同じ大戦を生きたものとして
その頃、山賊達のアジトでは、皆で食事を食べていた。
「けっ! 塩しか味付けされてねぇ塩むすびかよ!」
「んなこというんじゃねぇよ、あのイストリアの奴らの顔ときたら、笑えるんだからさ」
化学特務隊の残党達がはしゃぐ中、隊長だけが思い出す。赤いコートを着たあの男の正体を。
(あの男の瞳……俺たちと同じ、死線を越えてきた目をしていた、あの赤いコートも見覚えがある。確か、大戦中…英雄を殺したとされた……)
そう考えると、なぜ今更そんな奴があんな部隊に手を貸しているのか理解できなかった。
(戦争を終えても、楽園など来るはずがないのに)
すると、外の方から爆発音が聞こえてきた。窓から見てみると、曲射砲が全て潰されているのが見える。
「あいつら⁉︎ あの戦力でここを攻め落としにきたと言うのか⁉︎」
驚く隊員を他所に、隊長は武器を手に取る、そして部下に言った。
「武器を取れ、奴らに大戦の恐ろしさを刻みつけてやるぞ」
ーーー
曲射砲を全て潰し、ひとまず街への脅威はこれで全てなくなった、あとは出てきた敵を始末するだけだ。そう思った永戸は敵の出方を探る。すると、建物からゾロゾロと山賊が出てきた。
「来たな! 戦闘開始!」
「了解です!」
「了解」
「はい!」
神癒奈、南雲、煉禍が動き出し、山賊を追い立てる。すると山賊は早速グレネードランチャーを持つと、変わった色の弾頭を装填した。
「特殊弾頭くるぞ!」
グレネードランチャーから発射されたそれは、山成を描きながら飛んでいき、周辺一帯に煙を撒き散らかす。事前に永戸達はガスマスクをつけていたため、対策は万全だが、早期に決着をつけたかった。
「へへへ! この弾頭は、たとえガスマスクをつけてても効いてくるぜ! 特製の防護服がなければな!」
そんな事を聞くと、確かに体に痺れを若干感じる、だが耐えれなくはないと。そう思った永戸達は恐れずに敵を両断した。
「奴ら!薬品の効力に恐れを感じてないのか⁉︎」
続いて軽装備の山賊がアサルトライフルで白銀弾を撃ってくる。簡単に手に入らない白銀をこうも容易く使うとなると、相手も本気らしい。永戸達は弾丸を弾きつつ下がった。
「クレス! 課長補佐!」
「わかってらぁ! これでもくらいやがれ! 強化された装甲車のミニガンだ!」
「ぶっ放しちまいな!」
ランジーが車を止めると、クレスが強力なミニガンを掃射し、軽装備の山賊をミンチに変えた。
「ひゃあっ! 仲間のことも考えて撃ってくださいよ!」
「悪い! 余裕がなくってさ! だがこれで雑魚は蹴散らせただろ!」
ミニガンが自身の真上を飛んだのに対し、神癒奈は怒るも、クレスは謝る。これで敵の数はかなり減った、続いてきたのは重武装の敵だった。これに対してはミニガンを撃っても効果はなく、薬品放射機を手に周囲に毒ガスを撒き散らかす。すると先頭にいた隊長は言った。
「やはりそうか、大戦時、英雄を殺す事を行っていた兵士……英雄殺し、その腕前から見れば分かる」
「ご名答、これ以上、街に迷惑をかけない、誠実に生きると言うのならここで見逃してやる」
「……それができれば、どれだけ苦労しないか」
すると隊長はガスマスクのシャッターを開き、素顔を見せた。でろでろに溶けたような酷い顔だ、おそらく、薬品を使ううちにこうなってしまったのだろう。
「俺たちは大戦で戦ううちに、戻れないところまで来てしまった。英雄殺し、お前だってそうだろう。殺す事しか俺たちには能はない、今更、普通の生活に戻る事など…できるはずがない」
「……そうだな、そこは、俺も肯定してやる。だが力は使い方次第だ、たとえ殺ししか能がなくても、小さなことからできる事を増やせばいい」
