小さな英雄とかつて死神と呼ばれた者
「おいおい嬢ちゃん、やけに可愛い子を連れてきたじゃないか? いつの間に娘を作ったのかい?」
「店長俺だよ俺! 今は訳あってこの体で過ごしてるんだよ!」
ダイナーの店長に冗談を言われ、永戸は可愛い体で怒りながらハンバーガーを受け取る。
「でもその体の生活には慣れたでしょう?」
「あぁ、慣れたくはなかったがな」
永戸は歩きながらコーヒーを飲むが、子供舌に子供舌が合わさっていつもより苦く思えた。あれから神癒奈の呼びの体で暮らしているものの、不便なことだらけだ。女性の体というものそのものがまずよくわからないし、等身が変わって体の使い方も難しくなった。だがそれでも、彼は四課の仕事を全うしていた。
そうしてしばらく歩くと本部に着く。エレベーターに乗っては四課のオフィスに向かうが、ここでランジーと出会った。
「隊長、今きたところか」
「そんなところです」
ランジーと子供と化した永戸が並んで歩く。するとランジーはこちらをチラチラと見ながら言ってきた
「しかしまぁ、何とも情けない身体だ、これが四課の隊長なのだからな」
「俺とて好きでこの体になってるわけではありません、困ることだらけですよ、本当に」
互いにピリピリとした関係を見せつつ、四課のオフィスに入る。いつものように席に座ると、買ってきたハンバーガーを神癒奈達と分けて食べる。
「少なくともハンバーガーを口一杯頬張る事ができるのはいいことか」
申し訳程度の喜べることに、皮肉げに言いつつ、永戸は今日の仕事の資料を読む。
「しかし、隊長殿がこの体になってから、戦力は劇的に下がるとは…」
「しょうがねぇだろ、今まで隊長さんと神癒奈ちゃんにおんぶに抱っこしてもらってたんだから」
「とはいえ、体が治るまで心許なく感じまする」
「我慢してくれ、俺も戻りたいがまだ体は修復中なんだ」
フォーチュンにやられてから、裏で神癒奈が急ピッチで永戸の体の損傷を治している。同時に転生ボーナスで新たに身体能力の強化と魔力回路の増設をするつもりらしいが、それまではこの予備の体でどうにかしなければならない、なんとも不安な話だった。
「神癒奈、俺の体は治りそうか?」
「身体自体はもうちょっとで治りそうですけど、強化に手間がかかりそうです、なんせ元の人間の体に色々強化を挟むことになるのですから」
神癒奈は現状の状態をフィアネリスに見せてもらう、身体そのものは治りつつあるが、それ以外はまだ手付かず、と言ったところだった。
「無茶でもしない限りゆっくりでいいよ、ここ最近の仕事は課長が無理ない仕事に変えてくれてるし」
とはいえ、今日の仕事は骨が折れそうだった。なんせ今日の仕事はなりそこないの兆候がある存在の抑止だからだ。
「ふむ…流石にこの任務は現在の永戸君では対処は難しそうだ、ランジー君、手伝いに行けないかね?」
「俺が⁉︎ ですか⁉︎」
唐突に補充メンバーとして抜擢され、ランジーは驚く。
「うむ、今の永戸君はなり損ないに対抗するにはあまりにも心許ない、そこで君の力を借りたいと思った訳だよ」
そう言われてもとランジーは思う、彼自身、前線に立てるような人材ではないと思っている。前線で戦う彼らに追いつけるか、怪しいところだ。
「心配せずとも、君の腕は買っている、君ならできると信じてるよ」
「そう言われましても…」
ランジーは困るが永戸からすれば、現場の指揮官が1人増えるのはありがたい話だった。永戸自身が選択できなかった時の保険として立ち回れるからだ。
「分かりました、行ってきますよ」
そう言うとランジーは古めかしいライフルを手に、立ち上がる。
「お前達、仕事だ」
「分かりました、課長補佐」
そうして永戸達は、新たな任務の地へ行くこととなった。
ーーー
新たな任務の地は巨大な城の前だった、メンバーは永戸達3人と、ランジー、南雲、リオーネの3人だ、ここで何をするのか、ランジーは言う。
「今回の任務はこの城の王子から話があるそうだ」
「王子が? 一体どんな任務なんでしょう?」
「さぁな、碌でもない事は確かだ」
永戸はひとまず行ってみようと城の中へと入っていく。白は煌びやかな作りになっていて、いかにも一国の王城という雰囲気になっていた。
「こんな綺麗なのに、人も何も問題なさそうなのに、一体何の任務をさせられるのでしょうか?」
「それは、王子に聞けばわかる」
「そうね、簡単な話だわ、早く行きましょ」
そうして王城の謁見の間にたどり着くと、衛兵によって扉が開かれ、永戸達は中に入った。するとそこに待っていたのは王は今いないのか、王子と聖女らしき人がいて、彼らはこちらに気づくと急いで近づいてきてしがみついてきた。
「助けてくれ! 殺されそうなんだ!」
「殺されそう? 一体どういう事だ?」
必死の形相でしがみつく彼らに対し、謎に思う永戸達、すると彼らは言った。
「私は以前! 別の婚約者を持っていた! だが、今の婚約者の方が政界としても国の王子としてもいいと知り、婚約破棄をして新たに婚約を申し出たのだが! その婚約破棄をした相手が復讐に来ると予告したのだ!」
「なんだ、その程度なら衛兵にでも助けて貰えばいいじゃないか」
「それが…衛兵にその相手を始末するよう命令したが、どの衛兵も酷い姿で帰ってくるのだ! 最初は生かされていたが、徐々に衛兵の傷が増え、気がつくと死人まで出る始末だ! 悪魔だ…きっと悪魔の仕業に違いない! 悪魔が彼女に手を貸したんだ!」
悪魔と聞いて魔想体とフォーチュンを連想するが、永戸達はまだ決めつけるには早いと思い、ランジーが王子に言った。
「それは災難だっただろうが、本当に悪魔が手を貸したかは定かではない、少し落ち着いたらどうだ」
「これで落ち着いていられるか! 殺されるのかもしれないのだぞ!」
ランジーに対して王子は怒鳴るが、はぁぁとランジーがため息をつくと、ランジーは王子の襟元を掴み言った。
「いいか、元婚約相手が暴走したのはお前の責任だ、お前が勝手に婚約を破棄して恨まれたのが悪い。俺たちはお前の尻拭いをしにきた訳じゃない、世界を守るために来たんだ、そこを履き違えるな」
掴んだ手を離すと、王子は震えた姿で膝をつく。すると、伝来の兵士がやってきた。
「王子! お逃げください! 元婚約相手が今夜! あなたの元に襲いにくると宣言しました! 逃げる準備を!」
「逃げるってどこへ⁉︎」
「とにかくどこへでも逃げてください! ここは我々が食い止めます! 王子は安全なところまで、どうか!」
「無理だ…彼女は、どこまでも追いかけてくる」
震えた声で言う王子に対して、永戸もため息をつくと王子に言った。
「仕事分だけは守ってやる、心配はするな、だがきっちり、この責任の重みを背負うんだな」
「分かりました!」
そうして永戸達は夜に向けて準備をしだす、暴走した元婚約相手を止めるために。




