神癒奈は異世界エアレリアをじっくりと観察を続けたのだった。

 平和な世界は存在し続け、とうとう二千年代まできた。


「ここで一つ、読者の方々に解説しておきますと、私達異世界人は、神様ごとに別々の異世界が与えられて管理している為、各異世界ごとに基本的に違う時間の流れで暮らします。例えばAの異世界と都市の異世界があったとして、それぞれを転移で行き来したとして、都市とAとで時間の流れに差が生じます。神癒奈さんに用意された世界の場合、彼女が管理している為、彼女に合わせた時間の流れになっております」


 唐突にフィアネリスの解説が入るが、話を戻すと、神癒奈が管理する世界は二千年の時を流れた。すると、ここで一つ歴史に変化が起き始めた。


「あれ?」


 ぽつりと、星儀に赤い点が一つできたのだ。そこを見てみると小さな出来事だが、殺人が起きたことが記される。とうとう自分の世界でも殺人が…と神癒奈が惜しんだその時だった、そこから赤い点が一気にぶわぁあああっと広がった。


「何…何⁉︎」


 神癒奈もこれには驚き、どんどん広がる犯罪や争いにどうしたらいいかわからなくなる。

 その時、ジュリアスから思念で連絡が来た。


『これは、いったい何が起きてるんだ⁉︎ 神の世界の治安が一気に悪化してるじゃないか⁉︎ 神癒奈、一体君は何に触れたんだい⁉︎』

「分かりません! ですけど! 急にこんな感じになっていて……」

『調べる必要があるな、すぐに私と共にそこへ飛べるか?』

「はい!」

『事件が起きる少し前まで時間を遡るぞ、いいね!』


 そうして神癒奈はジュリアスに連れられ、異世界に急に転移したのだった。


 ーーー


「…来たか」


 神癒奈が気がつくと、そこは辺境の街だった。なーロッパの時代が過ぎ、時代は地球と同じ現代といったところか、ごく普通の街並みが広がる。神癒奈はEフォンの時間を見てから事件が起きる数分前と知ると、ジュリアスと共に景色を見る。


「時間だ」


 ジュリアスがそう言うと、街中にふらふら歩く男が現れた。神癒奈はその人の経歴を調べるが、この世界の者ではない、異世界の転生者だと知る。そして神癒奈はその者の経歴を見て驚いた。その者はなんと犯罪歴がある事に。


「あんな人、転生させてません! 一体どこから…!」

「しっ……見てるんだ」


 ジュリアスが神癒奈を隠すと、流れ着いた転生者がふらふらと道行く女性に歩み寄るのを見た


「どうしたの? 随分と顔色が悪いようだけど?」

「ぁ? けひひ…新鮮ナ女だ……」


 すると突然、その者は女性を切り裂いた。首が飛び、血飛沫が舞い上がると、人々は悲鳴を上げる。


「なんだ⁉︎ 何が起こった!」

「あそこの人が、女の人を切って⁉︎ こんなことあり得ない!」

「人が死んだ……人って、こうも簡単に死ぬものなのか?」


 死生観が穏やかだった神癒奈の管理した人類だ、この出来事には耐えきれず、一気に騒がしくなった。


「なァ…みんなも殺人やろうぜ……楽しイぞ……人を殺すってノはよぉ…」

「殺人…それって楽しいことなのか?」

「あぁ、誰にも止められない、一度ハマったら病みつきにナる事サ、さぁやろウぜ…」

「興味が湧いたかもしれない」


 そうして道を歩いていた人たちは、次々と武器を手に取ると、連鎖するように殺人を始めた。


「だめっ!」


 神癒奈が声をかけても止まらず、人が次々と殺されていき、同時に、殺人の快楽に染まった人がそのまた快楽に染まる人を呼び、どんどん加速度的に次々と殺人犯と犠牲者が増え続けた。


「銃で撃つと人の頭って弾けるんだ! 気持ちいい!」

「剣で切った時の感触もたまらないぞ! 血飛沫が飛び散るの、最高!」

「そんな……」


 自分の管理する世界の人々が傷つくのを知ると、神癒奈は言葉を失った。


「これも創世の女神様の加護のもとの出来事だ! 人が死ぬ事は素晴らしい!」


 挙句には自決する者まで現れる始末だ、自分の加護を受けながらの出来事だと言う人まで見ると、神癒奈にはもう、何も止める事はできなかった。


「他のところも、どうやらこのような出来事が次々と起きているようだ」

「どうしてっ! 何故! 二千年も続いた平和が破られたのですか!」


 神癒奈は本気で悲しんだ。自分が慈しもうとした世界が、こうも容易く崩れ去った事に。


「神癒奈…残念だけど、この世界はもうダメだ。君が人を殺す事に対しての罪を教えなかった責任はある、だがそれ以上に、この世界の理は歪んでしまった」

「まだです! まだ一人でも! 救える人はいるはず! 誰か、誰かが…!」


 すると神癒奈の目の前に、人殺しから逃げてきたのか、かなりの速度で走ってきた車が壁に激突して止まった。


「大丈夫ですか⁉︎」


 神癒奈が慌てて声をかけてはドアを開けようとする。前の席の親は潰れて死んでいたが、後部座席の子供はまだ息があった、だが、腹部に重傷を負っていて、予断を許さない状況になっていた。


「助けなきゃ……早くしないと…!」

「ダメだ! その子はもう助からない!」

「いいえ! 助かります! まだ!」

「もう、無理なんだ…だってその子は…」

「えっ…あっ…あぁ……!!」


 神癒奈が助けようとした子供を見るが、既に遅く、早い時間の流れで既に生き絶えていた。それどころか、ドアに触れることすらできなかった。


「私達は今、過去を遡って見ている。つまり、その子が助かる運命は、元から無かったんだ」

「そんな、じゃあ私は、これから死んでいく人々を、誰も救えないと言うことですか…」

「残念ながら、そうなる…これは受け入れるしか…ないんだ」


 その言葉に神癒奈は深く絶望する。その時だった、神癒奈の神格が揺らいだのは。


「かはっ⁉︎」


 突然、神癒奈の神格が、英雄という器の形が、禁忌の方へ傾く。絶望した神癒奈の心が、世界に溶け落ちた"絶望"の残滓と絡まり、なり損ないへと変化しつつあったからだ。


「不味い⁉︎ 神癒奈! 戻ってくるんだ! 君は、そんなところにいてはいけない!」

「私は……私…は……」


【さぁ、キミもこちら側に来るんだ、僕の側へと】


 いつか聞いた、深く暗い絶望の声が聞こえる。神癒奈の体がどんどん黒く染まり、禁忌へと堕ちていくのが目に見えてわかる。


「くそっ声が届いてない! なんとか…なんとかできないのか!」


 神癒奈が絶望に飲み込まれそうになったその時だった。

 彼女の手を、優しく取る人がいた。


「…えっ?」

「大丈夫だ、俺が……そばにいるから」


 そこに立っていたのは永戸で、次の瞬間、神癒奈の中の絶望が、一瞬にして浄化され、彼女は気を失ったのだった。

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