不完全な転生
「俺は…そうか、死んだのか」
この感覚を味わうのは二度目だろうか。飛行機事故で死んだ時以来だなと思う反面、いつかはくるだろうと思っていたことだと彼は思う。
「…何で死んだんだっけ、俺」
思い出そうとしても頭にモヤがかかるようにどんどん記憶が薄れてく。彼の魂は今、世界に還ろうと、消え行きかけていた。
「何だか、大切だったものを置き去りにしていったような気もする」
彼は記憶を振り返る。そこには、彼と一緒に笑顔で映る狐の女性がいた。その事を思い出すと、胸が苦しくなる。
「終わりか……天国ってあるんだろうか、それとも地獄行きだろうか」
彼がそう思った時、微かに声が聞こえた。
ー行か……で!ー
懐かしい声だ。この声を聞くと、どこか安心する感じがする。だがもう戻れない、世界に還ってしまえば、後はもう、待つのは記憶も何もかも漂白された魂がまた新たに生を受ける事だ。
ー置いて……ないでくだ…い!ー
「俺だって、置いて行きたくはなかったな」
どんどんと薄れ行く意識の中で、彼は思う。彼女を置いて、死に行くのは悲しいなと。だがその時だった、彼の魂が、突然誰かに掴まれた。暖かい手の感覚を感じる、ずっと握っていたいような、そんな心地の手だ。その時、彼女の声と共に、魂が引き上げられた。
ーまだ死なせはしません! 私が、必ず貴方を助け出します! このまま終わらせはさせない!ー
ーーー
「っ!」
永戸が目が覚めると、不思議な空間にいた。空には眩く輝く星々と月、地面には薄く張った水、絶望との戦いの時に見た景色だ、懐かしいとさえ思えてくる。
「…っ! よかった…転生は成功しました!」
次に彼は倒れているのがわかった。大事な狐の声が聞こえ、体を起こしてみると、少し変な感覚がする。まず音が聞こえた位置だ、顔の横ではなく、頭から聞こえた気がする、続いて体の大きさだ。何だか妙に小さく思える、サイズで言えば玉藻前くらいのサイズだろう。
「永戸さん! 私が分かりますか⁉︎ ちゃんと見えてますか⁉︎」
「ああ、分かるよ、神癒奈、助けてくれてありがと…」
感謝の声を出した途端、妙に高い声が出た、おかしい、明らかに何かが。
「ええと、事情を説明します。まず貴方は、フォーチュンと呼ばれる敵によって殺されました。肉体は回収して治療と"改良"を施してる最中なんですけど……まだ全然治ってなくて、だからその…予備の体を用意しました、その、私の力で」
「予備の体?」
何か自分を確認できるものがないか探す。すると水面があったので覗いてみた。その時目に映ったのは、黒髪のちょっとやさぐれた男性ではなく、狐耳の金髪の小さな少女だった。
「な、ななな、何じゃあこりゃあああああああ!」
流石にこの事態には、彼もここにない太陽に吠えざるをえなかった。
ーーー
俺の名前は工○新一…の流れから始まるあの名探偵漫画みたいな展開になり、永戸は現世に戻ってくる。戻ってきたのはいいが服がダボダボだ、コートの裾に体のサイズがが明らかに足りてない。
「ああ! 何て可愛い姿なのでしょう! 今のうちに私の秘蔵ログに保存しておかねば!」
そうしてフィアネリスは写真を撮りながらも自身の記憶にも刻みつけて行く。
「保存するなー!」
永戸がポカポカ殴ろうとしたが、殴った途端、フィアネリスが吹っ飛んだ。
「へ?」
「あー…私の予備の体ですから、当然力も相応になってます、人間の時と比べないほうがいいですよ」
「それを先に言え!」
ともかくまずは服だと永戸は思うが、神癒奈が指を振るうと、永戸の服装はちょうど良いサイズに収まった。
「これでいいですか?」
「魔女に施しを受けるシンデレラか俺は」
だがこれで服にも困らなくなった。最後に残ったのは…。
「この武器の山どうするよ」
永戸が普段装備してるリボルバーにガントレット、戦術刀に聖剣とガンブレード、これ全部を装備するのは流石に無理があった。それどころか、聖剣を抜き、振るう事さえサイズ的に無理だろう。ひとまずガンブレードの鞘に収めた聖剣だけでも背中に担いだ。
それでもかなりでかい、振り回すのには苦労はしないだろうが、以前の体のようには扱えないだろう。
「何はともあれ、命あっての物種というか、助かったよ」
ひとまず感謝しておく。転生は場合によっては何回もできるが、同じ魂を持っての転生は一度きりが多い、それを神癒奈が無理矢理転生を自分の担当にして魂を引き上げてくれたのだ、感謝するところしかない。
「でも、いいのか? こういうの、神様の世界では問題になるんじゃ」
「私は何度か他の神様に活動の妨害を受けてます、そのぶんのしわよせと考えれば他の神も黙ってくれるでしょうね
どうやら運命に見放されても幸運はついて回ったようだ。永戸はひとまずは自らの体以外は丸く収まったことにホッとする。
「にしてもあのフォーチュンとかいう奴、一体どうやって俺を殺したんだ? 攻撃したようなそぶりは無かったぞ」
「恐らくですが、因果律攻撃かと?」
「因果律?」
たんこぶを作って戻ってきたフィアネリスが答える。
「はい、マスターのバイタルは死ぬ直前まで確かに安定してました、ですが記録を見返しても、貴方は唐突に死んだのです。まるで絶対死ぬ! が確定されたかのように」
「それが、因果律攻撃?」
「説明すると長くなるので端的に話しますと、貴方は死ぬ運命を押し付けられて死にました。昔あった漫画で書いたら書かれた人は死ぬノートってあったでしょう、アレと同じです」
それに納得すると永戸はフォーチュンについて考える。
「恐らく今の俺たちじゃ普通に戦っても勝ち目はない。あの因果律攻撃をどうにかしないと」
「ええ、そうですね」
「まぁその対策はおいおい考えましょう、幸い我々には時間がありますゆえ」
というわけで永戸達は新たな敵に不安を抱えたまま、四課へと帰るのだった。
ーーー
「これが…永戸君かね⁉︎」
還ってきて早々ユリウス課長には驚かれた。まぁそれもそうかと永戸は思うも、皆に事情を話す。
「隊長さんが何もできずに殺される相手なんて、どうやって殺せばいいんだ?」
「それはこれから考える、あの因果律攻撃を捌く方法をな」
「隊長、勝てる見込みはあるんですか…?」
「奴に攻撃は届かなかった、けど、届かなかっただけで奴にダメージを与えられなかったわけじゃない、チャンスはある」
「隊長ならきっと勝てる、私は信じる」
永戸はそう分析すると椅子に座ろうとする、席が高いせいか座りづらかったが、何とか座れた。
「それで、次の仕事は?」
「はい、次の仕事は…」
小さな体ながらいつも通りに仕事に戻る永戸、彼の目にはまだ、希望の炎はともっていたのだった。




