選定の時
時は夜になり、ついに選定の時がやってきた。広場には幾多の戦士達が集まり、英雄になるのを今か今かと待っている
「一体誰が英雄になるのか、楽しみでありますな! 隊長殿!」
「ああ、そうだな」
永戸は広場に集まった古今東西より来た者たちを睨む。果たして本当にこの中から英雄は選ばれるのかと。その時だった。
「おお! 選定の座が輝き出したぞ!」
誰かがそう言うと、広場の前にあった選定の座と呼ばれるモニュメントから光が出だす。人々は誰が英雄になるのかと騒ぎ出し、広場にいた英傑たちは我こそはと身構える。すると、光は空へ放たれ、上空から落ちてくると、1人の人間にその光が宿った。
「俺が…俺が英雄に? やったぁ!」
他の人から選定の印が消え、その1人の人間の選定の印が光ると明らかにその者に力が宿る感覚が感じられた。だが反対に、周囲から、負の力が感じ取られる。
「何故…何故俺は選ばれなかった!」
「私! こんなに努力したのに、どうして選ばれなかったの!」
「あいつ! ズルしたんだ! きっと自分が英雄になるようにと!」
広場の雰囲気が英雄の誕生を祝福する者の声と、それを妬む怨嗟の声に分かれる。永戸達はなり損ないが誕生するのかと構える。そうしていると、彼らの落胆や怨嗟の声が、あることをきっかけに続かなくなった。
「なんだ…力が、抜き取られる! 自分が、消えてしまう!」
「嫌だ! 俺から力を奪い取らないでくれぇ!」
力が抜き取られた者達が、次々となり損ない化していく、どうやら選定の場にいた候補者全てのようで、力を抜き取られたものは倒れるかなり損ないと化して行った。広場にいた者たちが皆影響を受けており、事態は死屍累々の地獄絵図と化していた。
ただ、それを見て驚いた者がいた。
「なんだなんだ⁉︎ 候補者達が、次々と倒れるか化け物に変わっていくぞ!」
それは、昼間フローレアが絡んだレナードという男だった。レナードは槍を手にすると、次々となり損ないを屠っていくが、やがて押されてどうしようもならなくなる。
「俺たちも続くぞ!」
そうして永戸達も続こうとするが、ここで、候補者から抜き取られた力が、選ばれた英雄に集結する、すると英雄は眩い光を放ち、英雄そのものもなり損ない、光る鎧をまとう魔物となった。
「我が闇を切り開いて見せようぞ」
口調までもが変わってしまったソレが、剣を振るう。すると、一撃でなり損ないの軍勢が屠られた。その威力に、永戸達は驚くが、なり損なった英雄と向き合う。
「なんて力なんだ!」
「レナード! 下がっているんだ!」
「ケイ⁉︎ お前無事だったのか!」
「っ! あそこを見るっす!」
レナードは巻き起こる旋風に槍を突き立て堪える。そんなレナードをケイは下がらせる。すると、桐枝が声を上げ、永戸達はあることがわかった、英雄の選定の座に、妖しく光る石があることが。
「魔想体! …あれを取らないと、この惨劇がまた繰り返されることとなるのか!」
永戸達はそれを取りに行こうとしたが、英雄に阻まれる。
「我らの邪魔をすると言うのならば、貴様も切る!」
「ならばお前を切ってでも奪い取ってやる!」
そうして永戸達は交戦を開始する。剣を手に取った英雄が、永戸と剣戟を結ぶ。人から力を奪い取った分の強さだ、その強さは計り知れなく、永戸は零を全力で使いながら抵抗した。
「フローレアと桐枝は魔想体を!」
「承り申した!」
「りょーかい!」
フローレアと桐枝を選定の座に行かせ、永戸は剣を英雄に振るう、だが英雄は依然として余裕のある表情で永戸の攻撃を弾き、フローレア達の方へ結晶の刃を飛ばす。
「させない! 光を宿せ! レイマルク!」
ケイが剣を手に結晶を弾き、聖剣から光波を飛ばす。その一撃が英雄をのけぞらせた。
「獲った! くらえぇ!」
永戸が剣を突き刺したことで零が発動、英雄から少しずつ力が抜けていく。
「ぐっ……英雄の加護を受けぬ化け物め……よくも!」
永戸の攻撃に、その調子だと神癒奈とフィアネリスも続き、神癒奈は剣を持つ手を、フィアネリスは首元を切り裂いた。英雄はがくりと跪くが、すぐに体勢を立て直すと言った。
「その程度で…死ねるものか」
英雄は今度は大量の剣を出すと、ビットのように一斉射出してきた。このままではまずいと永戸は全員に指示を出す。
「俺の後ろにつけ! 光を放て! イクセリオス!」
永戸の聖剣から光のビームが飛び永戸達に降り注ぐ剣を次々と撃ち落とす。しかし、第二、第三の剣が降り注ぐ。
「まだだぁ!」
永戸は聖剣を振るい、剣を撃ち落とすが、剣を振る度に肉体の魔力回路が断裂する感覚が襲った。彼の身体は普通の人だ、聖剣を満足に振るえるだけの力はない。
「永戸さん! …守って!」
神癒奈は自身の持つ能力の一つ、停止の能力を発動させ、剣を防いだ。直後、永戸は崩れ落ちかけるがフィアネリスにキャッチされる。
「貴様達を潰して、我が世界を救いにかかろう…」
「そうはさせないっす!」
英雄が声の聞こえる方を向くと、そこには桐枝とフローレアが選定の座から魔想体を抜こうとしていた。
「やめろ! その座に触るな!」
英雄がよそ見した直後、永戸によって白銀で作られた刀、白魔が鎧の隙間に突き立てられ、英雄は急速に力を失っていった。
「させるか!」
「己ぇ!」
英雄が永戸を引き剥がそうとするが永戸は言った。
「桐枝! フロー!」
そうして2人は魔想体を抜こうとするが、この時、2人の脳内に変な声が聞こえてきた。
【力を望みたいか? 英雄になりたいか?】
そんな声が聞こえ、2人は止まる。
「この…声は⁉︎」
「……」
桐枝は抵抗するように頭を押さえ込むが、フローレアは何も言わず、その声を聞く。
【力が欲しいか? 巨悪を倒す程の力が】
「そんなの……いらないっす!」
桐枝はその声を振り払い、魔想体を取ろうとする。だが、フローレアはそんな桐枝の手を払った。
「フロー…何を⁉︎」
「私は、その力が、欲しい、私も、英雄に、選ばれたい」
「フロー! やめろ!」
永戸の叫びも虚しく、英雄から光が抜けると、フローレアに向けてその光が飛んでいく、そして、フローレアにその力が宿ると、桐枝を吹き飛ばすと同時に英雄の座から魔想体が胸元に埋め込まれた。
「私は、英雄を志した者、しかし今は違う、私は、今、英雄である」
フローレアはそう宣言すると長大になった槍を持ち、振り翳す。そしてそこから複数の力が溢れ出すのを見て、永戸は言った。
「最悪の展開が訪れてしまった……俺たちは、フローレアを止めなければならない!」
絶望を抱えながらも永戸は立ち上がり、仲間達と共にフローレアと向き合うのだった。




