死神は走る
王城に戻った永戸は、兵士達に指示を出してバリケードを用意させた。
「くそっ、なんであんな奴を守らなきゃならないんだ」
「そうは言いつつも、これが仕事だとは課長補佐だってわかってるでしょう」
ランジーはマガジンをライフルに挿し、永戸は背中から大剣を抜いて身構える。人が通らないようにしっかりと対策をし、多数のバリケードで道を塞ぐ。
「英雄、こんな時お前は緊張とかしないのか? 死を目の前にして」
「しますよ、とても、でもそれよりも、守るべきものが大切だから、俺は立っていられるんです」
「その守るべきものが、あんなクズでもか?」
「あいつを守るわけじゃありませんよ、俺は、世界を守る為に戦うんです」
「…いい心がけだな、英雄らしい」
ランジーはそう言うとライフルの感覚を確かめる。
「久々だ、銃を握るのは、大戦以来だ」
「課長補佐は四課にくるまではどこに?」
「俺は情報課だ、直接現場に赴くことはなかった」
「…現場仕事は初めてですか?」
「あぁ、だから恐ろしいんだ」
永戸がちらりと見ると、ランジーのライフルを持つ手が震えていた。すると永戸はこんな事を言い出した。
「課長補佐はカートゥーンアニメとか見ますか?」
「なんだよ急に、そんなの興味ないが」
「たまに見ると面白いんですよ、善悪関係なくネコとネズミが追っかけ回したり、数々のスーパーヒーローが活躍したり」
「なんでそんな話を今するんだよ」
「いや、そんな話で笑ってくれたらなと思って」
笑う? とランジーは永戸の顔をまじまじと見つめる。
「こんな状況で笑っていられるほど、俺は英雄じゃない」
「だが今のあなたは本部四課の課長補佐だ、俺たちを指揮する担当にある…ほら、少しは落ち着いたでしょう?」
ランジーは自分の手を見る。すると、震えはまだ残っているが、落ち着きを取り戻していた。
「お前…」
「感謝するのは後にしましょう、来ましたよ」
永戸がそう言うと、遠くから淡く光る石を胸元につけた令嬢が城に向かって歩いて来てるのが見えた。兵士たちが止めようとするが、衝撃波で吹き飛ばされては気絶させられる。
「……行くぞ、みんな」
『了解!』
永戸たちは令嬢に向けて駆け出した。令嬢もこちらに気づいたのか、地面からゴーレムを数体出しては襲わせて来た。ゴーレムがまっすぐこちらにくるが、先手として、竜に変身したリオーネが光線の如きブレスでゴーレムを貫いた。
『やったわ!』
「いや、まだだ!」
貫かれたゴーレムの体が再生され、元の形に戻る。するとゴーレムはバリケードを破壊しながら突き進み、リオーネにタックルした。
『力比べ如きで!』
リオーネが頭でゴーレムを押さえつける。その隙に南雲が接近すると、大剣で片腕を斬り落とす。しかし、斬り落とされようとも片腕はすぐに再生され南雲は殴られかける。
「っ!」
「危ないっ!」
永戸が零を使うが、ならない体での使用のせいか安定せず、南雲を助けるとそのまま地面を転がった。
「部下を傷つけさせてたまるか!」
転がっていく永戸たちに狙いを定めたゴーレムに、ランジーがライフルを撃つ。撃ったのは炸裂弾で、着弾するとゴーレムの体を抉りつつのけぞらせた。
「いたた…悪い、怪我はないか?」
「大丈夫、ありがとう、隊長」
ゴーレム自体は狙っても無駄なようだ、ならば令嬢から魔想体を抜き取るしかない。そう思うと永戸は神癒奈に指示を出す。
「令嬢から魔想体を抜き取るんだ!」
「はい!」
神癒奈は駆け出して令嬢から魔想体を取ろうとするも、令嬢はゴーレムを前に立たせ、防ごうとした。
「押し通る! 焔月式抜刀術・零式改!『月隠!』」
不可避の斬撃が飛び令嬢を守るゴーレムはバラバラに砕け散る。当然再生されていくが、再生される前に神癒奈が令嬢に近づくと、魔想体に手を伸ばした。
「取らせるものか!」
令嬢は光る剣を手に出すと、神癒奈の手を切り裂こうとした。神癒奈は手を引き、刀で鍔迫り合いを行う、光の剣の力か、ばちばちと火花を垂らすが、神癒奈は少しずつ令嬢を押す。
