英雄殺し、散る
魔想体の英雄となってしまったフローレアを止めるため、永戸達が武器を手に戦う。
『射抜け』
フローレアのその一言で大量の矢が降り注ぎ、永戸達を襲う。
「何これ⁉︎ ただの矢じゃ…ありません!」
「それもそのはずだ! これは、フロー自身のエゴが籠った矢なんだから!」
大量の矢が永戸達に降り注ぎ、攻撃する暇も与えてくれない。その時、レナードが言った。
「おい! あいつはなんなんだ! なんであんな事になっている!」
「魔想体と呼ばれるやばい物質のせいで暴走してるんだ! 止めないと…世界の危機だぞ!」
「どうしたらいい!」
「一般の冒険者が! この事件に絡むな!」
永戸達は矢を防ぎ続ける。だが、神癒奈の停止も限界が来ていて、すぐにでも割られそうだった。しかしその時だった。
「がはっ⁉︎」
どすりと、槍がフローレアに刺さる。
「あの槍! 一体誰が投げた!」
「俺だ!」
投げたのはレナードで、レナードは胸を張りながら言った。
「あいつのおかげで、俺は候補者から抜けられた! ここにある死体共にはならなかったってわけだ! 俺はあいつに借りがある! お前らなら止められるんだろう!」
「レナード…」
「ケイ…後は頼むぞ」
「…分かった!」
永戸とケイは立ち上がると2人で聖剣を構える。
「俺は次の一撃が限界だ、もしもの時のためにお前に頼みたい」
「わかった、行くぞ!」
ケイが真正面に走る。フローレアはその彼に向けて言う。
『貫け』
槍の雨が降り注ぐ中、彼は剣で弾きながら飛び上がり、切る。しかし、槍で塞がれ、弾かれた。
「きりちゃんを忘れてもらっちゃ困るっすよ! 叩き切れ! エルメイル!」
桐枝の一撃が槍によって防がれるも、隙こそはできた、今度はケイが聖剣を携え、振るう。
「光を宿せ! レイマルク!」
光波が飛び、フローレアを切り裂くと、魔想体が露出した。
「永戸ぉ!」
「わかった! 神癒奈! 頼む!」
「はい! 行ってくだ…さい!」
神癒奈が勢いよく爆風で永戸を飛ばすと、永戸はフローレアの胸元に取り付き、魔想体に触れた、次の瞬間、永戸の意識はフローレアと繋がった。
その時見たのは、フローレアが故郷を飛び出すまでの話だった。
【魔法も弓術も使えない能無し】
【槍術なんて野蛮な術を覚えて、何するつもり?】
【英雄? 人間の考えるようなことを言うのね、貴方って】
「違う! フローは! フローはただ! 英雄になって皆を導くヒーローになりたくて!」
【ヒーロー? 馬鹿馬鹿しい、おぞましい力を持つ貴様に、ヒーローなど相応しくない】
沢山の声が聞こえてくる空間で、フローレアがうずくまっていた。
「私は、私は! ただ、みんなを守りたかった、ただそれだけなのに!」
次の瞬間、焼け落ちたエルフの里が永戸の目に映る恐らくは魔物の襲撃であろう、里の者が応戦するが次々と死んでいった。
「誰も守れなかった、力を持ってしてでも、だから私は、英雄になって、今度はみんなを守れるようにと思って、都市に来た、けど、結局は隊長達に支えられてばかりで、何にも守れやしない! だから、もう何でもいい! 私に力を! 英雄としての力を!」
するとフローレアから強い風が永戸に吹くが、永戸はそれに耐え、フローレアに近づいた。
「フロー! もういい! 使命のために英雄を志すのは構わない! でも、こんなことで力を得ても待ってるのは破滅だけだ!」
「嫌だ! それでも! 私はこの力を離さない!」
往生際が悪く永戸が触れようとするとまるで殻に籠るように触れさせてくれない、だが永戸は零を発動させるとその殻をぶち破り、フローレアの手を掴んだ。
「隊長⁉︎ 何を⁉︎」
「聞くんだ! 英雄になる条件なんてのは、そんな難しい話じゃないんだ! 誰かの前に立つ光になる、ただそれだけで英雄になれる! 英雄は! システムに選ばれてなるもんじゃない! 自らの意思で、泥水を啜ってでも、何度でも立ち上がって、誰かを守り抜くと誓う、そう言う奴が英雄になれるんだ!」
「でも! 私には、英雄になる器なんて…」
「器なんてどうでもいい! お前は! ありのままのお前で英雄になればいい! だから戻ってこい! フローレア!」
そう言った途端、フローレアの瞳から涙が溢れ出し、こう言葉を紡いだ。
「隊長…"殿ぉ"!」
「あぁ! 英雄を目指せ! 俺たちの背中を追え! お前は、まだまだ強くなれる!」
