偽りの断罪
夜に向けて準備するにあたって、一つ気になる点があった。
「なんでそこまでして元婚約者は王子を襲おうなんて考えたんだ?」
ふと疑問に思った。普通の復讐にしては殺意がありすぎると、そこで、あることを考えた。
「俺は元婚約者の令嬢に話を聞きにいく」
「待ってください! 危険すぎますよ! 今のあなたの体だと!」
神癒奈は仮の体で行こうとする永戸を止めようとする。それもそうだろう。今の永戸の身体で敵と接触するのはあまりにも危険すぎた。
「危険なのは承知の上、大丈夫、万が一の時のために、フィーネもつけるようにする」
「はい、マスターの身は私が守ります」
フィアネリスがお辞儀をすると神癒奈はフィアネリスに寄った。
「永戸さんを…頼みますよ」
「はい、そちらこそ、仕事を果たしてくださいね」
互いに頷くと、永戸とフィーネは令嬢を追いかけるべく王城の外に出て、神癒奈達は中に残った。
「さて、調査の時間だ、総員、ガサ入れをするぞ、重要な情報がないか探すんだ」
『はい!』
ランジーの指揮下のもと、神癒奈達は城の中をあちこち探し回る、しかし、広々とした城の中で何か情報を探すのはかなり難しく、そこでランジーが部屋の条件をした。
「探す部屋は、元婚約者が住んでいた部屋と、王子の部屋だ、そこを重点的に探せ」
と言うわけで神癒奈達はその二つの部屋を漁り、何かないか探す。神癒奈とランジーは元婚約者の部屋を探す事にした。中は整頓されており、目ぼしいものはない。
「うーん、綺麗に片付けられていて何か重要そうな情報はどこにもないですね…」
「当たり前だ、普通そんなものは普通に置いてあるわけがない、大抵こう言うものは…」
ランジーが机の引き出しを開くと、ある仕掛けを見つける。
「こう言うところに隠されてたりするものだ」
引き出しは二段仕掛けになっていて、ぱこっと上の蓋を取ると、中から重要そうな情報が見つかった。神癒奈はおおーっとランジーに感心するも、彼は「簡単なものだ」と言う。
「これは…王子の、汚職か? 民への重税に、資金の横領まである、こんなものがあったとは」
そうして彼は紙を一枚一枚めくっていく。汚職は様々にあり、王子そのものの蛮行だけでなく、最後の方にめくると、令嬢に対する書き物もあった。
「これは、令嬢に対する告発状? 国家反逆の罪で断罪だって⁉︎ なんだこの紙は!」
珍しくランジーが声を荒げる。どう言うことかと神癒奈は聞いた。
「これは、いったいどう言うことでしょうか?」
「婚約破棄された令嬢は、かつて婚約者を務めていた反面、王子の不正を暴いてきたんだ! いつかは公に出し、王子を告発する為に! だがきっと、恐らくそれが王子にバレて、婚約破棄と同時に国家反逆罪の罪状で断罪されてしまった! だから彼女は今、復讐を目論んでいるんだ!」
この紙を持ったランジーは部屋を出ると、謁見の間に戻った。そして王子に紙を見せつけると怒鳴った。
「おい! これはどう言うことだ! 一国の王族がこんな蛮行を許していいのか!」
追いかけてきた神癒奈の前で、ランジーは王子にそう問いかける。すると王子はこう答えた。
「何をそんなに怒ることがある、王族とは常にそんなものだ、民から金を巻き上げ、自分たちが暮らしやすい国を作り、邪魔するものは排除する、昔からそうだ」
「そんな事は!」
同じ王族である神癒奈が何か言う前に、ランジーは王子に近寄ると、顔をぶん殴った。意外だった、ランジーがこのような行動をとることが。
「いぎっ⁉︎ いきなり何をするんだ!」
「ふざけるな……そんな事のために1人の女が悲しみ、国中の人間が苦しんだと言うのか! こんな間違った政治で、国の未来などあるはずがないだろう!」
ランジーは感情のままに王子を怒鳴る。
「私こそがこの国の全てだ! 私さえ良ければ、あとは国の人などどうだっていい!」
「こんな腐った奴のために、正しいことを言った奴らがみんな死んでいったと言うのか!」
ランジーは証拠の紙を纏めると…ファイルに収める。
「何をするつもりだ⁉︎」
「この紙は、関係諸国と国民の目に見えるところにばら撒かせてもらう、たとえ殺されなくても、真に断罪を受けるべきは、お前達だ」
そうしてランジーは部屋から出ていく。それを見た神癒奈は驚いた。ランジーがここまで強い言葉であったことに対して。
この王子達は確かに救えないものかもしれない、だが、救わなければならないことに対して、神癒奈は心の中で不安を抱えるのだった。
ーーー
一方、永戸達は令嬢のもとに辿り着いていた。国家反逆罪と扱われただけあったか、かなりの僻地に飛ばされたようで、途中移動はフィアネリスの転移も利用して、令嬢のところに着いた。令嬢についての情報は、フィアネリスを通じて伝えられた。
意を決して古びた小屋の扉を開ける。するとそこには、みすぼらしい姿をした女性が座っていた。
「貴方達がくるのは分かっていたわ、"運命"が教えてくれたもの」
運命と聞いて、永戸は即座にフォーチュンを思い浮かべる。彼がこの事件にも絡んでいるとはと思うが、それは置いておいて、永戸は令嬢に言った。
「城から情報は伝えられてきた。お前が怒る気持ちはごもっともだろう、だけど、やめた方がいい」
「どうして? あの人を放っておくと、また大勢の国民が犠牲になるのよ!」
「言いたい事はわかってる、けど、怒りに身を任せて人を傷つける道を選んじゃダメだ、それは、お前がとっていい手段じゃない」
永戸は諭すように令嬢に言う。しかし令嬢は永戸と向き合うと言った。
「誰かがやらなければならないの! 王子への、真の意味での断罪を!」
「それは今のお前の役目じゃない、時が来れば、俺たちが真実を国中に明かす、だから堪えてほしい」
「そんなことできない! あの尻軽は! 自らの保身と仲間欲しさに私を捨て、聖女を婚約者に選んだのよ! そんなことをするやつを前に、我慢ができるとでも⁉︎」
令嬢は怒りで身を震わせる。瞬間、彼女から溢れんばかりの妖気が出てきた。
「……持ってるんだな、魔想体を、それを、捨てる事はできないのか?」
「できるものか! あの王子を断罪するまで、私は復讐することを捨てない!」
その決断を永戸は重く受け止める。そしてほうっと息を吐くと、永戸は言った。
「お前の怒りは本物だろう、だがその力を使えば、お前も”なり損ない”に堕ちる、それだけは止めさせてもらう」
永戸は目を閉じ、頷くと小屋から出て城へと戻る準備をする。
「彼女をここで止めないのですか?」
「今の俺には無理だ、いくら神癒奈から借りた体でも、あの殺気を食い止める事はできない、夜、仲間と共に決着をつけよう」
そう決断した永戸は転移で城へと戻る。そうして、この歪な戦いの行き先は、夜の戦いに持ち越されたのだった。