「こんな化け物のような姿になった俺を見て言えるのか!」
「……そうだな、すまない」
永戸は謝ると、武器を構える。
「どうしても、やり合うしかないのですか?」
「それしか…道がない、彼らはもう、戻れないんだ」
「…分かりました、僕も力を出します」
永戸から話を聞き、煉禍は覚悟を決めると、夜に月に向かって吠えた。次の瞬間、体が変化し大きくなると。人に恐れられる人狼になる。
『こうするしかないのなら、仕方がないよね』
グルルと人狼の煉禍が大剣を手にすると、ガスマスクなしで山賊へと襲いかかる、どうやらこの形態だと毒ガスが効きづらいのか、煉禍は大剣で山賊を薙ぎ払うと次々と襲いかかる。
「頼りになるな!」
永戸達も遅れずに山賊を次々と制圧する。
「どうして! どうして戦うのをやめないんですか!」
「…もう、遅いんだと思う、彼らもまた、大戦で壊された体の人達だから」
正直武器を置いて降参して欲しかったが、他のメンバーもきっと体調と同じ状態なのだろう、最後の最後まで抵抗してきた。
しかし限界があるのか、普通の人間の体である永戸の体の痺れが酷くなり、立っていられなくなる。
「やれやれ、やっとガスが効いたか、サクッと死んでくれれば楽なものを」
山賊達は永戸に銃を向けて殺そうとするも。永戸がポツリと呟いた。
「……絶望よ、世界に仇なせ」
次の瞬間、黒い濁流が走り、山賊達を飲み込むと消えていった。永戸は絶望の力で体を黒く染めるも、息を苦しいながらもゆっくり立ち上がる。
そして残すは隊長一人だけになった。
「…俺だけか」
隊長は武器を下ろし、戦う意志を捨てる。しかし、次の瞬間、手に何かを持つと言った。
「これはこの辺り一帯を死の土地へと変える爆弾の起爆スイッチだ。少しでも怪しい動きをしたらこいつを起爆させる」
隊長はあくまで勝つ気でいるらしく、爆弾のスイッチを今にも押しそうになりながら永戸達と向き合う。
「それをしたら、お前も死ぬんじゃないか?」
「あぁ、だが、一人でも多く道連れにできるなら、構わない」
「なんて卑劣な!」
「これが大戦流だ! 死ぬ時は一人でも多くの人を殺してから死ぬ! 見境なくな! 甘いんだよ!」
神癒奈が怒りをあらわにするも、隊長も引き下がらない。だから永戸は、拳を握りしめた。
そうした次の瞬間、隊長のスイッチを持っていた手がガブリと黒い巨大な狐に食いちぎられ、同時に、スイッチは絶望に飲み込まれる。
「貴様ぁあああああ!」
「これでしまいだ」
永戸が開いた手を再び握りしめると巨大な狐が隊長に齧り付き、何度か咀嚼した後、跡形もなく消え去った。永戸が狐を元に戻すと、目的は達成され、敵は全て殲滅された。
「…終わったな」
『終わったん…ですか?』
「ああ、もう戻っていいぞ」
「大丈夫ですか⁉︎」
煉禍が元に戻ると、永戸を抱える。神癒奈も近寄ると、永戸の安否を確認した。
「心配すんな、ちょっと毒が回っただけだ、解毒すればなんとか…」
「無理はしないでください! 帰りのトライクは私が運転しますから! だから永戸さんは体を労って!」
「そうだな。悪かった」
そう言うと永戸はやってきたクレスとランジーにも顔を向ける。
「隊長さん! 無事か!」
「英雄! また無茶をしやがって…」
二人の顔も見てると何事もなく終われたんだなと永戸はほっとする。とはいえ濃厚な毒ガスの中前線に立ったのだ、街に降りたらメルトとフィアネリスによる治癒が必要だろう。
「…少し休む、後は…任せた」
そう言うと、永戸の意識はふっと消えるのだった。




