レベル1の勇者
「俺の邪魔をする奴は、誰であろうと容赦はしない」
そう言った彼は、周囲に女性を侍らせながらギルドの中に入る。
「ノルド様…本当に良かったんですか? 入り口の人を倒してまで入って」
ノルドの取り巻きか、可愛らしい女の子がノルドに聞く。
「所詮レベルなんて指標に過ぎない、そう教えてやっただけだよ、彼は一つ学びを得た」
「なるほど! さすがノルド様! 民に優しい勇者様ですね!」
当たり前に肯定するように女の子はノルドを褒めちぎる。それをみた永戸は確信した。
(間違いない、こいつだ)
永戸はそう思いながら、ノルドと名乗られる男と向き合う。永戸は、彼から尋常ならざる気を感じた。神癒奈も感じたであろうそれは、その場のもの達に威圧感を与えた。
「ここのギルドに来たのはいいが、どの依頼がいいだろうか…」
永戸の隣をノルドが通る。幸いにも永戸は肉体は強化されていてもあくまで普通の人間だ、こちらの実力には気づかれず、ただのレベル100の戦士だと認識されただろう。ノルドは無視してギルドの依頼を見ていく。
しかし、ふと、メルトがいたことに気がつくと、ノルドはメルトの方に振り向いた。
「…いけないな、勝手に人の心を覗き見するだなんて」
「ひっ!」
なんとメルトが陰で行っていた。精神看破がバレていた。そんなことまでわかるのかと永戸が思う中、ノルドがメルトに近寄ろうとすると、フローレアが立ち塞がる。
「……どけよ、雑魚が」
「どきませぬ、決して」
フローレアは恐れずに、メルトを守ろうとする。
「そうか、なら、痛い目に遭うまでだ!」
「待って!」
ノルドがフローレアを傷つけようとした時、メルトが叫んだ。ノルドはそこで動きを止める。
「……入口が騒がしかったから、なんだろうと思って心を覗いただけで、決して悪気があったわけじゃないの、だから、許して……」
震えながら、メルトはノルドに許しをこう。するとノルドはため息をつきながらこう言った。
「やれやれだ、レベル100の強者の巣窟かと思えば、こんな弱々しい存在がいるとは、呆れて笑えて来るよ」
じゃああんたはなんなんだと永戸は思うも、話は進む。
「メルト殿を笑うのなら、私が許しませぬ!」
「いいのフローレア! それ以上は!」
メルトも絶対的な力の差を悟っていたのか、ノルドに反抗しない。するとノルドは、侍らせてる女性を連れて、依頼者を取ると、受付をしてメルトの目の前を通った。その時彼は言った。
「もし怪しい動きをしたら、次はタダじゃ済まさない、覚えておくんだな。いくぞ、リノ」
「ノルド様はお優しいですね! 行きましょう!」
そうしてノルドが去っていくと、ギルドの空気は落ち着く。メルトとフローレアと緊張が解けたのか、ふぅっと肩を落とした、
「し、死ぬかと思ったぁ…」
「ご安心を、私がお守りいたしますゆえ
「それでも、フローレアが傷つくのはやだよ…」
「二人とも無事で良かった」
永戸が二人に駆け寄る。二人はホッとするも、そういえばと永戸はメルトに聞いた。
「精神看破を使ったそうじゃないか、いったい何が見えた?」
そう聞くと、メルトは震えながら答えた。
「狂ってる……心の内側がまるでぐちゃぐちゃで、真っ当な人間性を感じなかった…」
「真っ当な人間性を感じない?」
「うん……まるで壊れた心……普通の精神じゃなかった」
「そうか、聞けただけで良かった、無理はせず今日は休むんだ、奴に目をつけられた以上…下手に出すわけにはいかない」
「わかりました…」
そうして宿の方へ行こうとするが、メルトは最後に一つ、永戸に言おうとした。
「一つだけ言わせて、あの人の心、確かにぐちゃぐちゃだったけど、一つだけわかったことがあるの」
「なんだ?」
「ステータスが…化け物みたいに高かった、たくさんの魔法が使えて、レベル1とは思えないくらい強かった」
「…わかった、ありがとう」
そうしてメルトとフローレアはここで一時退場する。永戸は次にどうするかを考える。
「直接見に行くのは危なそうだな…街の人から情報を集めた方が良さそうだ」
そう言うわけで永戸達はギルドから出て、街の人から聞くことにした。
ーーー
街の中は活気で溢れていた、今回は世界の危機などは関係ないため、勇者一人が騒いでると聞いても彼らはいつものように営みをするだろう。そんな中、街の人に聞いていく。
「ノルド? やめておけ、あいつは最弱の烙印を押された勇者だ」
「最弱?」
「あぁ、レベルが1でちっとも強くならない、最弱の勇者だ」
その話を聞くと、メルトの言っていた話に齟齬が出るとなると、その能力を得たのは後天的なものだとわかる。続いて話を聞いていく。
「ノルドかい? あいつは勇者とは言うけど、実際はなんでもやる万屋だよ。いつもリノって女の子と一緒だけど、他の女とも一緒らしい、羨ましいよなぁ、レベル1の癖して」
「その女とかに変わった特徴とかは? こう、黒いモヤとか出たとか」
「いや、ないな、そんな話聞いたことがない」
ノルドはどうやらいろんな女性を侍らせては万屋をしているようだ。だが魔想体の一因となる黒い影などがないとなると、ノルドはどうやら本物の女性達と過ごしているらしい。
「ノルドのお兄ちゃんはすごいんだよ! 僕達のためにおもちゃを作ってくれたり、知らないお菓子を作ってくれたり、いろいろ楽しいことをしてくれてるんだ!」
「優しい兄さんなのかい?」
「うん、でも、時々少しだけ怖くなるの、僕達を虐めようとする人がいると」
「そうか、ありがとうな」
子供とも話をした。ノルドの評価は様々だった。助けてもらってると言う人もいれば、関わらない方がいいと言う人もいる。これ以上聞いて回ると逆に怪しまれる、そう思った永戸たちは聞き込みをやめ、一度宿で状況を整理することとした。
宿に戻ると、すでに部屋は取られていて、永戸達は皆で一室に集まって話をする。
「ノルドは後天的能力者で、皆からの評価もまちまち、それでいて万屋を営んでる…」
「少なくとも、後天的能力者なら零や白銀が効く。俺達にも対抗できなくはないってことだ」
「でも、永戸隊長、相手はチート能力者、そう簡単に倒せますかね?」
「簡単じゃないのは百も承知、だがやらないといずれ誰かに被害が出る。神癒奈の力で能力を摘出、あるいはその場で抹殺を…」
永戸が抹殺と言いかけた時、フィアネリスはドアを開けた。すると誰かがドタドタと宿屋の階段を駆け降りていくのが目に見えた。
「……してやられましたね、つけられてました、恐らくこの話はノルドに伝わるでしょう」
「計画に変更はない、ノルドを止める、それが俺たちの役目だからな、時間ができれば、ノルドと俺たちが接触しよう」
やることが決まり、永戸達は、メルトとフローレアをバックに下がらせ、神癒奈、フィアネリス、煉禍と共に、ノルドと接触することを決めたのだった。




