世界は私の箱庭'
「うーん…」
世界の管轄を任されてから、神癒奈は時折星儀を見ては悩むようになった。
仕事の合間や家に帰った後などに見ているが、神癒奈が見るに、世界そのものは変化はなく、幾つか天災を起こしては復興を繰り返し、技術は少しずつ発展していった。これと言って不満となる事は起きてないのだが、これでいいんだろうかと神癒奈は思う。
今も風呂を出た直後、パジャマ姿でキッチンで眺めていたが何も起きてないことが心配だった。
そう、この世界、作り始めてから、一度も人間同士の争いが起きてないのである。善悪の判別がついているのか、人同士で争うことが起きてない。
それが不思議だった…普通どこかの土地の人がどこかの土地へと侵略は必ず一度は起きるはずだ。
千年ほど様子見をしたが、人間が争うどころか、むしろ結託して、徐々に暮らしを発展させていって、理想郷がいずれ生まれるようになった。
時代は中世、世界観的に言えば俗に言う"なーロッパ"時代だが、魔物との戦いはあれど、強大な存在との戦いや国同士の争いはなく、皆穏やかに過ごしていた。
「ちょっと上手くいきすぎてないかな…争いがないだなんて」
神癒奈も流石にこれには不安になった。普通なら争い事が一つや二つ起きてもおかしくないはず、試しにジュリアスと連絡を取ってみてもそんな世界も時にはあると言われた。
「どうかなされましたか? 神癒奈さん」
すると、フィアネリスが現れ、神癒奈に「進捗如何ですか?」と聞いてきた。神癒奈は事情をフィアネリスに説明した。
「なるほど、千年もの間、争いごとが何もなく世界は進んでいった…確かにそれは心配にはなりますね、こと争い事に詳しい我々四課から見れば」
「そうでしょう? 私も気になって仕方がないんですよ」
確かに、一国がしばらくの間平和な時期が続くことはある。だが、それが全ての国々で千年だ。千年間もどの国でも何も起きずに人々が暮らしているのだ。流石に不安になってくる。
「ふーむ、明日は休みですし、折角ですので調査に向かわれてはいかがでしょうか?」
そう言うとフィアネリスはにぱーっとした表情で神癒奈に聞いた。神癒奈もそうしようかなと考えると、明日の予定を確認する。明日はちょうど何もない日であった。
そう言うことで神癒奈は事実の解明をすべく、明日、その世界に行くことを決意するのだった…。
ーーー
「なぁ、本当に俺までついてきてよかったのか? しかもフィーネならともかく渚や玉藻まで連れて」
「そうだよ、ボク部屋でゲームしたかったのに、なんで呼び出したのさ」
「いいんです、こういうのには、争い事や国事に詳しい人がいた方がいいですから」
『それ、褒め言葉になってないよ』
二人から同時にツッコミを入れられ、神癒奈はえへへと誤魔化す。だが着眼点自体は間違ってない、永戸と渚は異世界大戦という大きな戦いをそれぞれ別の視点で見ている者で、玉藻前は国事に詳しい、呼ぶにはうってつけだ。
「それで、来たのがこの世界か」
「はい、異世界エアレリア、私が管理を任されている異世界です」
異世界には、気がつくと名前がついていた。どうやら異世界の名前はその土地の人がつけているようで、名前がいつのまにかエアレリアとつけられていた。
「ふむ…で、あの先に見えるのがこの世界最大規模の国かえ?」
「そうです、名前が確か…ユニエル共和国、世界最大に発展した国ですね」
玉藻前の言葉に、フィアネリスが作ったサンドイッチを入れたピクニック用のバスケットを持ちながら、星儀で地図を見る神癒奈。
「というかなんでピクニック気分で来たんだ?」
「せっかくの家族が揃う時間ですから、気分転換も兼ねていきたいなと思いまして」
「公私混同してるぞ」
永戸から再びツッコマれ、神癒奈も返す言葉がなくなる。こんな調子だと本気でピクニックになりそうだと永戸は思うが、神癒奈はそれも気にせず早速と言った。
「では、調査に向かいましょうか!」
「お昼どこで食べるんだろ? お昼のサンドイッチが楽しみだなぁ」
「ハンバーガーじゃないのか?」
「どっちもボクの好物だ」
「んなこた聞いちゃいねぇ」
と、どこかの超本格フライトシューティングみたいなやりとりをしつつ、一行は街の中へと入っていった。
街に入ると神癒奈たちは驚いた。
人々が幸せそうな暮らしを本気でしていたのだ。価値観、倫理観の違いはあれど、まるで些末な問題のように人々が暮らしていた。魔物討伐用の武器があるにも関わらずだ、争い事どころか事件が一つも起きていない。
「嘘だろ…あり得ない、こんな理想郷があるのか」
「うむ…妾も驚いておる、このような平和な国が作れるとは」
永戸も玉藻前もその理想郷のあり具合に言葉をなくす。
彼らは幾度となく世界や国を見てきた者達だ。そんな者達が理想郷と定めるとなると、もう何も言う事はない。
「ちょっと、道行く人々に聞いてみましょうよ」
そうして彼女達は道行く人に話を聞いてみる。
「争い? なんだよそれ、この国どころか他国ですらその戦争ってのは起きてないぞ」
「まぁ、そんな物騒な話があるのね、でもこの世界は安全よ、創世の女神様が見ていてくれているもの、皆真摯に生きているわ」
「争いなど起きるものか、この世界は皆が手を取り合って生きている。これも、女神様のご加護があってのものじゃな」
話を聞くに、どうやら神癒奈は創世の女神としてどの国でも崇められていて、その庇護の下で暮らしているからこそ、彼らは争いなく暮らせてると言うらしい。神癒奈の博愛精神が活きているのか、世界は見事平和を保ったまま人々は暮らせているということだ。
「不思議な話だよね、こんなに平和すぎると」
「はい、驚きました。これで正解だったなんて」
「かと言って平和すぎるのも不思議だけどな」
神癒奈一行は本当にピクニック感覚で街の中にある庭園で食事を取る。フィアネリス曰く「この"お話"でここまで平和な世界は初めて見ました」と言わせるほどだ、一行は事件も何もなく庭園でサンドイッチを食べる。
「このBLTサンド美味しいね」
「お褒めに預かり光栄です♪」
「そんな言葉が出るくらい、この世界って平和なんだな、都市の暮らしが遠く思えてくるよ」
フィアネリスが作ったBLTサンドやフルーツサンドなどを食べながらのどかな時間を過ごす。穏やかな風と綺麗な景色を堪能しつつ、仕事できたつもりが休暇の気分で満喫する。
「……こんな理想郷が、続けばいいなって思います」
「そうだな……それが、一番だと思うよ」
呆れるほどの平和さに、神癒奈も、永戸も、二人ともこうした時間を愛おしく感じたのだった…。




