拾われた孤狼
「炊き出しですよー!」
いつものように四課メンバーで炊き出しを行っていた神癒奈たち。今回はランジー課長補佐もついてきて、料理を手伝っていた。
「お前達っていつもこんな調子で炊き出しとかやってきてるんだな」
「そうですよー、こうやって地域の皆さんと交流して、四課は成り立ってるんですから」
神癒奈とランジーが話していると、お腹を空かせた子供達がランジーに寄ってくる。何か持ってたっけなとポケットを漁ると、ユリウス課長がよく食べる都市の異世界間鉄道会社の飴があった、それを子供達に渡すと「大人しく待ってるんだぞ」と優しく言う。
「あまり配給の品や嗜好品を個人に配っちゃいけませんよ?」
「なんでだ?」
「前を見てください」
なんだなんだとランジーが前を見ると、他の子も飴玉を欲しそうにじっと見ていた。それを見てランジーはギョッとする。成る程、個人に与えるのではなく、皆に平等に分け与えねばならない、かつて永戸が備蓄の米を使ったことを怒れないなとランジーは思う。仕方がないので神癒奈が前に出ると、神の力を使って飴玉を創造し、子供達に分け与えた。
「おいおい、いいのか? 神様の力をそんな風に使って」
「どうせ誰も私を止められやしませんよ、だって私、全能神の娘ですので」
職権濫用じゃないかとランジーは思うが、この神様なら確かに止める奴がいるわけないかと自身で納得する。本人も未熟者だと言ってるものだしと。
「どうですか? 炊き出しをいざ経験してみて」
「隊長が如何に人々を思っているのかが分かってくるな」
初めての炊き出しに、ランジーは疲れたのか肩を回す。一方で神癒奈は慣れた様子でスープをかき混ぜていた。
「にしても、調査班は遅いな…もう数時間は経ってるぞ」
「仕方がありませんよ、今回はそれが"メイン"なんですから」
ランジーと神癒奈は山の方を見る…果たしてその先に何があるのか、彼らは知っていた。
ーーー
一方、永戸達は近隣の山の方まで来ていた、理由としては、炊き出しと言ったが本来はこちらがメインで、あることを調査しにやってきたからだ。
「なんだありゃ? 山賊か?」
双眼鏡を手に、クレスが見つめる。その先にはガスマスクをした兵士たちがウロウロしていた。
「軽装備が多いですが、重装備も数人ほどいますね」
「ともあれ、こんな様子じゃ下手に突っ込めねぇな、大戦時の英雄部隊なんだろう?」
「そうだな、……あのマーク、見覚えがある。大戦時の化学特務隊だ」
フィアネリスと永戸が落ち着いて解説していると、クレスが「なんじゃそりゃ?」と聞き直してくる。永戸は分かりやすく言い直した。
「要するに禁止兵器である化学兵器の実験を兼ねた部隊だったってわけ、にしてもまだそんな部隊が賊として残ってたのか、参ったな、あいつらを街へは近づけさせられないぞ」
化学兵器を使われて街に被害が出たらまずい、そうなってしまうと目も当てられない事態になってしまう。
「どうするんだよ?」
「できることならここで始末しておきたいが…化学兵器を出されると俺たちは何もできない」
「じゃあどうするんだ⁉︎」
どうするもこうするもあるかと永戸は悩ましげに言うと、永戸はトライクのエンジンをかける。
「なぁおい!」
「一度山を降りるぞ、あいつらを刺激させないようここから立ち退きをしてもらえたら…いいんだがな」
永戸は困ったように言うとトライクを走らせ、山を降り始めた。それに続くようにクレス達も山を降りていく。あの山賊達が何かしでかさないか、不安を感じ取りながら。
ーーー
山の下の街での炊き出しは、ひと段落を終えていた。
「ひとまず、やれる限りの支援はできましたね」
「隊長達は無事ですかね…心配です」
「隊長殿ならきっと無事でありまするぞ! 頭のキレる人ゆえ!」
「うん、それに、何かあったらフィーネから連絡が来る」
そう言ってるとフィアネリスから早速連絡が来た。Eフォンを通して連絡すると、フィアネリスからはこう告げられた。
【念の為備蓄の米を使っておにぎりを作っておいた方がいいでしょう】
「なぜです?」
【山賊が食料をせびってきた時の事に備えて】
そう言い残すと電話がぷつりと切れた。他に言うことはないのかと神癒奈は思うが、仕方ないと思うと他のメンバーに指示を出した。
「念の為、備蓄の米でおにぎりを作った方がいいそうです!」
「分かった!」
幾分か素直になったのか、ランジーも何も言わずに料理に手をつけていく。米が炊けるまで暇だな、と神癒奈達が一息ついてると、いつの間にかいたのか、可愛い顔をした獣耳の生えた子が山の方を向いて立っていた。
「っ? 貴方はこの街の方ですか?」
思わず神癒奈はそう聞く、するとその子は首を横に張った。
「僕は…違う、世界を渡ってきたの」
どうやら異世界渡航者らしい、するとその子はお腹をぐーっと鳴らす。恥ずかしそうにお腹をさすると、神癒奈はその子に言った。
「食料なら、炊き出しのスープがまだ少し余ってますよ」
スープを急いで持ってきて、その子に渡す、その子はスープをズズズと一気に飲み込むと、入れていたどんぶりを出してきた
「美味しい、もっとください」
「…いいですよ! 困ってそうですし、お腹いっぱいになるまであげますから」
そうして神癒奈が料理を分け与えて、可愛い子はほうっと息を吐くと満足気にする。それを見た神癒奈はにっこり笑うが、そのこの風貌を見て思った。
(体はそれほど小さくない…むしろ、私と同じくらいの身長ですね、可愛い顔、女の子でしょうか? この耳と尻尾、狐というより、狼っぽいですね、旅をしてるって言ってたけど、一体どこからきたんでしょうか)
色々神癒奈が考えているうちに、永戸達が戻ってくる。
「神癒奈、そっちの調子はどうだ?」
「今お米を炊いてる所ですね、永戸さんの方はどうだったんですか?」
「厄介な奴らと鉢合わせたな、大戦中の化学特務隊の残党にであってしまった」
「永戸…さん?」
永戸と聞いて、狼の子は立ち上がると、永戸をじっと見た。それを見てなんだと永戸は思ったが、その子の顔に見覚えがあるのか、あーっと言うと、思い出した。
「ひょっとしてお前、煉禍か?」
「はい! 神忌 煉禍です! お久しぶりです! 永戸さん! 大戦以来でしょうか?」
大戦以来? と聞いて、神癒奈は永戸をじっと見る。すると永戸は答えた。
「こいつも大戦帰りなんだ。所属も404 NOT FOUND隊、こいつもまた、英雄に数えられる一人なんだよ」
「へぇー、こんなに可愛い子が英雄だなんて、意外ですね」
「あの、可愛いって、言わないでください…」
煉禍が嫌がる所を見て、神癒奈はどうしてだろうと首を傾げる。すると永戸はこう答えた。
「あー、煉禍はな、見た目は可愛い姿をしているが、実は男…つまりその…男の娘なんだ」
「僕は女の子じゃありません!」
「えぇええええええっ⁉︎」
その言葉に、神癒奈は驚くしかなかったのだった。