「なぜ王子をそうまでして助けるの! 彼は国に背いた逆賊なのよ!」
「私達は王子を救う為に戦ってるんじゃありません!」
神癒奈は刀を振るうと剣を弾き返した。そして彼女の胸元にあった魔想体を手に取ると、それを引きちぎった。
「この世界を守る為に戦ってるんです!」
永戸と同じ事を言い、魔想体が取れたことにより、令嬢の力は出なくなり、永戸たちの勝利が確定する。いや、するはずだった。
「どういうことだ⁉︎ ゴーレムが消えないぞ⁉︎ 令嬢からも力が消えない!」
様子がおかしいことに気づいた永戸は、神癒奈から魔想体を投げ渡される。魔想体自体は本物だ。しかし回収ボックスに入れてもいまだに敵の力は健在、となると、あり得るのは…。
「まさか、もう一個あるのか!」
「そう! そのまさかよ!」
もう一個取り出した魔想体を掲げると、令嬢は力を解放させる。すると、令嬢の体をゴーレムの肉体が覆い、巨大なゴーレムと化した。
「嘘だろ…」
ランジーはその大きさを見て、かつての大戦の兵器を思い出した。世界を破壊する存在を連想し、膝をつく。だが、そんな彼を鼓舞する者がいた。
「何をほうけているのですか! 貴方は課長補佐! こんな所で膝をついてはならないのですよ!」
「だが…あんな敵…とても俺じゃ…太刀打ちが…」
巨大ゴーレムが他のゴーレムを手に握ってはランジーの方に放り投げてくる。ランジーは思わず手で顔を隠したが、直後、眩い閃光によってゴーレムは砕けた。
「太刀打ちできるできないの問題じゃないんです! やらなければどんどん世界は蝕まれる! だから戦うのですよ!」
「俺は……俺はっ…!」
ゴーレムを機剣の一撃で砕いたフィアネリスは、ランジーを立たせる。だがランジーはうわごとのようにつぶやくばかりだ。
「しっかりしてください! 貴方は課長補佐なのですから! っ! 回避を!」
ゴーレムからビームが放たれ、全員が避ける。しかし、ランジーを抱えたフィアネリスは避け遅れたのか、片足がもがれてしまった。
「フィアネリス!」
「心配は…いりません! ナノマシンですぐ再生しますから…!」
もがれた片足を押さえながらも飛び立とうとするフィアネリスに、再びビームの砲口が向けられる。それを見たランジーはフィアネリスを抱えると必死に走り、建物の影へと隠れた。
「…課長補佐?」
「何をしてるんだ…何をしてるんだ俺は⁉︎」
咄嗟に動いた体と、今もライフルの残弾を確認しようとするランジー、彼は銃を手にすると前に出た。
「こっちだ! 化け物め!」
ランジーはフィアネリスから引き剥がすように、建物の隙間を通りながら射撃を入れ、炸裂弾で巨大ゴーレムにダメージを与えていく。そのおかげで、巨大ゴーレムはフィアネリスから目を背け、ランジーの方へと向かった。
「なんで! こんな事をしてるんだ!」
ランジー自身も訳もわからず走っていた。だが、一つ言えるのは、今彼は仲間を想って戦っている事だった。
「死神と呼ばれた俺が、はっ、初めて、仲間を救うなんて! ははは!」
思わず笑ってしまったランジー、しかし次の瞬間、その顔は絶望へと変わる。建物の隙間から出てくると、巨大ゴーレムが彼を待ち伏せるように立っていたからだ。
「あっあぁあ…」
ランジーは錯乱しながらも銃を撃とうとするが、弾切れだった、巨大ゴーレムが腕を振り上げる。もうダメだと想ったその時、振り上げた腕が叩き斬られた。
「な……英雄⁉︎」
「課長補佐、いい所、見せてもらいましたよ」
永戸が大剣を手に立つ。その小さな体でよくもまぁあの巨体を叩き切ったものだとランジーは思うが、その背中に、かつて自分が夢見た英雄像が映った。
「フィーネを守ってくれて感謝します、課長補佐は下がっててください、今度は、俺たちの番です」
そうして永戸が言うと、彼は剣を手に飛び出したのだった。




