力の徴収
今日も四課は平和だ、特に何も起きることがなく、世界の危機とかそういう事態に陥っていない、そう思っていた時だった。
「新しい依頼が発行されたよ」
ケイが依頼の紙を持って来る。永戸達はそれを順繰りで回して読んでいった。
「チート能力者からの能力の徴収?」
「ふむ、また難儀な依頼が来たね」
ユリウスがじっと依頼書を見ては考え込む。
「排除ではなく徴収なんですね?」
「恐らく上は、こちらに神癒奈という神がいるというカードを切るが為にこの依頼を出したんだろう」
「でもこれって私がいること前提の依頼じゃないですか」
「それだけ組織はお前を必要としてるんだろう」
永戸も回ってきた依頼書をじっと見ては考える。
「フィーネ、この世界の情報についてわかるか?」
「少しお待ちを、コーヒーでも飲みながらリラックスしていてください」
言われた通りリラックスしていると、フィアネリスが「これは…」と驚いた表情で転移していった。
「あいつ消えたぞ、職務放棄か?」
「フィアネリスさんに至ってそんなことはあり得ないでしょう、何かあったからどこかに行ったんですよ」
そう言ってると、フィアネリスが一冊の本を持って戻って来るのを見た。
「これを読んでください」
「なんだこれ、なろう系の英雄譚か?」
「そんなところです、ともかくお読みを…」
そうして永戸達は少しだけ読書をする。
内容はこうだ。勇者として召喚されたはずの男が、国に見捨てられ、他の勇者からも蔑まれる中、チート能力を開花させ、その後は女性を侍らせたり他の勇者と争ったりしていく…と言ったあらすじの本だ
「典型的ななろう系の本だな」
「なろう系?」
「神癒奈はネットで小説のサイトとか読まないタイプか?」
「はい、暇な時はフィアネリスさんの書斎の本だけで十分ですので」
「そうか」と永戸が言うとなろう系とは何か、簡単に説明した。
「以前、ざまぁ系とか言った奴と戦っただろ? あれもなろう系の一種で、そもそもなろう系と言うのは、誰でも小説家になれるネットサイトで書かれた小説のテンプレートな展開を指して言う言葉だ」
「例えば?」
「こう言ったチート無双系や悪役令嬢もの、以前あったざまぁ系にパーティー追放に転生物も意味する」
「因みに、"この小説もそう言ったサイトで作られてますよ"」
フィアネリスが何やら意味深な事を言った気がするが、永戸と神癒奈には分からなかった。だが、神癒奈は今の説明でなんとなく理解した。
「要するに、自分の都合のいい展開や好きなキャラクターを入れた、都合のいい話ばかりの作品、それがなろう系ってことですか?」
「まぁそういうことだ」
永戸の説明に神癒奈は納得すると、改めてこの依頼書を再び見る
「でも、能力の徴収って、そこまで悪いことに使っているんでしょうか?」
「悪いことには使ってはないでしょう、"恐らくは"」
「恐らくは? フィアネリスさんにしては曖昧な答えですね?」
「多分ですが、この能力の徴収は、桐枝さんの時と同じ、有り余る力で暴走した勇者を止めること、が目的だと思われます」
それを聞くと、神癒奈は桐枝と初めて出会った時を思い出す。
「確かあの時って、桐枝さんの学校の友達が能力によって暴走して、私たちが殺してまわりましたよね?」
「はい、それと同じことが起きようとしているのかと」
「だから能力の徴収……にしても変ですね? あの時は殺してまわったのに今回は徴収だなんて、やる事が軽くありませんか?」
「いえ、それはあくまで最終目的で、その為ならば殺害をもいとわない、前回と同じ例だと思います」
じゃあ結局はやることは同じかと神癒奈は思う。しかしやることは同じでもスケールはどうだろうと思った。こう言ったケースは過去に何度も経験済みだ。
だが、どのケースも同じだったわけじゃない。過去には自らが転生を担当したイレギュラーとされた勇者の抹殺なんかも行った。今回も同じような相手だろうかと神癒奈は考え込む。
「兎も角、目的の場所までいかなければわかりませんね」
「あぁ、調査をしないとな。メンバーは…」
ここで出撃するメンバーを決める出撃するメンバーは、直接戦闘に長けた煉禍に、強力な能力の行使ができるフローレア、精神状態の把握に長けたメルトと決まった。
「よし、行くか」
そうして永戸達は装備をして、出撃していくのだった。
ーーー
目的地に着いて、ごく普通の"ナーロッパ"の街並みに永戸達はなれたかのように街中に入る。
ここで、フィアネリスから説明が入った。
「物語では、さまざまな勇者が世界を救おうとしている中、勇者の中で一番弱い者がチート能力でなり上がる、そう言った話になってます」
「すっごくどうでもいいけどさ、いきなり異世界に召喚された勇者が、そう軽々と強くなって、はい世界を救ってくださいと言われてのるようなもんなの?」
「確かに、言われてみれば私も少し気になる話題ですね、メモをしておきましょうか」
フィアネリスが丁寧にメモをしていく中、周りを見ていく、以前の英雄の選定の時と同じ、街の中には勇者が溢れかえっていた、そんな景色を眺めていると、ある光景を見る。
「おい! お前は入れないぞ! ここはレベル100以上の勇者だけしか入らないギルドだ! 雑魚は引っ込んでろ!」
「くそう! 今に成り上がってやるからな!」
動画投稿サイトのクソ広告で見るような展開を見て、一同はぽかんとする。その静寂を引き裂くように、フローレアが言った。
「あのクソ広告、本当にあるのですな」
「俺も思ったよ、あるんだ、これ」
永戸達一行は呆れつつもギルドの中に入ろうとする、すると、入り口の者に止められた。
「ここはレベル100以上しか…」
「知ってる。なぁ通してくれないか?」
永戸が記憶処理装置をつかうと、入り口の男の意識は混濁する。
「あ、あぁ、そうだな…お前らなら通るのを許そう」
そうして通るのが許可され、永戸達は中に入る。それを見た煉禍は言った。
「いいんですか? こんなのに記憶処理装置を使って」
「物は使いよう、記憶処理は何も都合の悪い記憶を消すことだけに使えるだけじゃない、こうやって、捜査の邪魔になる者を排除するのにも使えるってわけさ」
と言うわけで永戸達はギルド内に入る。前提レベル100以上のギルドなだけあってか、物々しい空気が漂っていた。受付嬢に飲み物を頼むと、各自散開して人から話を聞いていく。
「この世界ではレベルこそが全てだ! なのにそれなのに、最近だとレベルが低いにも関わらず最強クラスの奴が出てきたそうなんだ」
「…その話を聞かせてくれ」
「なんでも、レベルが1にも関わらず、あらゆる魔法や技を巧みに使い、強い力を持つ奴がいるらしい」
「そんな方が…」
永戸と神癒奈はそれを聞いてふむ…と考え込む。恐らく、今回の件は明らかにそれだろう。そう聞いていると入り口の方が騒がしいことに気づく
「おい! お前のレベルは1じゃないか! そんなやつをこのギルドに通せ…ぎゃひっ⁉︎」
悲鳴が聞こえ、永戸達は違和感を悟り、入り口の方に向く。すると、少しぶっきらぼうな顔をした青年がやって来るのを見た。そして彼はこう言った。
「俺の邪魔をする奴は、誰であろうと容赦はしない」
その場にいた四課は気づいたのだった、きっと、彼がその能力者だと…。