その言葉と共に、永戸達の意識は戻ってきて、フローレアの胸元から、魔想体が外れた。
瞬間、光が溢れ出し、力が霧散すると、元のフローレアが戻ってくる。
「隊長殿……まだ私は、英雄を目指せるでありますか?」
「当然だ、お前ならなれる、大切なものを守るヒーローに」
そうして永戸は魔想体を回収し、任務を完了する。
「お、おい」
「ん? なんだよ?」
「お前ら…一体何なんだ、こんなおかしな事態を何とかしてしまって、都市では見かけない顔だが…」
疑問を持つレナードに対して、永戸達は笑って言った。
「ただのヒーローだよ、ほら、これを見とけ」
そうして記憶処理装置をつかうと、レナードの中から彼らの記憶は消え、彼は「そうだな…」と言い残すと去っていった。
「さて、帰ろう、仕事も終わったし」
そうしてこの場から皆で立ち去ろうとするが、その時だった。
「ククク…いい物語を見せていただきましたヨ、英雄殺し様」
「っ!」
永戸達は突然誰かがいると気づき振り返る。そこには、黒い燕尾服を着た仮面の細い男が立っていた。
「お前は……!」
「貴方ですか! 魔想体を振り撒いていると言う輩は!」
永戸達の反応を見ると男は高笑いし言った。
「フハハハハ! そうとも! 魔想体をばら撒いたのはこのワタシ、ああ失礼、名乗るのを忘れておりましたね、私の名前はフォーチュン、その名の通り、運命を司りし者!」
フォーチュンと聞くと、フィアネリスは頭痛を起こした。それは、これまでひた隠しにされてきた膨大な彼の情報が彼女に流れ込んできたからだ。
「間違い…ありません! 彼が! これまでの事件の、発端です!」
「なら! ここでお前を切る!」
「そうですかそうですか、ならこう宣言しましょう、『10秒後に永戸は死ぬ』」
「ふざけたことを!」
永戸は聖剣に光を宿し、斬りかかる。
「ほうほう、何の対策もせずにくるとは、野蛮ですネ」
「減らず口を!」
懐まで接近すると、永戸は剣を構える。
「これでお前とは決着……っ!」
次の瞬間、永戸は存在のズラしによる回避も何もできることなく、ズタズタに斬られた。
「な……に………?」
永戸は致命的なダメージを受け、全身から血を垂れ流しながら倒れる。
「まだ…死ねな……」
「『運命』には抗えない。これで、絶望の力は私のモノ!」
そうして倒れた永戸からフォーチュンは絶望の力を奪い取ろうとするが神癒奈に切られて阻まれた。
「おっと…外野を忘れてましたネ」
「外野と言ってもらっては、こまります! よくも…よくも永戸さんを!」
焔月式抜刀術・零式を発した殺気剥き出しの神癒奈に、フォーチュンもズタズタに斬られる。するとフォーチュンは傷ついた体で懐中時計を取り出すと言った。
「ふむ、時間ですか、意外と早いモノですネ、まぁ仕方ありません、彼の力を奪うのはまた今度にしましょウ」
「逃げるな!」
神癒奈はもう一度斬りかかるが、フォーチュンは高笑いと共に消えていく。
「忘れない事です、死の運命はいつだって貴方達を見ている事ニ、ではさようならー!」
フォーチュンが消えた後、神癒奈は少しの間虚空を見つめていたが、ハッと思うと永戸に駆け寄った。
「永戸さん! そんな……! こんな所で! 死なないでください!」
神癒奈が何を言っても永戸は答えない、もう彼は…命の炎が消えかけていた。
「お願い! 生き返って…!」
どれだけアンプルを打っても、どれだけ神の力で願っても生き返る事がなく、永戸の命の炎は燃え尽きる。その時、神癒奈は彼から魂が抜けていくのが見えた。
「行かないで! 私を! 置いていかないでください!」
魂が世界へと還って行く。神癒奈はただそれを見守ることしかできないのかと思ったが、ここでフィアネリスが言った。
「転生です! 神癒奈さん! 今ならまだ間に合います! 彼を転生させるんです!」
「転…生?」
「はい! 貴方と魔力がつながったマスターなら魂もつながっているはず! だから彼の魂を今すぐ別の容器に移し替えるんです! 彼が世界へと還る前に!」
「っ! そうか、その手が!」
神癒奈は世界へ還ろうとする魂を手に取る。そして叫んだ。
「まだ死なせはしません! 私が、必ず貴方を助け出します! このまま終わらせはさせない!」
その言葉を言った途端、神癒奈はその魂と共に、神域へと飛ばされたのだった。




